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ソラモヨウ  作者: SIN
15/88

15流

 これは毛むくじゃらと喧嘩中だった頃の話。

 土曜日には外泊しなければならなかった。実家住みの俺にとってそれは野宿命令に等しかったが、毛むくじゃらと1代目がシェア生活をしているマンションに居候しに行く事になっていたので強制外泊日を楽しみにしていた程。

 喧嘩中は、流石に行かなかったが……。

 そんな喧嘩中の、土曜日の事。

 時間はまだ家を出るには早い6時ちょっと過ぎだっただろうか、部屋をノックする音が聞こえた。

 なんだろうか?と思いながらドアを開けると、1枚のお皿を手渡された。上に乗っていたのは天ぷら。

 だけど、かき揚げにされているので一見しただけでは具材が何なのか分からない。

 油物だし、外出前だし、食べないでおこう。

 そう思って手を付けずにいると、数分後にまたノック音がした。

 なんだろうか?と思いながらドアを開けると、

 「美味い?もう1ついるか?」

 今すぐに食べろと言う圧力をかけられてしまったのだ。

 「お腹空いてへんし、もういらん」

 と返事をしたが、とりあえず受け取った分は食べなければならないので、恐る恐る食べてみた。

 ゴボウと、さつまいもの味の他に、海老の食感。

 飲み込んでは駄目な奴だ。

 「どう?美味いやろ?」

 噛んで、噛んで、噛んで、噛んで。

 「うん」

 無難な答えを口から出す。

 胃薬を飲んで、8時過ぎに家を出た。

 自転車に乗って、古本屋に行って、そこで閉店するまで立ち読みをする。その後は近くの24時間営業のファストフード店に行って1杯だけコーヒーを飲み、自転車を押しながら自宅に向けてゆっくりと歩く……こうすると2時頃家に辿り着ける。

 2時頃には皆眠っているから、帰宅する事が出来る……筈。

 チクリと胃が痛み出したのは古本屋に向けての移動中だった。

 その後はどんどん具合が悪くなり、その結果、俺は横になれる場所を求めて自転車を家に向けた。自分の家ではなく、毛むくじゃらと1代目の家に向けて。

 ピンポーン♪

 「はいはーい」

 中から声が聞こえて玄関が開く。中には笑顔の1代目。

 「少し……ごめん……」

 そう言って座り込み、靴を脱いだ所でキリリとした痛みが来て、俺は玄関先と言う邪魔な場所に寝転んだ。

 寒いと感じる余裕もなく、握り拳を鳩尾に当ててうつ伏せになる。

 グリグリと胃を押さえ付けると、痛みが少し紛れるのだ。

 「大丈夫ですか!?」

 隣で声を上げる1代目と、駆け寄ってくる足音。

 「どうしたんや!?」

 こんな簡単な問いかけにすら答える気力がない。

 息をしたくない。

 「このままにしといて」

 邪魔な場所と言う事は分かってはいたが、動けなかった。

 フッと意識が戻るような感覚がして目を開けてみると、俺はいつの間にか布団の中に移動していて、毛布を被っていた。

 こんな人騒がせな訪問者など、放って置けば良いのに。

 リビングには毛むくじゃらがいて、俺の方を既に眺めていた。

 「で、どうしたん」

 反応が出ている所を見られたのだから、嘘をついたって無駄だろうし、誤魔化す必要もない。

 「かき揚げの中に海老入ってた」

 俺が海老にアレルギーを持っている事を知っている毛むくじゃらにとっては、この説明だけで充分だったのだろう、

 「はぁ!?」

 と、顔面を思いっきり蹴ってきそうな勢いで睨んできた。

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