月のない夜は
6章に出てきて真っ二つにされた子のはなしです
夜空を埋め尽くす星々も知らない
まもなく彼の友が去ることを
(いってしまったか)
友は小さな頃から、それはそれはやかましくなんでも知りたがった。自分から振っておきながらその話をしたのは失敗だったと今でも思う。まれに生まれる白色をもつものは、貪欲に知識を求めて生き延びようとするのだろう。数年しか生きない同族から白より稀に長く生きた自分にできるのはそれくらいだと、せがまれるまま語ったのだ。
『じぃじ おはなしきかせて』
『またきたのか あきんよのぅ』
『うん りゅうのおはなしききたい』
『いつもいっとるが、むかしむかしのことで渡り鳥のおしゃべりを聞いただけだぞ』
『うんうん、それで?』
『その鳥がいうには。じいさんのそのまたじいさんが生まれる前のはなしだと。ある日・・・』
そこはアラスティ国から南にある森。クレステア山の端から楕円に広がり、人は大森林と呼ぶが住んでいる生き物たちは名などきにしてない。街から近く手入れされた辺りは子供でも安全に採取できるが、森の南端はまったくちがう。つい最近ダンジョンが発見されるくらい人が入る場所ではなかった。
そのダンジョン、外見も中も様々あるが今回は見た目だけ。異質であるとひと目でわかる岩山は周囲に樹々はなく地面は均されていた。岩肌にぽっかり空いたのは穴と呼ぶには大きく、軽く10人は横に並んで入れる。高さは飛んでも手が届かない。正に天然でもなく人の手によるものでない。発見者であるベルデミンはまず周囲から調査した。中から出たものがいるかどうか。
他大陸で発見されたダンジョンではなかった事例だが、ここもそうだと決めつけられない。ベルデミンは軽い跳躍で岩山を上った。なにかいることはわかっていたのでなるべく驚かせないように音は立てた。頂上は周囲の樹々と変わらない高さで、心地よい風が蒸せるような森の息苦しさから解放してくれた。
「翁よ。許可なく御前に立つことを詫びる」
両手を拳にして合わせる動作は自国における敵意がないことを示すものだが、『王印』をもつ彼が過去に人相手に向けることはなかった。ここにいるのは人の理にない相手。外見はカエル。とても大きい。人が背に乗っても問題ないほどに。でもそれだけ。苔纏うほど長く長くここにいて、日々変わる空をみていただけだ。
『仔細はその珠に』
王たる印もつものの訪れに静かに目を細め、喉をグニグニ弛ませて口から透明な珠を吐き出した。翁と言ったものが膝をついてそれを取ると視線が絡んだ。目には強さ、そして健やかな想い。好ましくはあるものの、やはり『じいじ』と呼ぶ唯一に心は揺さぶられるのだ。その珠には視たものすべてが映っている。
ある日、ここへ小さな生き物が来た。生まれる時間が違えば捕食者と獲物の立場はちがっていた。彼は巨大なカエルで侵入者は幼いヘビだった。ヘビは己の色見も危うさも知らず、カエルに問うた。自分を食べるのかと。否定すれば信じるのか。喰ってしまうぞと言っておびえさせるのもなんだし。事実そんなもの食べぬ。ふむ
『ここにいると鳥に食われるかもしれぬぞ』
『いつもいるの?』
『夜はいないな』
そうして幼子は夜に訪れるようになった。視るか聞くだけだった時間に語る時間を得た彼は新たな喜びを知った。いつしか多くの時間が過ぎ、幼子の訪れも少しづつ減った。もう幼くはない。そして
その姿は病んでいる もはや・・・・
どうか
どうか
小さき友が苦しむことがないよう
今は見えぬが常にそこにある月に




