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天使の所業  作者: ふたつきひみつ
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一誤一会

 とある施設。日の光が全く射さない闇に覆われた部屋。何本か置いてある蝋燭の火が、辛うじて床を淡く照らしている。そこでは怪しげな儀式が行われていた。

 謎の文字で書かれた魔方陣の中心に、学生服に身を包んだ男が立っている。男は針で自らの指を刺し、そこから流れた血を床に垂らす。

 途端、血は魔方陣に吸い込まれていった。そして不快な音と共に、謎の文字は不気味な色に変色し始める。

 その様子を魔方陣の外から見ていた眼鏡の男が口を開く。

「ね、ねえ!?志神(しかみ)君だっけ!?」

「そうですけど?どうしました?」

「魔方陣おかしくない!?変な音してない!?」

「自分は『天召』初めてなので、分からないですね~。」

「そ、そっか……そうだよね…。」

「はい。」

「…………じゃなくて!明らかにおかしいよ!魔方陣ちゃんと書いた!?」

「はい!……ちゃんとアレンジして書きました!」

「はぁ!?」

 事は数時間前に遡る。



「行ってきます!」

 俺─志神(しかみ) (ゆう)は元気よく家を飛び出す。名門天隋士(てんずいし)高等学校に通う高校三年生。

 通学路ですれ違う人々。その中には、明らかに異質な者が混じっていた。純白の羽を生やし、光輪を頭に携えた者が。

 彼らの正体は『天使』。今から120年前、社会に大きな変化が起きた。技術が発達し、何事も科学で解決していた時代。そこに一人の男が現れた……隣に天使を連れて。

 当然マスコミは食いついた。本当だろうと、嘘だろうと、話題になるのは間違いないからである。三週間に渡るインタビューにより、天使の存在は世間に周知されていった。その時の内容を要約すると─


