65橋
喫煙の文字に、タバコの絵に罰印のついた看板や張り紙は、お店に入れば目にする事も多いマークだ。
それを前にした時、フイに思い出した。
バイト先に来たお客さんが「禁煙席では電子タバコも咎められる」と言っていた事を。
禁煙ブームが巻き起こったのは、副流煙を吸う事での健康被害を考慮した結果だと思う。タバコの火は子供の目の高さ。とも聞いた事はあるが、それは喫煙者1人1人のマナーの問題であって、喫煙者全体が咎められる原因にはならない筈だ。
電子タバコから出ている煙は水蒸気で、紙タバコに比べると有害物質がかなり抑えられているという。
「禁煙席での電子タバコ、どう思います?」
気になったので、喫煙者であるバイト先の先輩に尋ねてみた。
禁煙マークを少しの間眺めた先輩は、何でもなさそうに
「煙が禁止されてんねんから、アカンのとちゃう?」
と。
「水蒸気ですよね?」
「俺が吸っているのは電子タバコですーってアピールしながら吸っとかな、中々水蒸気って見てくれる人おらんやろ」
「禁煙席を提供してる店のオーナーに電子タバコってのを伝えとけば、回りの人間がどう思おうが関係ないんじゃないでしょうか?」
「タバコ吸ってる人間を注意せん店って評判になるわな」
「電子タバコなのに?」
「吸ってる動作はタバコと一緒やん?実際煙も出てる訳やし、電子タバコの臭いが嫌な人もおるかも知れんし。人の吐いた煙を吸い込みたい人間もおらんやろ」
「あー、確かに」
中々見事に論破されてしまったので、全く同じ質問を今度は毛むくじゃらにしてみた。
「禁煙席での電子タバコ、どう思う?」
まさに電子タバコを吸っている最中だった毛むくじゃらは、少しの間電子タバコを眺めてから、
「どうって?」
と。
「禁煙席で電子タバコ吸うのはアカンと思う?えぇと思う?」
「アカンのとちゃう?」
「なんで?」
「わざわざ禁煙席で吸おうとは思わんやろ。吸うなら喫煙席行くわ」
「電子タバコの煙って水蒸気やん」
「めっちゃリアルに作られた蛙のお菓子があったとするで。で、それを持って、ホラホラーって見せられたらどうする?」
「え?」
「めっちゃリアルやねん。でもお菓子なんやで?それを飯中に持って来られたらどう?」
「嫌やな……」
「やろ?そういう事やと思うで」
またもや納得させられてしまった俺は、最後に1代目に向けて同じ質問をした。
タバコを吸わない1代目は、煙を嫌がる側の人間に違いない訳なのだが、シェアしていた頃、俺と毛むくじゃらから出る副流煙を浴びまくった過去がある。
「禁煙席で電子タバコ吸うのはアカンと思う?えぇと思う?」
ん?と不思議そうに沈黙した1代目は、多分パパッと電子タバコについて調べたのだろう、少しの間スマホに視線を落とした後、
「良いんじゃないですか?」
と。
「煙が出ているし、タバコ状のものですよ?」
「なんか、もっとタバコじゃない形に出来ないんですかね?」
「例えば?」
「笛とかハーモニカとかなら、誰もタバコだとは思わないでしょ」
なんとも斬新な答えだった。




