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ソラモヨウ  作者: SIN
54/88

54片

 盆に帰省していた姉が帰宅する少し前、俺にこう尋ねてきた。

 「あんまり高いもんはアレやけど、なんか欲しいもんあるか?」

 数日後にやってくる俺の誕生日を祝ってくれるらしかったのだが、生憎欲しい物に心当たりがなかった為、

 「別にえぇよ」

 と、気持ちだけ受け取る事にした。

 「なんかないんか?なんでもえぇで」

 引き下がってはくれないので、俺は大人しく欲しいものを考える事に。そうやって1つ思い当たったのは、パソコンデスクの椅子に敷いている座布団が草臥れてしまっている事だった。

 「座布団、欲しいかな……」

 すると姉は財布から2千円取り出し、熱烈に円座クッションを勧めてきた。なんでも、妊娠中に辛かった腰が、円座クッションを使う事で楽になったのだとか。

 こうして俺は姉にもらった2千円を持ってホームセンターに向かったのだった。

 ホームセンターに行く前に100均にも寄る事にして、小腹が空いたら100均の近くにあるファストフード店で何かを食べる。という計画。

 「は?」

 計画を発表した俺に対する毛むくじゃらの第一声がこれだ。

 「胃腸の調子もえぇし、前に卵のバーガー食べた時大丈夫やったし!それに今、ポテトがどのサイズでも150円やで!Lサイズでも150円って破格やろ?」

 めげずにお勧めする事しばし、

 「シェイクは飲みたいかもなぁ……」

 少しずつ折れてきた。

 その結果、バニラシェイクとポテトLを注文する事が決まり、いざ100均へ!

 ファストフード店に行く為の口実に100均に行こう。と言っただけで実際に欲しいものがある訳ではないが、店内を一通り見て回った後、いよいよファストフード店でポテトを……

 「座る場所ありそう?」

 「丁度昼時やし、いっぱいやなぁ」

 食べられなかった。

 お持ち帰りにしようとも思ったが外は暑い上に食べる場所がない。

 ポテトは31日まで150円だから。と諦め、仕方なくホームセンターへ。移動はポテトを食べた後の乗り物酔いを懸念して車ではなく自転車である。

 ホームセンターでは、用事は特にないのにペットコーナーに向かうのがお決まりで、その時も自然と足がペットコーナーに向かっていた。

 熱帯魚を飼う前は真っ先に猫を見に向かったものだが、熱帯魚を飼っている今となっては真っ先に向かう場所は魚用品売り場。

 一通り見た後は、軽く生体を眺めに向かう。

 毛むくじゃらは何故か俺の部屋でシロメダカを飼う気満々だったので、それを断りながらグッピーやらコリドラスやらを眺め、そして最後にベタ。

 ホームセンターにいるベタのオスは1匹1匹カップに入れられているのだが、余り元気そうではなかった。

 中でも一際目についたのがカップ内の水が白く濁っていて、底でジッとしたまま動かない固体。

 「大丈夫?」

 と、カップを覗き込んだ時、今まで動かなかった赤色で少し小さなベタが、ピロピロピロと胸鰭を忙しなく動かして泳ぎ始めたのだ。そればかりか、指追いまで!

 「SINに懐くなんて、珍しいな」

 確かにそうだ。

 犬には吼えられ、猫には逃げられ、ペットショップではほぼ全ての動物に無視をされている俺の指を追いかけてくれるなんて、なんて……なんて可愛らしいのだろう!

 いやいや駄目だ、水槽は繁殖用にと買った物が1つ余っているが、置く場所がない。それに飼育水も作っていないのに行き成り生体を買う訳にもいかない。

 「まずは部屋の掃除と、置く場所の確保やな。水槽用のラックはやっぱり欲しいなぁ」

 脳内で部屋の配置換えをしている俺の隣では、毛むくじゃらがニヤニヤとしている。

 「おっ、やる気やな?」

 しまった。ついつい前向きに考え過ぎてしまった。

 「部屋の掃除はやろうと思ってたの。水槽用のラックが欲しいのだって前からやし」

 「じゃあ、ラック見に行ってみよか」

 棚売り場に移動し、ステンレス製ラックのポールや棚板などを眺めながら、どうせだったら大きいラックを自作しようかな?なんて考えていると、毛むくじゃらが俺の手を引っ張って歩き出し、現品限りのお買い得ラックを見せてきた。

 それはまさに今見ていたステンレス製で、3段だった。

 財布の中には姉から円座クッション用にともらった2千円。そして目の前には現品限りのお買い得1380円のステンレス製3段ラック。

 「……買お」

 即決購入して店の外に出てからバラして持って帰り、お腹が空いたのでファストフード店……ではなく近所のスーパーで冷凍のお好み焼き2枚と焼きそば用のそばを1玉買い、電子レンジで暖めたお好み焼きの上にフライパンで作った具なし焼きそばを乗せてモダン風にし、それを昼食として食べた。

 ポテトLとシェイクがモダン焼きに、円座クッションがアルミ製3段ラックにと、初めに立てた予定をなにもこなす事が出来なかった1日になったが、これはこれで有意義で楽しい1日になった

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