裏の裏
「お~す、おはよう志神ぃ。」
結夢が教室へ入り先ず向かったのは遊の元。恰も「遅れてませんが?」と言った態度で堂々と挨拶を投げるが、勿論遅刻しており、それどころか、既に一限目は終了していた。遅刻が確定である事に気付いた結夢は、休み時間を狙いあえてこの時間に登校したのだ。
天使を連れている為咎められる事はないが、あまりに余裕綽々な態度の結夢に、遊はやや呆れて返事をする。
「お~すって……もう一限目終わったぞ?何してたんだよ。」
「ん~、話せば長くなるんだけど…。」
「はぁ。」
「……ハルが可愛すぎて──」
「あ、もう結構です。」
「えぇ!?早いな志神ぃ!?最後まで聞けよ!」
「いや、もうその手の話はロクな事じゃないんで。もう本当お腹一杯なんで。」
「結夢……貴女がただ寝坊しただけの話でしょう。」
「ハルが起こしてくれなかったからだろぉ…。」
「おやおや、この天使には目覚まし機能が搭載されてるんですか?目覚ま天使ですか?」
「貴女は一体どこから湧いて……誰が目覚ま天使ですか!」
先程までいなかった筈が突如現れた凛華。それを指摘しようと口を開いたハニエルだったが、悪意ある蔑称に堪らず声を荒げた。すると、結夢の登校に気付いた栞とミーアも遊の席へ集まり、今の御時世類を見ない密集度となる。
暫く談笑を交わしていた遊達だったが、ミーアが徐に会話を切り、教室の隅で難しい顔をしながら傍観しているメルケヤルに視線を向けた。恐らく、メルケヤルが難しい顔をしている理由を知っているのだろう、ニヤリと悪戯な笑みを浮かべ声をかける。
「何ヲしているンデスか?メルケヤルもこちらデお話シマしょうヨぉ。」
「わ、私は遠慮しておく…。」
「えぇ~?ドウしてですカ?何か不都合がアルんですカ?」
「ぐ、ぐぬぅ~…!」
笑いを堪える為頬を限界まで膨らませているミーアに、メルケヤルは眉をピクピクと動かし明らかな怒りを顕にする。
他の数名は何故メルケヤルが話に入ろうとしないのか……ではなく、何故ミーアが楽しそうに意地の悪い表情なのかが分からず、事の成り行きを傍観している。
当のメルケヤルは一向に動こうとせず、しかし、それも予想の範囲内だったのか、ミーアは膨らませた頬から笑いを漏らしながら、一層意地の悪い笑みを浮かべた。
「ぷぷぷ……そ、ソウ言えばシカミューさんとメルケヤルは家で色々ありマシタし、ぷぷ……仲直りノ印に握手でも、ぷぷぷ……した方がイイんじゃナイでしょうカ?」
「み、ミーアぁ…!貴女と言う人は…!」
「ぷぷ……ドウしましたカ?さぁさぁ早クしましょうヨォ。」
羞恥と我慢でそれぞれ顔を真っ赤にする両名とは対称的に、遊はミーアの言葉を聞いた途端顔を青くさせ、ため息と一緒に頭を垂れた。
ミーアとメルケヤルは夢中で気付いていない様だが、ミーアは、遊がミーアの家へ行き、更にメルケヤルとの間に何かがあった事をさらりと暴露してしまっているのだ。それを知るのは当事者のみであり、当然結夢と栞に興味と疑問を抱かせる事となる。
「家ってことは道案内の事じゃないよね?あの後何があったの?」
「し、しし志神はミーアのい、いいい家に行ったのか!?どうして!?いつの間にそんな仲良く!?」
「え!?ア、え~と、これはソノ……ね!メルケヤル!ネ!」
「わ、私に振るのか!?私は天使だぞ!答えるわけがない!」
「答えれない内容なの?メルケヤルさんは遊くんに何をしたの?」
「答えれない内容なのか!?志神とミーアはそんなに仲良くなったのかぁ!?」
「ごめん結夢ちゃん。ちょっと黙ってて。」
「え、あ……ん…。」
驚きに騒がしくなる結夢を栞は途端に静め、無表情にメルケヤルを見つめて先程の質問の答えを待つ。遊が天使に狙われている話を聞いたのならば、天使が答えられない内容ならば、遊の身に危険が及んでいた可能性を疑うのは当然だ。その瞳には静かな怒りが、然れど明らかな激情が見てとれた。