1 天使を召喚した者は、選択を迫られたときや間違いを犯してしまう時に助言を受けられる。

2 天使を召喚した者は死後天国へ行くことを保証される。

3 "天使は嘘をつかない"。


 天使の存在など、最初は誰も信じなかった……が、天使の召喚を生放送で流すと、少しづつ意見が別れていった。天使が現れて一年後には、世間は天使の存在を認めていた。

 そして現在。年号は『天命63年』。天使と共に生きる世である。

 しかし、天使は誰にでも呼び出せるわけではない。天使召喚……通称『天召』には条件が設けられた。

1 天使は原則一人一使まで。

2 天召を行えるのは18歳以上。

3 国が指定した学校の成績優秀者上位者各10名。

4 天召は、(あらかじ)め天界へ連絡されていた者が行う。

5 血を垂らすことにより、それを本人確認とする。

 天隋士高校は国に指定された高校であり、俺はその中でも学年一位の成績優秀者だ。

 そして4月28日……今日が俺の誕生日であり、天召を行う日。


「ここか…。」

 街中にある一際大きな建物。外観は西洋風に造られており、完全に街並みから浮いていた。

「この日を待ちわびた…。」

 この日のために今まで頑張ってきたんだ。"今では数少ない資料"をあさり、"合っているかも分からない儀式"手順を覚えた。頑張った……本当に頑張ったよ。だから─

「天召を利用して、"悪魔"を召喚してやる!」



 …………そして今に至る。

「ねえ!何で!?何で勝手にアレンジしたの!?」

「勝手にアレンジしてはいけないって、言われなかったので。」

「言うまでもないよね!?花瓶買うときに人を殴ってはいけませんって言われないよね!?それと同じ!」

「え?今は魔方陣の話をしてるんですよ?」

「ムカつくなコイツ!」

 そんなやり取りをしているうちに、魔方陣が点滅し始める。

「あ~!こんなこと天召始まって以来だよ~!」

 役員は頭を抱えて膝をついた。まぁ、温故知新って言うし、新しい発見を見届けようや。

 魔方陣は一際目映い光を放ったかと思ったら、強烈な砂煙を巻き起こし、見えなくなった。


 砂煙が晴れていくのを、俺と役員は見守る。片や不安と恐怖。片や希望と期待……まぁ俺だけど。

 そしてついに砂ぼこりが晴れて、魔方陣が姿を現した。

「……あれ?」

「な、何もいない?」

 魔方陣の中には何もおらず、ただ風により吹き飛ばされた砂の跡が残っているだけだった。

「助かった…?」

「あ~あ、失敗かー。」

 役員は胸を撫で下ろし、俺は肩を落とした。安堵した役員は、ものすごい形相で俺を睨み付け、こちらにズカズカと歩いてくる。

「志神君!今回のこれは学校に報告させてもら─」

「むぎゅっ!」

 すると、役員の足元から変な呻き声が聞こえた。役員も気づいたのか、自分の足に目をやる。そこには…。

「何をするんだ貴様!」

 大きな目玉。その三分の一がギザギザの歯になっており、シルクハットをかぶっている。体はボロボロの布切れに覆われた、何とも摩訶不思議な生き物がいた(全長30cm程)。

「う、うわぁ!?」

 その謎の生物に役員は腰を抜かす。

「なめた真似をしやがって!俺の魔力の捌け口にしてやろうか!?」

「あ、あああ悪魔だー!助けてくれー!」

 役員は四つん這いになりながら、一目散に出口へ向かって逃げていった。

 摩訶不思議な生物は、不様に逃げ出した役員の姿に満足気な表情をする。

「ふはは!何とも不様な姿だ……愉快愉快。」

 摩訶不思議な生き物は一頻り笑った後、俺に気づき、目線(と言うか目そのもの)を向ける。

「まだ一人残っていたのか。」

「……………………っ!っ…!」

「ふはは!怯えて声も出ないか!」

「……あ、あ……あ…。」

「貴様も、先程の人間と同じように逃げるが─」

「悪魔だー!いいいやっほおおおおぉぉぉう!!!」

「ぐほっ!?」

 俺は摩訶不思議な生き物に飛び付いた。思った以上に(見た目通り?)軽かったため、そのままの勢いで置いてあった機材へ突っ込んだ。でも、そんなことは気にしない。目の前に悪魔がいるんだから。

「本物だ!嬉しいなぁ~本当に成功したんだ!」

「何だ貴様は!コラ!離れろ!」

「何だこの帽子!全然取れない!あっはははは!」

「いだだだだ!それ体の一部だから!取ったらいかんやつだから!」

「え?衣装じゃないのか?」

(力が緩んだ…今だ!)

 力の緩んだ一瞬の隙をつき、悪魔はするりと俺の腕から抜け出てしまった。

「あ、抜けられた。もう少しモニュりたかったのに…。」

「この礼儀知らずが!初対面の相手に急に抱きつく奴があるか!もっと常識を持て!」

「悪魔に常識を問われた…。」

「そこに悪魔も人間も関係ないわ!まったく、近頃の若造は…!」

「何かおじいちゃんみたいだな。」

「やかましい!」

 と、そこで一つ気になることがあった。俺にとって、もっとも大事なことだ。

「ところで、お前はなんの悪魔なんだ?」

「は?なんの悪魔?」

「そうだよ。ベルフェゴールとか、サタンとか、色々あるだろ。」

「……?俺は悪魔だけど?」

「いや、だから名前を!」

「だから悪魔だって!」

「……もしかして名前が悪魔?」

「悪魔。」

「What's your name ?」

「Akuma.」

「そこはDevilじゃね?」

「やかましい。」

「痛っ!?叩くことないだろ!」

「貴様がマトモなツッコミをいれるからだ!」

「マトモならいいだろ!」

 そんなやり取りをしていると、役員が出ていって開け放しの扉から声が聞こえてくる。どうやら人を呼びに行ってきたようだった。

「チッ!あそこの階段から逃げるぞ!」

「な、何で俺まで!?」

「貴様はあの魔方陣から俺を呼んだんだろ!」

「そうだけど…。」

「あれで呼ばれた者は、呼んだ者から50メートル以上離れられないんだ!」

「そうじゃなくて!何で逃げないといけないんだよ!」

「それは後で話してやる!今は大人しく付いて来い!早くしないとお前は──殺されるぞ!」

「………………は?」



 これは、ちょっとした好奇心で、悪魔を呼び出した少年の物語。彼は知らない。どうして悪魔が天召から出てきたのか。悪魔の正体も。そして


──天使の所業も。

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