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ソラモヨウ  作者: SIN
52/88

52流

 1代目の引越し当日。

 毛むくじゃらは実家に戻る事が決まっていたので、使える電化製品などはそのまま1代目の新居に運ぶ事になった。

 引越し屋さんを頼めば10万ほど掛かると言われたため、搬出も搬入も俺達だけでする事になった。

 しかし、新居のガスやエアコンの取り付けが、引越し当日にしか都合が付かなかったので、本当にその日1日で全てを完了させなければならない。

 更には、不要な物をゴミとして出す、そのゴミ収集までもが当日にあったのだ。

 冷蔵庫の中の物を全て取り出して電源を切り、無用な物をゴミの集積場所に運び出す所から始めた。

 ガタの来たテーブル、イス、棚。

 どれもこれも思い出深い品々で、何度昼寝をしたか分からないリビングのソファーもゴミの1つとして他の不用品と共に並べて置く。

 何度身支度の確認をしたか分からない鏡付きの洋服タンスも。

 しかし、やる事が沢山あるので感傷に浸っている時間などはない。

 ゴミの収集車が来るまで残り2時間を切っている上に、ガスコンロの取り付け工事が始まるまでは3時間、エアコンの取り付けもそれ位の時間と迫っていたのだから。

 それまでにゴミを全て出し、1代目の部屋に置いていたタンスや布団、扇風機や服、洗濯機や冷蔵庫等を毛むくじゃらが借りてきた軽バンに積み込み、新居まで運んで搬入しなければならない。

 まずは軽バンに詰められるだけ荷物を積み込み、毛むくじゃらと1代目が新居に行って搬入作業をしている間、俺がゴミを集積場にドンドン運び出す事になった。

 テーブルやイス、鏡付きのタンスなどを、1人でだ。

 いる物といらない物の明確な線引きは良く分からないので、言われた物だけを確実に運び出そうと思うのだが、とんでもない事に、バラす為の工具が行方不明。

 プラスドライバーや六角レンチさえあれば小さくして運び出す事も容易であるだろうタンスを、タンスの形のまま運び出すのは結構な労力がいる。まず、玄関から外に出すまでが大変で、そこから廊下を移動して、階段。床に傷を付ける訳には行かないので引き摺る事も出来ない

 「重っ」

 とか声に出した所で、俺1人しかいない。

 こんな事をしている間にも、ゴミの収集時間は刻一刻と迫ってくる。

 ドライバーの代用となるものはないか?と鍵を使ってみるが上手く回らず、爪を使おうとしてポキンと爪が粉砕。更には貴金属アレルギーが発症したせいなのか、螺子を如何にかしようとしていた指先が痒くなる。

 強敵であるタンスは一旦後回しにして、まずは軽くて簡単なイスから運び出し、続いては思ったよりもかなり重かったテーブルを休みながら運び出し、棚を2つ運び。最後にタンス。

 時間を確認するとまだ少しの猶予があったので、俺は自転車を走らせて工具を自分の家まで取りに帰った。

 工具を使えばタンスをばらす事もでき、そうなると運び出すのなんて簡単だ。

 こうしてゴミ収集の時間に間に合わせる事が出来たのだが、問題が起きた。ゴミの収集を申し込んだ毛むくじゃらの確認をとらなければならないらしいのだ。そもそも、本人がいない事には、ゴミ収集の費用が徴収出来ないのだから当たり前だ。

 「えっと、もう少しで戻ってくると思います」

 と、答えるしかないが運んだ荷物の搬入が終わらない事には戻っては来ないのだから、いつ戻ってくるのかなんて未定でしかない。

 幸いな事に10分程で戻ってきた毛むくじゃらと1代目。

 ゴミが収集されていく様子を見ながら昼食のおにぎりを食べ、昼食が終わった後は第2陣。

 服や鞄類の残りと、電子レンジや電気ポットという細かい電化製品、テレビやDVDデッキ、ゲーム機等と、食器類。

 搬出が終わると、毛むくじゃらと1代目が新居に向かうので、搬入が終わって2人が戻ってくるまで俺は暇となる……訳ではなく、掃除をしなくてはならない。

 部屋の中にはまだ荷物が残っていたのでお風呂場から掃除を始めたのだが、やればやるほど気になる箇所が出て来て、中々捗らない。

 カビを綺麗に取るには石鹸汚れを綺麗にしてから、その前に床のぬめりを取って、鏡も汚れてる!天井も!と、こんな具合だ。

 ガチャン。

 新居への搬入作業を終えた毛むくじゃらが戻ってきて、第3弾の搬出作業を始める。

 1代目は新居のガスコンロの設置やらエアコンの設置時刻が迫ってきていた為、新居での待機。

 なので、強敵である冷蔵庫と洗濯機を俺と毛むくじゃらの2人で運び出さなければならない。

 何故、冷蔵庫にも洗濯機にも良い所に持つ所がないのか!

 手がすぐに痛くなるので、その都度下ろして休憩する。移動は、手が痛くなるまでに出来るだけ遠くまで運びたいので高速摺り足。階段は1段ずつ「せーの」と声を掛け合って下ろした。

 冷蔵庫は横に寝かせて運べないので、バンに乗るだろうか?と心配していたが、何とかギリギリ入ったので、最後の敵は洗濯機のみとなった……のだが、冷蔵庫が強敵過ぎたせいなのか、洗濯機はそこまでしんどくは感じなかった。途中から毛むくじゃら1人で運んでくれたからそう思っただけなのかも知れないが……。

 荷物の運び出しが終わった後は細かいゴミの処理と、部屋の掃除が待っている。

 掃除機をかけて拭き掃除をしている最中に1代目から設置工事が終了した事を告げる連絡が来たので、掃除を一旦中断させ、2人で新居に向かい、3人で搬入作業。

 新居は白を基調とした清潔感溢れる部屋になっていて、キッチンが、広い。そして物凄くありがたい事に1階だった。

 「最後の確認に戻るから、留守番頼むわな」

 「鍵ここに置いていきますねー」

 搬入が終わった直後、2人はそう言って新居に俺1人残し行ってしまった……。

 部屋の整理をしようにも、ここは1代目の部屋なので下手に触れないし、テレビのアンテナなどもまだ繋がっていなかったのでテレビを見る事も、ゲームをする事も出来ない。そして2人は中々戻って来なかった……。

 2人が戻ってきたのは夜になってからで、その頃俺は散々としている荷物の間を縫って昼寝をしていた。

 そこから始まった荷物整理。

 慌しく動き回る1代目を見ていると、なんとも妙な感覚に脳内が支配されて、なんとなく……思った。

 子供が独り立ちする時の親の気持ちって、こんな感じなのだろうか?なんて。

 寝ようとする度に要求された「笑わせて」も今日からはないし、俺と毛むくじゃらがアフォな事を言い合っていても的確にツッコんでくれる事もない。いきなり心理テストが始まる事も、もうないんだな……。

 「いつでも遊びに来てくださいよー」

 あ、そうでもなさそう。

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