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ストレスの多い日々を過ごしながら、胃痙攣に怯えて禁酒を続ける最近の事。
ストレス発散をしないと駄目だと考えたので、久しぶりに不要不急の外出、散歩に出かけてみた。
仕事が来るかもしれない時間だと「来ているかも知れない」と、それはそれでストレスになってしまうので、完全に仕事が来ない夜の10時以降。
夜ならば大抵の店は閉まっているし、必要以上に人間が出歩いている訳でもないので、コロナの事を考えれば丁度良い時間帯だと思う。
日頃の運動不足解消も兼ね、徒歩。
こうして歩き始めてしばらく、何処へ向かおう?と十字路に立ってみると、車除けの上に手袋の左手だけがぽつんと置かれているのが見えた。
右手は何処にあるのだろうか?どこか別の場所に落ちているんじゃないか?
リーン♪リーン♪ギギギギギ……リーン♪
右手を探してみようかな?そう考えた時、鈴虫と機械音の中間あたりの、何とも不思議な音が聞こえた。
何故だか、音の聞こえてくる方向に向かおうと思いつき歩き出す。
分かれ道が来るたびに音が聞こえてくるので、何処かで音が鳴っている訳ではないのだろうと思いながらも、不思議に思う事もなく歩き続ける。
リリリリーン♪
1駅分くらい歩いていくと、機械音のようなギシギシとした音がなくなり、より鈴虫っぽい高い音になった。
少し大きな公園の横、鈴虫の音は公園の奥から聞こえてきたので、公園の中に入ろうとして足が止まる。
バイクが3台停まっているのだ。
これは、人がいそうだな……しかも若い人間だ。最悪、ヤンチャなタイプの人間かもしれない。
リリリリリリーン♪リリリーン♪
奥からは綺麗な鈴虫っぽい声と、なにやらボソボソと話している若い声が3人分。
1駅ほど歩いたけど、散歩とするには少々遠くまで来過ぎたのかも知れない。
ギギギギィ、ギシギシ、リリリーン。
回れ右をして帰ろうとした時、ズット聞こえてこなかった機械音のような音がして、徐々に「何の音なのだろうか?」と頭に浮かびだした。
しかし、そんな疑問もヤンチャな若者3人の間を通り抜けてまで追及はしたくない。
密になるし。
後ろに音を聞きながら帰路についていくと、フツリと音が止み、その代わりにポーーーと、低い音の耳鳴りが数秒、そして
「カァー、カァー、カァー」
「ギャーギャッギャッギャ」
「カァコー、カァーコォー」
3回カラスの鳴き声が聞こえた。