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ソラモヨウ  作者: SIN
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31片

 全く人の事は言えないのだが、俺は耳かきのし過ぎで外耳炎になった毛むくじゃらに説教をした。

 外耳炎になったから、という理由だけで怒っていたのではなく、毛むくじゃらは耳垂れが出ているにも拘らず、

 「気になるから」

 とかいう理由から、綿棒でグリグリと耳掃除をしていたのだ。

 「触るなって!」

 「んー……」

 とか一旦は止めても、俺が見ていないとグリグリ。

 そうなると一向に治らず、ついには耳の中が膿で塞がってしまったので、

 「耳かきは奥までしたらアカンねん。だいたい耳掃除して気持ち良く感じる所ってのは耳掃除せんでえぇ場所やねんで。やから、手前の方だけでえぇねん!」

 と、巨大なブーメランを頭にブッ差しながらの説教となった訳だ。

 本人も流石に気を付け始めたのか、今までは綿棒でもなく、爪楊枝の後ろ側で耳掃除をする事が多かった所、100均でちゃんとした耳かきを購入していた。のだが……。

 それはゴールデンウィーク初日の事。

 その日俺は他に用事があったので別行動していたのだが、夜に会えたら会おうと約束をしていて、用事が終わった俺からメールをする事になっていた。

 結局23時頃に帰宅した俺は、今日会うのは流石に無茶だと思いつつ、一応メールを送った。

 「終わった所、今何処?」

 返事が中々来ないので先にお風呂に入ってサッパリし、髪を乾かしている最中、返事が来た。

 「今日は無理かも」

 と。

 眠いのだろう。とか思いつつ、

 「なんで?」

 しばらく経って帰ってきた文章は、

 「救急車で運ばれた」

 だった。

 「なんで?」

 またしばらく経ってから帰ってきた文章には、気分が悪い事が書かれてあった。

 「原因不明で帰された。薬も無い」

 は?

 はぁ?

 「今も気分悪い?」

 「ヤバイ」

 この時点で夜中の2時になっていた。

 1回1回の返信の間がかなりある事から、相当苦しんでいたのだろう。

 何度目かの返信が駅にいるような内容だったので、俺は駅員さんに助けを求めてもう1回病院に行くようにと進めた。

 原因不明で帰されたとしても、現時点で動けない程の吐き気があるのだから、なにかしらの処置をしてもらえ。吐き気止めの薬だけでも貰え!と。

 「うん」

 それから1時間経っても返信が来なかったので、ちゃんと病院に行ったのだと安心していたのだが……

 コツコツ。

 俺の部屋の窓をノックする、独特な音がした。

 まさか?と思いつつ窓を開けると立っている毛むくじゃら。

 何故ここに!?

 夜は冷えるので疑問は後から聞く事にして部屋に招き入れ、どう言う事なのかの説明を求めてみれば、

 「タクシー使った」

 と。

 いや、聞きたいのはそこではない。

 「病院は?」

 「行ってへん」

 なにっ!?

 「今気分は?」

 「マシになった」

 フゥーン。

 マシになったとか言うので、俺は全ての経緯の説明を求めてみた。

 それによると、休みだった毛むくじゃらは電車に乗って日本橋へ行ったらしい。色々見たい物があったらしいのだが、駅に着いた瞬間に気分が悪くなったそうだ。

 それでもまだ歩ける程だった為に1件目の店に入り、そこで限界が来たそうでトイレへ駆け込み、オェェと吐こうとして出たのは、物凄い勢いの鼻血。

 喉にまで流れてくる勢いで、便器は真っ赤に染まったらしい。

 しばらくして鼻血も止まり、再びオェェと吐こうとした所で再発する物凄い勢いの鼻血。

 もう駄目だと思った毛むくじゃらは駅まで戻り、駅長室で休憩させてもらったらしいのだが、寝転んでいると全身が痺れてきたそうだ。

 「救急車呼んでください」

 こうして救急車に乗った毛むくじゃらだが、隊員さんから、

 「祝日なので救急病院に行っても大した事は出来ないと覚悟してくださいね」

 そう言われたそうな!

 救急の耳鼻科に搬送され、毛むくじゃらが受けたのは鼻の中をカメラで見られた事。しかも、グリグリと荒かったらしく、物凄く痛かったそうな……。そこで更に外耳炎が酷い事も訴えたそうだが、耳を診られる人がいなかったとかで診察はなし!全身に現れた痺れも過呼吸と言う事にされ、薬もなにもなくおしまい。

 診察は病院の2階、支払いは1階。その1階に降りる最中に吐き気によりしゃがみ込み、なんとか支払いを終えて病院の外に出た所で再び吐き気に襲われ、結構な時間を植え込みで過ごしたそうな。

 それでも再診察がない事にも驚きだが、耳鼻科の耳を診る人物がいなくても病院として成り立っている事にもビックリだ。

 病院から離れ、帰る為に駅へ向かっている最中にも吐き気に襲われて道端に座り込む。

 可笑しな話だ。

 病院からの帰り道で倒れているのだから。

 やっとの思いで駅に辿り着き、切符を買って、駅のトイレで苦しんでいる所で俺からのメール。

 まさか、そんな大変な思いをしていたとは。

 そして毛むくじゃらがとった行動は駅員に助けを求める事ではなく、119番通報する訳でもなく、タクシーに乗る事。

 タクシーに乗って、そんな大変な状態で来られても困るのだが……。

 とりあえず寝かせてから聞き出した症状を調べてみるが、めまいはなく、腹痛もないが胃が痛み、全身の痺れと吐き気、凄まじい鼻血、そして酷い外耳炎。その全てが当てはまる原因を見つけきれない。

 なので近所に耳鼻科がないかと検索すると、物凄いご近所に1件あるではないか!

 翌朝、目覚めた毛むくじゃらにそこへ行くようにと強めに言うと、大人しく出かけていった。

 1時間程だっただろうか、何故か実家にではなく俺の部屋に戻って来た毛むくじゃらは、たった今受けたばかりの診察に対し、親切で丁寧で、鼻のカメラも全く痛くなくて、耳や喉も診てくれた!と嬉しそうに言ってきたのだが……昨日の救急病院でどんな扱いを受けたのだろう?と疑問に思ってしまった。

 耳は外耳炎で間違いないようで、ほぼ俺が言った事をそのまま言われたそうな。喉は昨日胃酸を吐いた為に荒れていて、鼻は内科でも見られない程の奥の方から出血していたらしい。なので、次に出血したら救急病院に行ってくださいと言われ、示された病院名は、昨日散々な目に遭わされた耳鼻科だったそうな。

 「次鼻血出ても病院行かへんやろ?」

 「うん」

 即答だったので、俺はとりあえず、

 「次に鼻血が出たら軽く俯いて20分間小鼻を摘んでみて。それで止まらんかったらもう20分。それでも止まらんかったら病院な」

 と、言っておいたのだが絶対に忘れそうなので、休みの間監視する事にした。

 毛むくじゃらは現在、俺の後ろで眠っている。

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