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ソラモヨウ  作者: SIN
72/88

72橋

 その日、俺は前日から続いていた偏頭痛に悩まされながらも痛み止めを飲めずにいた。

 理由は前日にも痛み止めを服用していた事と、胃痛が同時に来ていた事。

 頭痛薬を飲むか、鎮痙剤を飲むか悩んでいる間にウトウトと浅い眠りに落ちる。それを何度か繰り返しながら時間を過ごし、気が付けば昼食の時間。

 ざるそば半玉位の軽い食事をツルッと食べた後は再びゴロンと寝転んで、偏頭痛だけでも何処かへいってくれる事を祈っていた。

 予定通りなら夕方以降に姉が帰省するからだ。

 コンコン。

 ノックする音が聞こえてきたのは昼の3時頃だっただろうか、出てみれば弟が立っており、スマホを手渡された。

 「姉ぇちゃんから」

 と言うので耳を当て、

 「もしもし?」

 「あーSINかぁ。台風来てるやろ?やから止めとこうと思って」

 分かったと了承し、最後ゴロンと寝転がって1時間ほど。再びノック音がしたので出てみれば、

 「やっぱり来るって」

 分かったと了承し、いつもより多めにご飯を炊いた。

 アルコールは既に冷蔵庫の中にあり、菓子類もあったので特に買い物にも出ず、時間の許す限り体力の回復に努めようとしたが眠れる筈もないまま6時を過ぎ、7時を過ぎ。お腹が空いたと親父が卵がけご飯を食べ、8時を回り。

 本当に来るのだろうか?と心配になった所で姉達親子は帰省した。

 早速開かれた飲み会は、姉が持参した弁当と親父が用意した飲み物により行われ、俺はすぐさま姪っ子と甥っ子の分にと追加でお茶を作ろうとやかんに水を入れて火にかけた。

 来る前に作っとけよと言われればそれまでなのだろうが、朝に作った分が既に半分まで減っていたのだから仕方がなかった筈だ。しかし、

 「暑いねんから火ぃ炊くな!」

 と、結構な不機嫌な声と表情で、姉達親子の目の前で叱責された。

 そんな怒る事?とは思いつつ急いで火を止め、

 「お茶、もうそれだけしかないし」

 そう説明してみれば、これまた結構な不機嫌な表情と声で、

 「コンビニで買ぅてくる」

 との事。

 そうですか。と座ってチューハイをプシュっと空けてグビッと飲めばツキンと頭の奥に痛みが再発。

 ズゥンと痛む頭を誤魔化しながらヘラヘラとその場にい続ける事、数時間。

 その間完全に酔っ払った親父と完全に酔っ払った弟は姉に様々な話をしていた。

 親父は主に自分がいかに凄いのかをアピールするのに俺を引き合いに出し、散々俺を卑下した後「でも俺はちゃんとしてるで!」と自慢げに。

 親父からしてみれば悪意なんてものはないし、酔った時は大体デリカシーを放り投げてしまうので慣れてはいる。

 弟は口悪く正論を掲げる感じではあるが、取り合えず言葉選びのセンスがキツイ上に、何年もやっていない事を今でもやっているかのように言うので姉からしてみれば「SINちゃんとしろよ」という事になる訳で。耐えかねて反論すれば「お?何急に口答え?(笑)」と結構な勢いで馬鹿にされた。

 水分補給もせず、食事も昼に食べたそば半玉のみで、深夜までお酒を飲み続けた俺の精神は思いの他ボロッカスになってしまっていた。

 皆が寝静まった後は水を飲んでは吐き、飲んでは吐きを繰り返し、食道辺りが熱く痛みを伴うようになった後からは両手と両足にジィンとした痺れが出始め、そのうち両膝、両足首の間接に痛みが出た。

