30流
長い時間一緒にいると、その人とだけ通じる言葉が出来たりする。
熟年夫婦で言う「アレ」だけで会話が成立するような感覚に近いのかも知れない。
もちろん、俺と毛むくじゃらの間にもそういうのが地味に沢山ある。分かりやすいので言えば「おかこもそ」「おかいも」「おかいものにっころがし」「おかここここここここ」だ。これら全て「おかえり」という意味である。言われた方は「ただこもそ」「ただいも」「ただいものにっころがし」「こここここここ」と返事をする。最後の「こここここここ」は2人して言うので止める人がいなければ結構な時間続いてしまう。
うん、アフォだ。
ある日の事、帰ってきた毛むくじゃらに、少し省略して声をかけた。
「いもー」
と。
すると毛むくじゃらは始めて耳にする筈の挨拶に戸惑う事もなく、
「いもー」
と返してきた。
困惑したのは1代目で、すぐさま尋ねてきた。
「いも?」
非常に単刀直入に尋ねられ、出来るだけ丁寧に説明した。
「おかえりーの、いも」
と、俺。
「ただいまーの、いも」
と、毛むくじゃら。
するとまた1代目が言うのだ。
「……いも?」
ちょっと申し訳なさそうに。
「おかえりーがおかいもーになって、いもに進化してん」
「退化やろ」
こうして「いも」の意味を知った1代目を前に、俺達は再び声を掛け合った。
「まめー」
「まめー」
と。
「まめ!?」
因みに「まめ」とは「おつかれ」の事で、「おつかれー」から「おつまめー」になって、最後「まめ」に退化したという……うん、アフォだ。