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ソラモヨウ  作者: SIN
68/88

68片

 京都へ花見に行く約束をしていた。

 それは紅葉の時期の事。

 義経と弁慶が出会った松原橋を通り、天使突破を左側に見て油小路通りを右に。そのまま真っ直ぐ、只管真っ直ぐ行った所にある本能寺跡を見る。と言うとんでもない観光を俺が企画し、毛むくじゃらを連れて行った事から始まった。

 京都まで紅葉を見に行こう。

 そう誘ったので、毛むくじゃらはパワースポット的な場所をイメージしていたらしく、まさかかなりの距離を延々、至って普通の道を歩くとは微塵にも思っていなかったらしい。

 道中にトイレがあるのかも確認していなかったので一切の飲み物も禁止で、一旦何処かの店に入ると方向感覚が分からなくなるのでどの店にも、どの寺にも立ち寄らなかった。

 こうして本能寺跡の石碑前でロマンに浸る俺の隣で、不満げな毛むくじゃらが言ったのだ。

 「次は俺が企画する」

 しかし、それ以降1度も京都には行けないでいる。

 理由は俺の電車酔いのせいらしい。

 確かに京都観光に至るまでの道中は散々で、何度も何度も休憩を挟みながら京都の五条まで向かったのだが、1回目にダウンした場所はまだ大阪だった。

 そして帰りは電車の中で蹲って顔を伏せ、完全に放心状態になりながら地元駅に着いた。

 それを見ていた毛むくじゃらの脳内では完全に“京都観光”の文字が消えたのだそう。

 去年の春、本当なら京都へ花見をしに行く筈だった俺達は大阪城で花見をしたのだった。

 来年こそは京都で花見をしよう……そう約束っぽい事をして。

 と、言う事があっての今年。

 平成最後の花見なので、なんとか説得して京都へ行こうと思っていた。

 そんな矢先、季節の変わり目恒例の体調不良に襲われたのだ。

 夜から朝にかけて胃が痛くて、指先はカサカサに乾燥し、背中も首も手も足も痒い。動悸や息切れまで出ては京都所ではないが、幸いな事に胃痛が来るのは夜から朝にかけてで、昼間は全く痛まない。

 しかし、痛い時は何をしても痛む訳で……ついつい毛むくじゃらに“胃が痛い”と言ってしまう凡ミスを犯してしまった。

 「夜と朝だけやし!大丈夫、行けるって!」

 熱弁した所で後の祭り、大阪城にすら行かないと言うではないか。

 こんな例え話と共に……

 「じゃあ、俺がまた腹痛いーってなったとしてな、夜しか痛くないから行けるって言うたらどうする?」

 いやいや。

 「夜しか痛くないーって、夜に痛いんなら安静にせなアカンやろ」

 ブゥンと頭に言葉のブーメランが刺さった気がしたので、慌てて次の手を出す。

 「でも、平成最後の花見やで」

 「じゃあ俺も、平成最後の花見やし行きたいって言うわ」

 と、毛むくじゃらはお腹を押さえ、少し上体をくの字に曲げながら言う。

 「無理して行く事ないし、そんなん来年に令和最初の花見に行ったらえぇだけやん」

 ブゥゥンと、また刺さる。しかし最後の切り札がある!

 「大阪城に花見に行くってブログに書いたもんねー!」

 「俺もオンラインゲームのチーム員に花見行くって言うてんなー」

 と、再びお腹を押さえながら。

 「体調不良の時に行く事ないやん?花見した時に花見したって言うたらえぇだけやん」

 ブゥゥゥン。

 「さっきからブーメランめっちゃ刺さってんの分かる?」

 「……痛い」

 こうして俺達は近所の公園に向かい、缶ジュース1本分の時間を葉桜を見て過ごしたのでしたとさ。

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