普段大人しい筈の栞の怒りに触れ、メルケヤルは堪らず気圧され後退る。直ぐにでもこの場から逃げ出したいが、五十メートルの制約がある為無駄な事。そも、逃げ出した場合、それこそ後ろめたい事実を認めてしまうことになるのだ。しかし、嘘もつけずどう乗りきろうか考えている間にも、栞は無表情に怒りを携えながら一歩一歩と近付いている。元凶であるミーアに視線を送るも、吹けもしない口笛を鳴らそうとしながらそっぽを向いているだけだった。
すると間に人影が一つ。それは、当の本人遊自身。
「落ち着けよ栞。別に何でもないって。」
「遊くん…………遊くんはいつもそう言って誤魔化してばかりだね。」
「そんな訳じゃ…。」
「じゃあ後で教えてくれる?」
「いや、それは…。」
「ほら、何でもないなんて嘘だった。言い淀むって事は何かあったんでしょ。」
「………………………。」
遊は何も言えなかった。墓穴を掘ったからではなく、栞の瞳が悲しみに満ちていたからだ。
「……ごめんね、困らせたい訳じゃ無かったんだ。それに、聞いた所で僕に出来ることなんて無いだろうし…。」
嫌な沈黙が流れた。誰かを悪者にしたい訳ではなく、故に何をもっても救えない様な沈黙。誰も口を挟めず、各々が悲しい表情で時間が流れるのを待つばかり。
しかし、そんな沈黙を破ったのは罪悪感に苛まれた元凶のミーアである。
「まぁまぁ!暗い話はコノクらいにシテ、もっと楽シイ話ヲしましょうヨ!ホラ!メルケヤルもシカミューさんも栞サンも結夢もハルさんも久留サンも……何をそんな黙ッテるんでスカ!」
「「元を正せばミーアのせいだろ(う)!」」
「あ、アハハハ!小さい事は気にシナイ!気ヲ取り直シテ楽しい話デモ……あ、ワタシがグルントシュー…小学二年の時にオ漏らしした話デモしますカ?」
「ちょ!?待て待て待てぇ!!!」
「え?ドウシました?」
「ミーアがどうした!?急に何を言い出すんだよ!」
「ダメですカ……じゃあ、小学三年の時に泥棒ノ疑いをカケラれて、やってモナい事をクラスメイト全員に謝ッタ話デモしますカ?」
「だから待てって!何を言い出してんの!?」
「じゃあ、ギムナ……中学の時にトイレでゴ飯を食ベタ話デモしますカ?それとも…それ、とも……ふ、ふぐぅ…!」
「ちょちょちょ、ちょっと待てって!何で泣き出すんだよ!」
「うぅ……ワタシのせいでコンな空気にナッテしまったンデス……直ぐに秘密をバラしてシマうワタシの癖で……友達カラもそれデ嫌われ……ふぐぅ…!」
(あ~……責任感じて変なトラウマまで掘り起こしちまったのか…。)
初日から盛大に機密事項を暴露していた事から察するに、ミーアの言った出来事は全て事実なのだろう。割りと本気で目を潤ませているミーアに対して、下手な声かけは余計傷口を抉る事になりかねない。謎の自爆に半ば呆れながらどうしたものかと考えていると、いつの間にか栞が側に寄って肩に手を置いていた。シンパシーでも感じたのか瞳を潤ませながら。
「ミーアちゃん辛かったんだね。」
「分かっテくれまスカ栞サン…!」
「うんうん……友達に嫌われるのは苦しいもんね。」
「流石栞サン!何と優シい方デスか!もウ結婚しまショウ!」
「それは無理。」
「ふ、ふぐぅ…!」
「お前は何がしたいんだよ!」
先程から自爆ばかりのミーア。とんだ茶番に暗い空気は無くなったものの、どうやらミーアのトラウマは本物らしく、本気で泣きそうである。そこにまた一人、今度は邪な笑みを浮かべて近付く者がいた。
「ミーア先輩、辛かったですよね。」
「分かってくれますか久留サン…!」
「えぇえぇ……友達に嫌われるのは苦しいでしょう。」
「流石久留サン!何と優シい方デスか!」
「………………………。」
