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1月1日。
この日、俺は親父と弟の3人で姉の家に新年の挨拶をしに行く事になっていた。
移動は電車な上に数駅しかないので軽く昼食をとり、それから凡そ20分後、そろそろ出かける準備を整えようと着替え、綺麗にプリントしたポストカード一式をカバンに忍ばせた。
あげようと思っての事ではなくて、小説を描いている事、絵を描いている事の話題になって、見せてと言われた時に見せる為。
こうして戸締りもしてさぁ出よう!という頃になった時、姉の家は駅から結構な距離がある事を聞いた親父が、だったらタクシーで行こう!と言い出したのだ。
因みにタクシーだと20分位かかると言うが、親父も弟も全く乗り物酔いをしない人間なので、食後間もない俺の事など一切眼中になし。
1月1日、初酔いをしながら着いた姉の家。
お邪魔しますの変わりに交わされる新年の挨拶と、母の位牌への手合わせ……をしようとして手が止まる。
仏壇代わりの棚の左端に母の写真が、右側に母方のおじいちゃんの写真があるのだが、真ん中にドカンと知らない男性の写真があったのだ。
姉達からしてみれば物凄い恩義のある人だとは分かりつつ、この男性を姉達と同じように“おじいちゃん”として手を合わせる事はしたくなかった。
何故なら、本当の“おじいちゃん”なら俺の後ろにいるのだ。
初孫となる甥と姪に“おっちゃん”と呼ばれている親父が正真正銘の“おじいちゃん”だ。
俺も頭が固くなったものだと思いつつ、左端に向かってのみ手を合わせてみて、それでも親父が来るんだと数日前から分かっているのだから、来ている間だけでも配置をどうにか出来なかったのか?とは、今でも思う。
その後、アルコールの買出しに俺、親父、弟、姉の4人で向かった。
親父のカゴの中にはお寿司、お刺身と魚類ばかりで、姉のカゴの中には子供らの食べる分としてオードブルが2パック。
カゴの中に重ねる事無く大きなオードブル2パックが入れられ、ビールを入れる余地もないので、俺は何気なくオードブルのパックを重ねた。
陳列されている状態で既に重ねられているのだから、重ねて悪い構造にはなっていないと、そんな考えがあっての事だったのだが、スーパーのレジがかりをしている姉から言わせると、
「あーあーあー!やめてっ!重ねんな!」
らしい。
俺は疲れていたのだろう、たったコレだけの事で姉にまで全否定されたような気がした。
その後は、やる事成す事全てを否定されてバカにされるので、買い物中と帰路で声を発さずにいれば、飲み会が始まったとて喋る機会もなく進み、不意に“仕事”の話題になった。
その途端、白い目が何人分かこっちを向いた。
ここでもか。
「面接の連絡待ち」
「何処や?」
「スーパーの惣菜コーナ……」
「何で惣菜やねん!お前いっつもそうやな!」
はぁ、帰りたい。と心の奥底から思いつつニコニコしていれば、横から親父が白ワインを出してきて、
「飲むか?」
と。
しかしその白ワインは姉のカゴの中に入っていた筈なので、
「飲んでえぇん?」
と確認しただけ。たったコレだけの台詞にさえ、
「俺が買ったんじゃ!ぼけ!」
怒鳴られる。
こうして白ワインを飲みつつその場に座っていると、再び俺の失敗した就職活動についての話題になった。
「ライターは落ちた」
と言えば、
「落ちると思ってたわ」
と、俺の文章を1度も読んだ事もない人間が馬鹿にしたように笑いながらいうものだから、少しばかりイラッとした。その流れて思い出したのは、母は小説を書く事を応援してくれてたなーと。
「……オカン、創作応援してくれてたから、コレ」
そう言って差し出したポストカード。
ペラペラ見た姉はフーンと眺め、コメントに困ったような顔をし、見せてみ。と姉からポストカードを受け取った親父は、どっかで見た絵。と俺の創作物とは見てくれず、弟、甥、姪に至っては見もしないという結果になり、母にと手渡したモノはその辺にポイと投げ置かれた。
出すんじゃなかったと心から。
夕方6時、親父がそろそろ帰ろうと言うので喜び勇んで帰宅し、にごり酒とおつまみで1人飲み……した2時間後ほどで気分の悪さを覚えて完全にダウン。
翌日、まさか?と見たおつまみの袋には“かつおエキス”と“エビ”の文字が……。
と、まぁ、本当にいい年明けとなりましたとさ。