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ソラモヨウ  作者: SIN
7/88

7片

 松原橋を写真に収め、次は本能寺跡を目指して歩く。

 大通りではないが交通量は結構あって、思った以上の住宅地。観光客が選んで通る道と言う感じではない。

 「……普通の道やん」

 そんな言葉を無視して天使突抜を目指す。そこを過ぎて1本目の油小路通を右に真っ直ぐに行くのだ。なので方向感覚を失えばそこで迷子が確定する。つまり、途中にある店屋には一切立ち寄れない。

 とは言え、俺は帰りの電車の事を考えると食事は出来ないし、毛むくじゃらはお店に入って食事をする事が嫌いだ。

 少々行き過ぎてしまったものの、なんとか油小路通を見つけて曲がり、真っ直ぐ。

 本当にここで合っているのだろうか?と不安になるほど真っ直ぐ歩いた先に、石碑はあった。

 本能寺跡と確かに書かれてある。

 「やった!ここ。着いたー」

 ズット見たかった2箇所を見る事が出来た俺は物凄い達成感に満たされていたが、毛むくじゃらの顔はパッとしない。

 「え?ここ?」

 「うん。ここ」

 「いやいや、もっと、なんか……パワースポットみたいな所は?」

 パワースポットに興味があったとは!いやいや、ここはあの本能寺の跡。パワースポットに違いない!

 石碑をパシャパシャと撮影していると、1台のタクシーが石碑前に止まった。

 ガチャリ。

 と降りて来たお客さんは石碑の前に立つと、

 パシャリと自撮り。その撮影の邪魔にならないように来た道を引き返して少し経った時だった、気が抜けでもしたのか何なのか、急に足が痛み始めた。

 確かにかなり歩いてきたが、ここで股関節が悲鳴を上げるとは……。

 「俺らって清水五条から歩いて来たやん?」

 「うん。きよみず、やけどな」

 「……戦の時の兵士って、多分やけどもっと遠くから来てるんやんな?」

 「多分な」

 「今から戦えって言われて戦える?」

 「普段から運動せぇよ?」

 「……はーい」

 帰りは来た道をそのまま引き返そうと思っていた俺の行動を知ってか知らずか、毛むくじゃらはスマホ歩きを始めた。見ているのはナビである。

 「この信号渡るでー」

 そう言った道の先にはコーヒーショップ。

 「喉渇いたなー。あー、あんな所にカフェがあるー」

 とか言おうが毛むくじゃらはスマホを見たまま、

 「喉渇いた?どっかに自販機あるやろ」

 と言うのだ。

 「折角ここまで来たのに自販機て!」

 「はいはい、えぇから着いて来ぃ」

 こうして真っ直ぐ進んだ所で、運が悪い事に自販機が……

 「あ、これ初めて見る!」

 何の迷いもなく110円で購入したお茶をゴクゴクと飲む。

 電車に乗るので俺は朝から何も食べていないし、何処にトイレがあるのかも分からないので何も飲んでいなかった。そんな体に染み渡るお茶。

 流石京都、自販機と言えどもお茶が美味い!

 と感動している俺の隣では、糖質40%減のミルクコーヒーを飲んでいる毛むくじゃらがいたりした。

 傷む股関節をどうにか誤魔化しながら歩き進め、やっとの思いで辿り付いたのは7条駅。階段を下りて帰りの切符を買おうとしたら、大阪方面の切符は向こう側へ。みたいな表記があって買う事が出来ない。

 「向こう側?」

 少し構内を歩いてみるが券売機は見当たらない。

 「一旦地上に戻って、信号渡った向こうの階段下りよっか」

 「うん」

 信号を渡って駅に降りていくと帰りの切符が買える券売機があり、ホッとした所で斜め後ろから、

 「Excuse me」

 と言う女性の声がした。

 目が合ってしまったら終わりだ。俺は英語が分からない。

 分からない事があったら駅員さんに尋ねるのが1番だし、他にも大勢の人がいるんだ。わざわざ英語の分からない俺が出る事もない。

 そう自分の中で逃げ道を沢山用意しながら切符を買って、何気に振り返った視界の中には……。

 「ココハ、ナナジョウ」

 路線図を指差しながら、片言でなにやら説明している毛むくじゃらがいた……。

 不思議そうに毛むくじゃらを見ている2人の外国人女性。

 近付いて聞いてみれば2人の女性は3条に行きたいらしいのだが、切符が買えないからどうしたら良い?みたいな事を言っている。

 さっきの俺達と全く同じ状況だ!これなら解決方法は明白。一旦地上に出て信号を渡った先にある階段を下りれば良いだけだ。

 さて、英語でなんて言うんだ?

 「アー……コッチジャナイ。ムコウノカイサツグチ!」

 キョトンとする2人の外国人女性と、パニックになる俺。

 「ウエニ、アガル、シンゴウワタル、カイダンオリタトコ」

 毛むくじゃらは思いっきり笑いを堪えている。

 「アー、ワタシ、ニホンゴNO」

 存じておりますとも!

 身振り手振りでなんとか説明しようとしても、伝わっている手応えが全くない。

 「連れてこか」

 「そうやな」

 こうして物凄い力技で問題を解決させ、また何度か休憩を挟みながら地元に戻った俺達の今回の京都観光の感想は、2人揃って「もうちょっと英語出来るようにしよ……」となった。

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