「……?どうしました?」
「もうちょっと。もう一声。」
「もう一声?」
「ほら、結婚……ね?」
「やめろよ!何をハイライトしてんだと思ったらそう言うことかよ!っとに……頭痛くなってきた…。」
乱暴に着席し、呆れて頭を抱えたところで予鈴が鳴り響いた。今の混沌とした状況に届いた予鈴は遊にとってまさに福音だろう。ミーアたちも流石に授業まで続ける気はないのか、渋い顔をしながらも各々の席や教室へ戻り、これでこの茶番も終わりだと遊は胸を撫で下ろした。
HRが終わり放課後を迎える。クラスの人間の殆どは、溜まる理由もなくゾロゾロと教室を後にする。ものの数分で教室には数名を除き誰もいなくなっていた。
教室には静寂が訪れる。一帯の教室は今や誰もいない。普段から騒がしい事もないが、それでも人が過ごすだけで流れる音さえも消えると、一層の静けさが厭に焦燥感を掻き立てるのだ……普段ならば。
「や、やっと放課後か……何かどっと疲れた…。」
毎度の休み時間に茶番を繰り広げ、無視しようにも堪らずツッコミを入れ続けた結果、遊はそんな静けさを意識していられない程疲弊、気疲れを起こしていた。
「遊くん大丈夫?」
「あ、あぁ……まぁ今日はさっさと帰って休──」
「コレから遊ビにいく人コノ指とーまレ!」
「……じゃあ俺帰るから皆さんバイバイさようなら。」
「ちょちょちょ!シカミューさんは強制デスヨ!帰るナンてダメダメです!」
「いやいや何でだよ。俺抜きで遊んでくれって。」
「良いんデスか?大変ナ事にナリますヨ?」
「大変な事?」
「ソウ……とテモ大変な事に…。」
「何だよ?」
「ワタシの暴走を止メル人がイないんデスヨぉ!このママじゃ何を言うカ分かったモンじゃアりまセンよォ!」
「自分を使って脅迫すんなよ!そんな心配なら止めときゃいいだろ!」
「だ、ダッテェ……折角コッチに来て最初の友達デスヨ?遊ビタいじゃないデスか。」
半ば泣きそうになりながら本心を訴える。遊が抱いていた天真爛漫と言った当初のイメージは間違いで、どうやら良くも悪くも純真であり、そこは栞と良く似ていると感じた。それが初対面で栞と仲良く接する事ができた要因でもあったのだろう。
そんなミーアを可哀想に思ったのか、今まで黙っていた結夢が良案とばかりに手を上げて口を開く。
「じゃあ志神の家に行けば良いんじゃないか?まぁ、志神が良ければだけど。」
「おォ!それは名案デスね!」
「いや、だから俺は帰ってのんびり…。」
「まぁまぁ遊くん、今回は…ね?」
「……はぁ~、分かったよ。」
栞にまで言われてしまえば、先程の後ろめたさも相まって断り難い。観念した遊は気が進まないまでも、ため息を吐き結夢の案を了承した。
「ウチに来るったって何するんだよ。娯楽的な物は無いぞ?」
「折角ナノで色々お話しまショウ!」
「そうだな、私もミーアの話を聞いてみたい。あ、ついでに今日は夕飯の準備よろしくな志神ぃ。」
「図々しいな!?」
「まぁまぁ遊くん。遊くんまぁまぁ。」
「こんなんで怒るなんて、ホント遊先輩は心が狭いですねぇ。」
「別に怒ってはないけど……って、恰も元からいた風に話してんなよ。どこから湧いてきた。」
「結夢先輩いるところに私あり!常識ですよ?」
「悪い…もうツッコむの面倒くさい。」
他愛ない事を話しながら校門を出る一行。すると出て直ぐ、学校を囲う塀に、体を預けながら空を見上げている男がいた。金に染めた短髪に鋭い目付き、筋肉質な図体に百八十センチ近い身長、耳にはピアスを付け、明らかな不良と呼べる見た目の男だった。
その男は遊達を視認すると徐に塀から体を離し、薄く笑みを浮かべながら遊へと近付く。当然何事かと警戒をする遊だが、その警戒は男に対してではない。その警戒は、"男が連れている天使"に対して向けていた。その天使は女性の見た目であったが、天使とは思えない程過激な容姿をしている為尚更だろう。