 翌日の夕方、台風の接近と共に姉達が帰って行った後、親父は雨の中を飲み友達に会いに行き、弟は2日酔いと寝不足でダウン。

 俺はそんな中1人で片付けをした。

 そうして夕飯にミートスパゲティーを作ったので弟に「出来たで」と声をかければ「たらこがスパゲティーが良かった」との返事。なので前日の事を少し取り入れ「前にスパゲティーした時たらこやったし?今日もたらこは嫌やろ?」と皮肉を込めて言ってみた。

 弟はその時もチューハイを飲んでいてほろ酔いで、機嫌は良さそうだった。そんな穏やかそうな笑顔で、

 「毎日姪っ子が作った飯でもえぇわ」

 と、ナチュラルに俺と姪っ子を馬鹿にした。

 人生初の悪酔いをし、精神状態があまり良くない時に無理矢理気分を盛り立てながら夕飯を作り、そして声をかければ「お前の作った飯より姪っ子の作った飯が食べたい」と捉えられる台詞を笑顔で真正面から食らった心情を察して頂けるだろうか?

 なにをそれ位。と思われるのだろうか?

 少なくとも俺には受け止めきる事が出来なかった。

 前日の精神フルボッコ状態さえなければ「ハハハっホンマに姪っ子好きなんやな!」と俺も楽しげに言えたのかも知れないが、打ちのめされて回復もしていない上に頭痛と胃痛両膝と両足首の痛みと両手足の痺れまである中では無理だったのだ。

 「ははは」

 頑張った。

 頑張って笑った。

 翌日から弟の仕事が始まり、親父は俺に誕生日祝いとして赤ワインを1本プレゼントしてくれた後、飲み友達の所へ出かけた。

 それから数時間、

 ピンポーン。

 誰かが来た。

 無視しようと思ったが気になったので窓から確認してみれば、そこには1代目が立っているではないか。

 え?なんで?

 ガチャリ。

 「なに?どした?」

 梅雨が明けるより前に気まずくなったまま1度も連絡を取っていない1代目がいきなり尋ねてくる理由が分からなかったものの招き入れると、

 「誕生日ですよね、おめでとうございます」

 と、白い箱を手渡された。

 その中にはイチゴショートとフルーツシューの2つ入っていた。

 コーヒーを淹れ、2人で2種類のケーキを半分ずつにして楽しみ、盆はどうでしたか?との1代目の質問に「まぁまぁ」と答えた。

 その翌日からは親父も仕事で、1人で過ごす時間が出来た訳なのだが、そうすると精神攻撃を受けた数々の言葉が幻聴として聞こえてくるので少しも休まらない。

 ピンポーン。

 誰かが来た。

 宅配が来る予定もないし無視してしまおうか?とは思ったが念の為に窓から確認してみれば、もう既にこっちを見ている毛むくじゃらが立っているではないか。

 え?なんで?

 ガチャリ。

 梅雨が明けきらない頃に気まずくなったまま一切の連絡も取っていない毛むくじゃらが尋ねてくる理由が分からない。

 「えっと?」

 「買い物行こ」

 強引に連れて来られたのは、まさかの近所のスーパー。

 そこの休憩所でコーヒーを飲みながら盆の事を聞かれる。

 「んで、姉ぇちゃん来たんやろ?」

 「うん」

 「どやった?飲み過ぎへんかったか?」

 「んー、飲み過ぎた」

 「アホやなぁ。しばらく禁酒な」

 深く聞かれないので深く言うつもりもなく、そのまま買い物を済ませての帰路。

 ほぼ無言の俺達はケーキ屋の前を通り過ぎ……。

 「入ろっか」

 通り過ぎなかった。

 入ると、見た事のあるイチゴショートとフルーツシューが売られている。

 1代目はここでケーキを買ってくれたのか……。

 「チーズケーキやろ?」

 「ん。チョコケーキ?」

 「美味しそうやなぁ……でもこのフルーツシューも気になる」

 こうして毛むくじゃらからチーズケーキを買ってもらい、エアコンの効いた自室内でコーヒーと共に楽しんだ。

 ちなみに、毛むくじゃらが選んだのは1代目と同じフルーツシューでしたとさ。

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