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ソラモヨウ  作者: SIN
21/88

21流

 1年前の、バレンタイン目前の出来事。

 俺は完全にバレンタインを無視しようと考えていたのだが、スーパーでは抹茶味のお菓子が沢山販売されているではないか!

 お菓子だから無視しても良かったのだが、少し前に食べた抹茶味のアイスはかなり美味しかったので、バレンタインだからと理由を付けてお菓子を1箱購入し、意気揚々と毛むくじゃらと1代目の家に向かった。

 夕食が済み、片付けをした後小皿を3枚テーブルに置く。

 そして取り出したのは抹茶味のお菓子!

 ドンとテーブルの中央に箱を置くと、

 「どうしたんですか?」

 と、不思議そうに1代目が尋ねてきたので、早めのバレンタインであると告げ、もちろん、抹茶味アピールもしておいた。

 「自分が食いたいだけやろ?」

 流石毛むくじゃら、大正解!

 一通りの反応があったので箱を開け、6個入りのお菓子を3枚の小皿に2個ずつ乗せていると、

 「今日はコーヒー……黒い汁はなしですか?」

 1代目はちゃんとコーヒーと発音した後、黒い汁とわざわざ言い直した。

 コーヒーポットの変わりに計量カップでコーヒーをドリップする俺を見た1代目が“ビーカーに見えますね”と言い、更にコーヒーの事を“黒い汁”と命名していたのだが、言い直さなくても良いんじゃなかろうか?

 「飲みますか?」

 「薄めが良い」

 「あ、俺も薄めが良いです」

 鞄の中から計量カップとドリッパー、フィルターと豆を取り出し、前回までと全く同じ分量でコーヒーの抽出を始める。なぜなら俺は濃いめが飲みたいから!

 こうして出来上がったコーヒーを3等分……ではなく、毛むくじゃらと1代目のコップにはいつもより若干少なめに注ぎ、お湯を足して薄めた。

 その夜、夜中の2時過ぎだったか。

 目が覚めたのでリビングに移動して少し窓を開け、ソファーに寝転がりながらの月見をしていると、毛むくじゃらもやって来た。

 「寝られへんの?」

 全く同じ台詞を返してやりたいが、そんな気分じゃない。

 思う事がある。

 俺はもう自宅警備兵ではないが、細かい事はひっそりとしている。

 例えば、親父がお風呂掃除をする時は湯船の中と壁が中心なので、俺は入浴時にちょちょいと浴室の床と排水溝掃除をする。

 他には、ダイニングテーブルの上に出しっ放しにされている食パンの袋を棚の中にしまうとか、シンク周りの掃除とか、エアコンや石油ストーブのフィルター掃除とか、掃除機の紙パック交換とか。

 「俺がおらんくなったら、皆どうするかな?」

 誰かがするのだろうか?それとも、誰もしないままなのだろうか?

 「皆って?」

 毛むくじゃらだってそうだ。1代目もそう。

 「皆」

 少しは惜しんでくれるだろうか?

 「……まぁ、何も変わらんやろな」

 言うと思った。

 「そっか」

 変わらずにいるなら、それは良い事なのだろう。

 こんなやりとりがあった1年後の今、俺はまだひっそりと細かい事をしている。

 何も変わらないのは皆ではなく、自分だったようだ。

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