8流
夏本番を迎える少し前の、土曜日の夜の事だった。
ソファーに座る俺と、椅子に座る毛むくじゃらとの間に会話はない。それはなにも気まずい空気が流れているからとか、そう言う事ではなく、これが俺達の普通。
そんな食後の、ゆったりとした時間の事。
1代目がササッと俺に近付いて来ると、チョコンと隣に座り、ジッと見上げてきた。
まだ満腹にはなっていないのだろう。
そう思ったので、
「コンビニでも行きますか?」
と、声をかけたのだが不思議そうに首を傾げられた。
どうやらお腹がすいている訳ではないようだ。
なら、一体なんだろう?寝ようともしていないから“笑わせて”でもないだろうし……。
「……何かあったんですか?」
観念して尋ねてみると、パッと毛むくじゃらの方を向いた。
「無駄毛処理って、どうしてます?」
何故に無駄毛処理!?剛毛でない限りは放ったらかしで良いんじゃないだろうか?
「別になんもしてへんで」
椅子に座ったまま毛むくじゃらが答えた。
毛むくじゃらは、毛むくじゃらと言うあだ名にも関わらず実はそこまで毛深くはない。胸毛やら腹毛もないし、指毛なんてものもない。すねと太もも、そして腕の毛。それでも夏になるとスグに日焼けするせいで毛はあまり目立たない。
腕の毛って、腕毛で良いのだろうか?
「ムダ毛が多いと男でも駄目な時代ですよ?だからってツルツルも格好悪いし……」
「常にツルツルにしといて、ツルツルは俺のデフォって事にしたら?」
「誰に対して説明するんですか」
そんな2人の会話を聞きながら、考える。
すねに生える毛だから、すね毛。だったら腕に生える毛は腕毛で合っている筈だ。じゃあ背中に生えるのは背毛?太ももに生えるのは?太毛……それはもうただの太い毛じゃないか。じゃあ太ももに生える毛もすね毛と呼ぶのだろうか?
すねじゃないのに?
「木場さんはムダ毛、どう思います?」
突然話を振られ、慌てて1代目を見るが答えを待たれているのだろう、いつもの笑顔がない。
「えっと、ひねげは……」
……ひねげ!?
しまった、すね毛と何かが混ざってしもうた!
「ひねげ?」
こうなれば、新しい言葉として受け入れるしかない。
「丁寧にヒゲ剃ったのに、何故か剃り残ってる、あの捻くれた毛の事です」
どうだ!