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新型コロナウイルスが流行り、不要不急の外出をしないようにと注意がされるようになってから、俺はかなり忠実にそれを守っている。
薬や食料がなくなったら、家族に外出している事がバレないよう、親父が買い物に行く時間を見計らって買い物に行く。
そして親父が買い物から帰ってくるより先に帰宅し、何処にも行っていない風を装う。
それ以外は家族が寝静まった頃合いを見計らってコンビニだ。
もちろん不要不急ではないのだが、俺が外出していると親父は良い顔をしない。
理由はコロナが怖いというのも勿論あるのだろうが、実はコロナが流行る前からこんな感じ。
俺は去年就職活動を病みそうになりながら必死にしていて、今年に入ってようやく在宅の仕事につけた。
そう、在宅。
仕事=出勤する。との考えがあるのか、親父の中で俺は未だに無職で、そんな俺が外出する=遊びに行く。との謎方程式があるようなのだ。
必需品を買いに行こうとも溜息、自動販売機に行くにも溜息、郵便局に行くのですら溜息。そして時々思い出したかのように「いつまでも遊びやがって」と文句を言ってくる。
これ、何度も在宅の仕事決まった。と言ってるんですよ。
どれだけ俺に興味がないんでしょうね?
と、こんな感じなので、延々と毛むくじゃらには会っていません。
最後に会ったのはいつだっただろうか?レベルの遠い過去です。
とは言え、SNSでのやり取りは毎日しています。
ちょっと小腹空いたからコンビニ行って来る。とかなんとか毛むくじゃらから連絡が入り、少しばかりのやり取りをしながら天気予報を確認してみると、降水確率は0パーセント。恐らく着替えながらのやり取りをしているのか、ポチポチと返信があり、フト返信が止まった所で窓の外確認。
ポツ、ポツ。
小雨です。
空かさず「はい今!今外!」と打ち込み、しばらく待つと「はい正解!」とかいう遊びです。
他にも、何の気なしに空を見上げて雨が降っている日に「どっか買い物行った?」と尋ねてみればホームセンターにいたりとか、急に雨が降ってきて雨宿り中だったりとか。
なのでここ最近俺はひそかに毛むくじゃらの事を、狐の神父。と呼んでいる。