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〜咎を持って生まれた者10〜

向けられる視線に目を合わせられず二人はそっぽを向き、ロンはそれを似合ってないと思われたと勘違いし一人で落ち込む。


息をする事さえ忘れてしまいそうな華やかさと、きらびやかさに囲まれて、そうして三人の時間は過ぎていく。






一人は、守るべき相手を見つけ――




一人は、信じるべき相手を見つけ――




一人は、淡々と静かに恋をして――




流れる時間が一緒でも、交わらない線であった少年少女達。


しかしある時偶然が、運命のようにタイミングよく、これからの道を宿命づけるように線を交差させた。


時に速く、時に緩やかに、そして三人の足は歩み始める。












――と、ゆったりとした音楽が流れ出す。エントランスの上に待機していた楽士隊が奏で始めたのだ。


それに合わせ生徒達は手に手を取り、楽しそうに踊り出す。



「……え?」



落ち込んでいたロンへ、二本の腕が伸ばされた。


その先に立つ二人の少女は緩やかに笑い、優しげに声を送る。



「ほら、仕方ないから踊ってやるわよ」



「踊ろう」



胸の奥深くに染み入るようなその言葉にロンは僅か瞳を濡らす。


人にかけられた優しい言葉……それが、ロンの枯れた心に雫を落とす。



「――僕で、よろしければ」



そしてロンは、差し出された手を握った。


ーー淡く月光に照らされるインクリス魔法学院。


ここで行われている銀月の舞踏会で、踊る生徒達の注目を集める者達がいた。



「ちょっと! 離しなさいよエルラ!!」



「無理」



「……え~と」




手に手を取って踊る、三人の少年少女達。


ペアというかトリオというか、少年が両手に花状態で踊っていて他の男子生徒から羨ましそうな声が上がるが、実際はそんな事は決してなく――



「ロンは、あなたとじゃなく私と踊りたいはず」



「なっ!? 使い魔と踊るのは主の私しかいないの、あんたは関係ないでしょうがー!!」



「ちょっ、あの二人共手を強く握りすぎ――痛い! おお折れる折れるっ!?」



二人の少女に翻弄されながら、踊るというより振り回されているような少年。


言い合いをしながら踊り続ける三人は、それでもやはり、楽しそう。


真っ赤な髪を揺らして涙目で見る者や、薔薇を噛んで恨めしそうに見る者の視線を集めながら、三人は、三者三葉の音を響き合わせながら踊り合う。



「生徒達! 今夜は楽しんでるか!!」



と、高らかな声と同時、照明が突然に落とされた。


生徒達から驚いた声が上がる中、中央の螺旋階段が何処からともなく放たれるライトに照らされる。光の円の中に姿を現したのは、毒々しいくらい赤いドレスを身に着けたビネノアだった。



「今宵、こんなにも楽しく盛大な舞踏会を開けた事を私は嬉しく思う! それもこれも、彼のお陰だ!!」



ライトがもう一つ放たれ、それが当たる場所に視線が集まる。


いたのは、三人。


そして彼とは、その中の、ロンという少年。



「皆ももう噂で知っているだろうが、昼間に私が言っていた使者を見事撃退し、この学院を守ってくれたのは彼――ミス・メサイアの使い魔、ロンなのだ!!」



使者が現われた場所にロン、シエル、エルラがいた事はいつの間にか生徒達に知れ渡っていた。


ロンがそれを撃退したのも、噂としてではあるが、周りでは周知の事となっていた。



「ロン! こっちへ来てくれないか!」



ビネノアに呼ばれ、ロンは螺旋階段へと歩き出そうとするが、手を繋いでいる二人の少女が不安げな顔で見ている事に気付く。


それに笑みだけ向けると、手を解き、ロンは歩き出した。


ビネノアの位置まで付くと、彼女は肩を掴み強引に引き寄せる。



「とりあえず私の口裏に合わせるんだ」



小声で素早く囁くと彼女はまた大声で生徒達に喋り出す。



「こんなにも勇猛果敢な者を私は初めて見た! 勝手な行動は確かに褒められた事ではないが、どんな事をしても守りたい人を守る――使い魔の鏡だと思わないか!!」



ビネノアの熱い演説に歓声を送る生徒もいる。


それを笑顔で受け取り、ビネノアは更に続ける。



「だが使い魔なりたての『平民』の彼がなぜ使者を撃退できたのか――私も驚いたが、彼は驚くような隠し玉を持っていたのだ!!」



ビネノアの発言に驚きの表情を向けるロン。


シエルとエルラも、まさかという顔をする。



まさか、彼女はロンの『正体』を言うつもりでは――


そんな不安を感じ取ったのだろう、ビネノアはしかしロンにだけ分かるようにウインクをすると口を開いた。



「それが、これだぁ!!」



「……え?」



ビネノアの手には、一体どこに持っていたのと聞きたくなるような、大きなガラス玉。


高々に持ち上げると、一際大きな声で彼女は言う。



「ロンが勝てたのは、この私ですら見た事がない希少なマジックアイテムのお陰らしい! ロンの家に代々伝わっていたこれは『竜玉』と言って、使うと竜のような力を発揮できる、そうなんだろ?」



