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ソラモヨウ  作者: SIN
74/88

74片

 令和最初の13日の金曜日は、十五夜でもあった。

 なので曇っていようと、雨が降っていようと、毛むくじゃらに会おうと思っていたのだが、それとは別にグッピーの様子についても話さなければならないので会う必要が出来た。

 毛むくじゃらと2人で出かけた時に見つけた“グッピーです、ご自由に”と書かれた発泡スチロールの箱に入っていた多数のグッピー。そこからメス2匹、オス2匹を貰って帰ったのが6月の事だった。

 大きなメスを「ニコ」小さなメスを「ツキ」赤色のオスを「ロク」尾鰭が長いオスを「ゼロ」と名付け、既に飼っていたセルフィンプレコ「イオ」と「ミオ」の水槽内に入れた。

 その結果ツキとロクは番となり、稚魚を産んだ。それから1週間後にはニコも稚魚を産んだので急遽グッピー用の水槽を立ち上げて全匹そこへ移動させた。その時、少なくとも30匹はいた筈。

 しかし、ベタとセルフィンプレコを2匹育てている慢心からなのか、グッピー水槽の水質を保たせる事が出来なかったのだろう、尾腐れ病が発生した。

 始めに症状が出たのはツキで、続いてニコ。他にも何匹かに尾鰭の濁りが見えたので、少しでも異常の見られる固体を全て取り出して隔離容器内にて塩浴をしたのだが時は既に遅く、翌日にはツキが、その翌日にはニコが亡くなった。

 13日の金曜日の朝には、グッピー水槽の中には僅か3匹。隔離容器の中には「ゼロ」そして「イオ」の水槽の中には「ロク」と、ロクの子供が4匹いるだけ。

 そのうち完全に元気なのは「イオ」の水槽内にいたロク家族のみだ。

 少し前に毛むくじゃらの親戚の子がメダカを飼い始めていて、生物に興味がありそうだからそのうちグッピーも何匹か……などと話をしたばかりだというのに。

 “一緒に空を見上げませんか?”

 そうお馴染みのメッセージを毛むくじゃらに送り、返事を待つ。

 なんて説明したら良いのだろう?と窓から空を見上げれば雲に覆われた月が、それでも明るく雲を照らして見えていた。

 雲が完全に月を覆いつくす頃毛むくじゃらがやってきたので、フラフラと散歩に出かける前にグッピー水槽を見てもらった。

 「……どうしたん?」

 水槽がどうかしたのか?の意ではなく、グッピーが減った事に対する言葉であると理解したので、

 「尾腐れ病が出てもて、大丈夫なんロクとナンパ4兄弟しかおらん」

 と説明した。

 ナンパ4兄弟とは、ロクの子供の4匹の事。

 元々はグッピー水槽の中で産まれ育った4匹だったのだが、ある程度まで成長した時、メスを追い掛け回すようになってしまったのだ。

 事如くのように振られるのだが、全く諦める事をせずに延々とメスを執拗に追い掛け回し、ゼロを含めた他のオスを追い払うようにまでなったので、イオの水槽の中に4兄弟を移動させた訳なのだ。

 因みに、ロクとナンパ4兄弟はイオの水槽内で喧嘩もなく仲良く泳いでいる。

 「そっか……しゃーないな」

 なにがしょうがないのか。

 けど、水替えもしていたし、ご飯の食べ残しもなかったし、原因が分からないのも事実。尾腐れ病は出てしまったので結果としてはちゃんと世話が出来ていなかったのだが、それでもちゃんとしていたつもりだったのだ。

 「塩浴も、薬浴もしたんやけど、持ち直したんは今の所アルビノ1匹だけ」

 「ゼロも元気そうやん」

 と、毛むくじゃらは隔離容器内で暴れているゼロを見た。

 「ゼロはロク達に突かれて鰭がボロボロになった怪我魚で、今は塩浴中」

 ゼロはかなりやんちゃな性格をしているので、自分よりも弱い固体にはドンドン構いに行ってしまう。間違っても体力を回復させなければならない子の元に放ってはいけないので、隔離容器に入れるしかなかった。

 「皆元気になったらえぇな」

 本当にその通りだ。

 その後外に出てフラフラと歩き回り、安い自動販売機でジュースを買い、1本分の時間を公園で過ごした。

 ゆっくりと飲んだので結構な時間喋ったと思うが、そのほとんどが水槽や熱帯魚の話。

 グッピーの事で責められるのではないか?と思っていた俺の心配は見事に空振り、逆に労らってくれた毛むくじゃらが、

 「そろそろ帰るわ」

 と手を振った。

 「ん。気ぃ付けて」

 そう見上げたその空には、終に1度も月が輝く事はなかった。

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