左側の髪をサイドに三つ編みでねじり上げ、右側の髪は前髪が顎までくる程に伸ばし後ろ髪を短く束ねている。目付きは男と同じ様に鋭く、左耳にはいくつかピアスを付けていた。身長も百七十は越えているであろう、その容姿は天使と言うにはあまりにもかけ離れていた。
そんな容姿の二名に寄られ、栞や結夢達女子は少し怯えた表情を浮かべる。遊はそれを庇うように一歩前へ足を出し、自ら男の前へと立ちはだかった。しかし、どうやら男の目的は遊だったようで、目前まで近付くと足を止めて薄く笑みを浮かべたまま口を開く。
「……お前が志神遊か?」
「そうだけど、お前は?」
「俺は天草高校の前橋 葵、葵って呼んでくれ。で、コッチが天使のパラシエル。なに、そんなに警戒すんなって、少し用事があるだけだからよ。」
「……何だよ。」
「ちょっとしたゲームをしようぜ。」
「ゲーム?」
「ルールは簡単、ここに1から9までの数字を一枚づつ揃えたトランプがある。お互いに一枚引いて交互に数字を言っていく。そして、相手と自分の数字を足した数字を当てた方の勝ち……簡単だろ?」
「…………………。」
突然の提案に遊は訝しげな表情を浮かべる。意図も目的も不明な提案を突っぱねる事も可能だが、不明だからこそ不気味。何をしでかすか分かったものではなく、故に遊が拒否する選択肢は無かった。
「分かった。じゃあ、とりあえずカードをお前の手元でいいから広げて見せてくれ。」
「ククク……そう来なくっちゃ。」
葵はカードの枚数、種類を遊に確認させた後カードをシャッフルし、裏側に広げ一枚引くよう促す。遊が引いた後葵も一枚を引き、残りのカード枚数をお互い確認しカードをしまった。
「そうそう、ルールを補足するぜ。勝敗は数字の合計だからな、第三者のジャッジが必要となる。カードを預けるジャッジは遊が決めていいぜ。」
「あ~……それならパラシエルを指名する。」
「ほう、信用して良いのか?それとも余裕の現れか?」
「こっちサイドの奴等は全員顔に出やすいんだよ…。」
「クックック…!そいつは失礼した。じゃあジャッジはパラシエルで決定だ。持ってるカードをパラシエルに渡してくれ。それとパッシィ……お前はイカサマをしないよう宣言してくれ。」
「あいよ、私は公平にこの勝負の行く末を審判する。イカサマ等の不正行為は一切行わない。これでいいか?」
「ありがとよ。遊もコレで良いか?」
「あぁ。」
「それと、宣言する数字で有り得ない数字を言うのは無しだ。ただしブラフは有り。まぁ3から17の間じゃなきゃならないってことだな。いいか?」
「分かった。」
「じゃあ始めよう。先行は俺がもらうぜ?とりあえず最初だからな……まぁテキトーでいいか。宣言する数字は6だ。」
そう言い葵はパラシエルの方へ顔を向けた。パラシエルは「違うな」と言って首を降る。
ただそれだけの動作だが、遊はその一挙手一投足をジッと見定めていた。イカサマをしないよう宣言していたものの、果たしてその言葉を鵜呑みにする訳にはいかない。しかし、怪しい動作は一切無く、どうやら本当に中立である様だ。
「ククク……そんな怖い顔すんなよ。安心しろって、パラシエルは天使だぜ?」
「悪いな、疑り深い性分なんだよ。」
「疑うのは良いけどよ、それに意識を裂いたせいで実力を発揮できなかったとかは止めてくれよ?さ、数字を宣言してくれ。」
「……6。」
「おいおいおい、それはさっき俺が宣言した数字だろ?確かに同じ数字はダメと言ってないけどよぉ。」
「違う違う、6は合わせた数字じゃない。今言った数字は……お前の引いたカードだよ。」
「……!」
「このゲームの必勝法はシャッフル前、そして後のカード配置を覚える事だ。そうすれば相手が何のカードを引いたか分かるからな。」
