33流
パソコンのモニターを食い入るように見つめている毛むくじゃら。
ヘッドフォンをして、前のめりになるほど真剣に何かを見ている。
そっとモニターを覗き込むと、ヘッドフォンを外した毛むくじゃらがクルッと振り返ってきて、
「心霊系。見ん方がえぇよ」
と、一言。そしてほんの数秒見逃した所を見る為に少し動画を戻した。
夕飯が出来たと呼びに行っても生返事、それでもゆっくりとリビングに出て来て無言で食べ、その後はスグにパソコンの前に戻って動画の続き。
何かとんでもなく面白い動画でも見付けたのだろうと軽く考えていたのだが、それは日曜日になっても続いた。
日曜日の朝、目が覚めて真っ先に見えたのはヘッドフォンをしてモニターを眺める毛むくじゃらの背中だったのだ。
「朝食は?」
「ん……もう食った」
もうヘッドフォンすら外さない。
少しだけ見えた画面には、確かに心霊動画が映し出されていたが、心霊番組を見ている感じではなくて、ユーザーが投稿した作り物か本物か分からないような動画を、無料動画サイトで手当たり次第見ている感じ。
「いつから見てるん?」
何となくそのままリビングに出たくなくて、思い付いた事を尋ねてみた。
鬱陶しそうにヘッドフォンを外した毛むくじゃらは、動画を一時停止させてから振り返ったのだが、何となく可笑しな顔に見えるし、顔色も何処か可笑しい。
俺には心霊的な才能が全くない。
心霊番組はチキン過ぎて見る事が出来ないし、心霊写真なんかはココダ!と思った所がことごとく外れる程、本当に霊感がない。それでも思ったのだ、
これアカンヤツや。
心霊系に興味が出るのは、心霊系に寄っている証拠……と、何処かで聞いた事がある。
どうにかして毛むくじゃらの興味を他の……例えばお笑いとか、そっちの方に向けなければ……。
そして俺は不思議な事を声に出した。
「13日連続で心霊系見たらアカン」
何故13日なのかも、なにがどうなって駄目なのかも何1つ分からないのに、その時は本気でそう思って言ったのだ。
「え?」
不思議そうに俺を見る毛むくじゃら。
「今、何日目?」
「12日……くらい」
カチカチっとマウス操作する毛むくじゃらは、心霊動画を消してお笑い動画を見始めたのだった。
モニターを前のめりで見ている姿勢は同じだというのに、昼食の時、毛むくじゃらの顔色は良くなっていた。