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ソラモヨウ  作者: SIN
6/88

6片

 少し前の事。

 今年こそは綺麗な紅葉を見に行きたいと毛むくじゃらに訴えた所、思いがけない言葉を告げられた。

 「京都にでも行こっか」

 毛むくじゃらは紅葉にあまり興味がない上に歴史にも興味がなく、茶屋に行こうと言えば自動販売機の前に行くような奴である。

 そんな毛むくじゃらの方から「京都に行こう」との言葉が出た事に嬉しさよりも驚きが勝ったのだが、それを口にすると「じゃあ止めとこ」とか言いそうなのでグッと押さえ込み、パソコンの前に座ってグーグルマップで何処に行こうかと考える。

 弁慶と牛若丸が出会った橋には以前から行ってみたかったので、まずはそこを目指すことにして、そこからどうしようかな……。

 グーグルマップ上を行ったり、来たり。路線を辿って上ったり、下ったり。

 そうしているうち、グルグルと目と頭が回り、画面酔いしてしまった。

 「普通酔う!?」

 とか言われても、酔ったのだからしょうがない。

 何度か追加で酔いながら練り上げたのは、

 清水五条駅まで電車で行って鴨川沿いを松原橋まで歩き、松原通を真っ直ぐ歩いて左側の天使突抜を眺め、更に突き進んだ先の油小路通を右に曲がって直進、本能寺跡を見る。と言う「紅葉は如何した?」と言われそうなプランだった。

 京都観光当日の朝。

 俺は前日からの調整のかいあってかなり体調が良く、これならば清水五条までの電車移動も難なく行けるだろうと思っていた。

 俺だけじゃなく、毛むくじゃらもそう思っていたらしいのだが、それは突然にやってきた。

 「次で、休憩してえぇ?」

 こうして休憩のために降り立った地は枚方公園前。

 かなり体調が良かった俺がフラフラになって降り立ったその駅は、まだ大阪である。

 「今日はここで遊んで帰る?」

 そう言いながら自動販売機でお茶を買ってくれた毛むくじゃら。

 「まだ行ける」

 枚方公園前には有名な遊園地があるのだが、京都まで行く為の切符を買ったのだからここでの途中下車は勿体無い。

 「しんどくなったらちゃんと言えよ?」

 再出発し、2度目の休憩で降りた駅に丁度やって来た特急電車に乗り込み、かなりギリギリで到着した清水五条。

 「着いた、清水五条!」

 改札を出て、新鮮な空気を一杯吸い込みながら言った所で、毛むくじゃらが静かにツッコミを入れてきた。

 「きよみず、な」

 と。

 俺は延々“しみず五条”と言っていたのだ。

 駅を降りて右手側を行けば清水寺があるのだから、言われてみれば確かに“きよみず”だ。清水寺があるから駅名が清水五条なのか!

 などと今更ながらの新事実に驚愕しながら、右手側に流れていく人に背を向けて左に進む。

 「え?こっち?」

 「うん。こっち」

 鴨川沿いを歩いていると鴨が川の中に沢山いたので、記念に写真を撮ろうと川に近付いたのだが、

 「絶対落ちるからそれ以上行くな!」

 と、全力で止められてしまった。その癖自分は川に近付き、

 「もうちょっと暖かったら入れそうやな」

 とか言うのだ。

 ノンビリと歩いて行くと正面に橋が見えてきたので、川沿いから通りに戻って欄干を見ると松原橋の文字。

 「ここが松原橋。弁慶と牛若丸が出会った橋」

 この時信号は赤で、橋には歩行者、バイクに車まで信号待ちしていた。

 「……普通の道やん」

 そんな言葉を無視して橋の中央を見てみれば、観光に訪れたのだろうカップルが自撮り棒を使用しての本格的な撮影をしていた。

 信号が青に変わってバイクも車も行ってしまってから橋を渡り始めると、何処からともなく良い風が吹いてくる。

 毛むくじゃらは、魚は泳いでないか?と、太陽の光を反射してキラキラと流れる川に目を凝らし、川の中程にある石の上では、そんな毛むくじゃらを見ているのか首を長く伸ばした鳥が1羽。

 なんと微笑ましく、平和な時間だろう?

 けれど、ここからが本番なのだ。

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