38流
ある日の昼食後、俺と毛むくじゃらは少しばかり口論になっていた。
原因は本当に些細な事で、居候日以外での俺の眠る時間について。
毛むくじゃら曰く、12時には寝ろ。
そして俺は答えた。12時なんぞ俺にとっては昼間だ。と。
「じゃあ、いつも何時に寝てるん」
「大体4時頃」
居候日がなくなった後の、俺の生活習慣を気にかけてくれているとは分かっていても朝4時に寝る習慣が身についている中での12時就寝は無茶だ。
「ええな?12時……もー、2時でええわ。2時には寝ろよ」
「バイトにはちゃんと間に合ってるんやし、別にえぇやん」
こうして平行線を辿る口論は次第にヒートアップし、もはや就寝時間など関係のない話にまで発展していく。
「だいたいSINはいっつもーーー」
「そう言う毛だってーーー」
これを少し離れたソファーに座って見ている1代目は、俺達を黙ったまま見ている。きっと、この口論が喧嘩にまで発展しない事を知っているのだろう。
「ホンマに言う事聞かんなぁ!」
締め括りとばかりにそう言い放った毛むくじゃらは、テーブルの上に置いていたコップに手を伸ばし、冷め切った白湯をグイーっと飲むから、
「どっちが。もー、腐った茶ぁ飲ませるから!」
とか言いながらコップの高台部分をぐっと持ち上げた。
「……!」
ビックリした風に、それでもしっかりと飲み干す毛むくじゃらの姿に、俺の手を退ければ良いだけなのに、なんて思いつつ、
「クダせクダせ言いながら飲ませるからな!」
なんて言って、自分で自分の言葉に笑う。するとようやく俺の手を掴み上げてコップから口を離した毛むくじゃらが、
「美味しいのん作ってや」
と、笑った。
これにて口論はおしまい。
「ええよ。ココアか紅茶か珈琲、どれがえぇ?」
ソファーに向かって尋ねると、
「アメリカンでお願いしまーす」
と、1代目がニコニコと手を上げる。
ある日の、平和な昼食後の事だった。
しかし、毛むくじゃらの中では俺が「2時に寝ると約束をした」事になっていたので、この後も何度か就寝時間についての口論は行われ、その度に平行線を辿っている。