71橋
まだ梅雨もあけきらない日の事、俺は毛むくじゃらと1代目の3人で軽い飲み会を開いていた。
他愛ない話の流れから、俺は“姉から嫌われている”と、ほんの軽い気持ちで告げた。
正月とゴールデンウィークに姉は“帰省する”と日程まで決めておきながら、土壇場で“行かない”と帰ってこなかった。
正月はインフルエンザだったというハッキリとした理由が後に弟から説明されたが、ゴールデンウィークの時の理由については薄ぼんやりとしている。
何か帰省したくない理由があるのでは?と考えを巡らせて辿り着いた答えは自分の小説だ。
姉が帰省する度にそれをネタに小説を書いている訳なので、何らかの出来事があったのなら書いているだろう。との思いからだ。
そして見つけた小説の内容は、結構衝撃的だった。
「身内やからえぇけど、他人なら関わりたくない」
そうハッキリと言われているではないか!
一度思い出せば、その時の様子が鮮明に思い出され……思い至ったのだ。
これ、嫌われてるやん!
こうして俺は、
「盆休み、姉ぇちゃんの帰省に合わせて外出しようと思う」
と、軽い感じで毛むくじゃらと1代目に言った訳だ。
それに対し毛むくじゃらは経緯の説明を求めてきたので、余す事無く説明したのだが、
「正論ばっかりで反撃出来ん事をボンボン言うやろ?そんなんやってたら、そりゃ嫌われるわ」
と、姉と似たような事を言い、それに1代目も同意した。
自分でも“正論ばっかりで融通も利かず人間的な感情に乏しい”事は良く理解できているし、嫌われている事も重々承知している。だからその先の事を言っているのに、嫌われている事を再確認させてくるのはなんなんだ?
「ゆっくり帰省したいのに俺が家におったら休まれへんやろ?じゃあその間外出しとく方がお互いの為やん。おもてなしの心やで?」
その期間中は家に泊めてくれって言ってる訳じゃないし、相談ごとでもなんでもないただの世間話の筈が、とんでもなく嫌な気分になったもんだ。
「それ姉ぇちゃんに言うたら悲しむと思うで?取り合えずイラン事は言わんでえぇから。黙っとき」
イラン事とはなんだ?
俺のやる事成す事否定しかしないのかコイツは。
いや、そもそもこの話はこんなにも大袈裟に話し合うような事でもない。
しかしだ、ただの世間話をしたら人格否定をされたのだから落ち込まずにはいられないし、2人の言葉を深読みせずにはいられない。そうすると一気に気まずくなってしまうもので、俺は場の空気をこれ以上悪くしないよう、普通に30分程を楽しげに過ごした後、家の用事がある。と、それらしい事を言って逃げ出した。
梅雨があけ、弟と姉による話し合いの結果出た帰省予定日が告げられても、俺は弟にも、姉にも“イラン事”は言わずに黙っている。
そしてまた、毛むくじゃらと1代目にもそれ以降1度も連絡を取っていない。
盆休み、どうなるのか楽しみに待とうと思う。