「は、はぁ!?お、お前は見えてたってのか?シャッフル時のカード移動を!?」
「だから言っただろ、お前の数字は6だって。俺の宣言する数字は俺の9を合わせた数字……15だ。」
葵は驚きに目を見開く。簡単に言うが、そんな事は常人に出来る特技ではない。一枚ではなく全ての配置、つまり動体視力と記憶力、そしてそれらをまとめる情報処理能力がなければ不可能な特技だ。結夢やミーアは黙って勝負の行く末を見守っていたが、今は黙ってと言うよりは驚きに何も言えぬ様であった。
葵は頭を垂れて右手で顔を覆う。果たしてその表情は読み取れず、体を小刻みに震わせていた。敗北による悔しさからか、はたまた遊の特出した特技に打ち震えているのか……しかしそれは、違った。
「ククク……クックック、面白い…面白いなぁ遊。まさか"本当に出来る"とはなぁ……じゃあジャッジといこうか。どうだパッシィ?」
「……残念、ハズレだ。」
「なっ!?そんな筈…!」
「残念だったな。全く……どうしてカードを手にとって確認しなかったんだよ。ククク、カード自体の細工は一番警戒するところだろおがよぉ。」
「お前…!」
「おっとぉ!別にイカサマをしたとは言ってないぜ?まぁあったとしたら、あったとしたらの話だけど、あんなの一番最初に見破れる王道だと思うけどな?ちょっとした茶目っ気がまさか勝敗を分けるとはな…ククク、自分の技能を過信して確認を怠るなんて愚かしすぎるぜ。」
葵が行ったイカサマは、カードの上に斜め半分にカットした別のカードを張り付ける、ごく有りふれたイカサマである。カードの身を半分しか見せなければバレず、上のカードを剥がした後の処理もトランプであれば容易。しかし、葵の言った通りカードの確認は定石であり、本来ならば効果を発揮する前に明かされる筈のイカサマだ。
──果たして、そんなイカサマを遊が見過ごしていたのだろうか。
「それじゃあ俺の番だな!宣言する数字は11!そらパッシィ、ジャッジをしてくれ!ククク……ハッハッハ──」
「違うな。」
「ハッ……はぁ?」
「違う、ハズレだよ。」
「いやいやいや、そんな筈ないだろ?数え間違いしてんじゃ…………まさかテメェ!」
「そのまさかだよ。トランプへの細工を懸念しないわけないだろ?カードの確認を怠ったんじゃない、あえて確認しない事でお前の自爆を狙ったんだ。」
遊がカードを手に取らず、葵に広げて確認させるよう促した理由はコレであった。恰も勝利を確信した様に振る舞い、ブラフの数字を相手に思い込ませる事で、葵を霞の勝利に捕縛し数字を吐き出させる。
第三者の指定を遊に任せた場合、カードへのイカサマは葵がカードを用意し、第三者へ渡すまでの間に隠滅されてなければならない。特に警戒するべきはすり替えであり、その様子が無かった為、葵が自爆する流れを作り上げたのだ。
「さて俺の番だな。宣言する数字は俺の7とお前の2を足した9だ。それじゃあパラシエル、ジャッジを頼む。」
「おめでとう、大当たりだ。お前の負けだな葵。」
「…………チッ!行くぞパッシィ。」
「待てよ、お前は何者なんだ?」
「あ?自己紹介はしただろ、前橋葵だ。それ以上言うことはねぇ……じゃあな。」
不機嫌にそう言い捨てると、葵は踵を返して早足にその場を去る。残された結夢達は、日常では有り得ない嵐の様な出来事に、結局終始口を挟めずにいた。そして遊は、明らかに天使と共謀している人間の存在に、形容しがたい大きな不安を胸に燻らせる事となった。
「おいおい負けちまったなぁ葵?」
「うるせぇ。大きな特技を見せられたせいで他の警戒がおろそかになっちまったぜ…クソ!」
「さてどうする?」
「決まってる……"今回の話"、受けるぜ。」
「ハハハ!良いねぇ、楽しみになってきた。」
「待ってろよ遊……リベンジは直ぐだ。」