突然振られたのでロンはビックリした顔をしたが、何とか頷く事はできた。



「しかし、マジックアイテムを使えるという事はロンにもメイジの才能があるという事! そこで私は決めた!!」



ビネノアは取り出した杖を振るう、そして宙に現われたのは、一枚のマント。



「ロンを『特別奨励制度』を適用した、特待生にする! ミス・メサイアの使い魔をやりながら、一生徒として勉強してもらうつもりだ!!」



マントを優しくロンにかけてやり、またウインクしたビネノア。


呆けた顔で為すがままだったロンであるが、言われた事を理解できた時と聞いていた生徒達から驚きの声が上がったのは、一緒だった――









再び照明の付けられた会場をどよめきが包み込んでいた。


何人かの先生がビネノアに詰め寄り説明を求めているが、ビネノアと言えば、そしらぬ顔でワイングラスを傾けている。



「僕が……メイジ」



纏ったマントに触り、近くのテーブルに渡されたガラス玉を置く。


これが、学院にいる事の出来る嘘なのだろうか。


しかしこれでは、詰めが甘いのではとロンは思う。



「訳が分からないわ」



「でも、いい事ではある」



シエルとエルラが近くに来る。


と、こちらに見知らぬ生徒が数人歩いてきた。



「やぁ平民君。まさか平民がメイジになれるなんてね、もしかして、その為に使者を撃退してくれたのか?」



「なぁ、本当にお前マジックアイテムが使えるの? 証明してみてくれねぇか?」



薄ら笑いで言ってくる生徒達にエルラが無言で立ち塞がる。


エルラがデルタクラスである事を知っているのか、生徒達は苦々しい顔をするとすぐに去っていった。



「……これじゃこの後、何度も言われるわよ。マジックアイテムを使ってみてくれってね」



「でもこれ、どう見てもガラス玉なんですよね」



嘘を考えてくれたビネノアには悪いが、このマジックアイテムというガラス玉がある限りロンは今のような事を言われるだろう。


最初はいいが、いつかは必ずボロが出るはず。


その時の事をビネノアは考えているのか――


「おい、何だあれ……」



「鳥……か?」



「飛竜か?」



「――いや! ああああれはぁ!?」



その時、窓際のざわめきが徐々に大きくなり誰かが叫んだ瞬間――













「参上! ですわ!!」



可愛らしい声と共に煙がホール中に発生。途端に周りが見えなくなってしまった。


何事かと騒ぎ出す生徒達や慌てふためく先生達、そんな何も見えない中、シエルとエルラにしっかりと手を握られてロンは辺りを警戒する。



「…………まさか、生きてる内にまたお会いするなんて思ってなかったですの」



「!?」



――警戒はしていたはずなのに、いつ現われたのか目の前には見知らぬ少女が立っていた。


黒のローブを纏い、被ったフードから覗く黒い瞳がロンを見る。



「だ、誰ですか!?」



「……心配しなくてもいいですの。(ワタクシ)はオバ様に頼まれてそのガラス玉を貰いにきただけですから」



ロンの問いに少しだけ哀しそうな顔をしたのは一瞬。


すぐに少女は艶ある笑みを浮かべて杖を取り出し、置かれていたガラス玉が宙に浮かせる。


驚いたロンであったが、少女に視線を戻すと顔がすぐ目の前にあり更に驚く。



「機会があれば、またお会いしましょうね、ロン様」



軽くウインクし少女は音もなく煙の中に消える。



「それでは、あなた様の竜玉、確かに怪盗ピリコが頂きましたですの!」



その言葉の後、煙は徐々に晴れていく。


ざわめいていた声はあるもののホールは通常の風景に戻り、混乱は治まり始める。



「何だったの一体……」



「意味不明だった」



シエルとエルラに話しかけられロンは先程の事を言おうとした。


しかし口を開く直前に、二人の少女の表情が自分を見て引きつっていくのが分かった。



「な……何よ、それ」



「………………」



引きつった顔から怒り顔になっていく二人に、どうしたのかと聞こうとした時――二つの拳がめり込んで声は出せなかった。


拳が離れたロンの顔には、一枚の紙とキスマークが一つ。



紙には『あなた様の大事なもの頂きました~怪盗ピリコ~』と書いてあった――









舞踏会の会場から離れた林の中、ローブ姿の少女は地面にガラス玉を投げ落とした。


その上に脱いだローブをかけると杖を取り出し、呪文を唱えて火を付けた。


火によって照らし出された少女は、黒い髪に黒い瞳で、学院の生徒達と『同じ』格好をしていた。


そして唇に触り、小さく呟く。




「――竜の、咎人」




見た目からは想像できない程の妖艶な笑みを浮かべ、少女は火が消えるまで立ち尽くしていた――


















竜玉が無くなったのに気付いたのはロンが床に倒れた後で、また、ロンに付けられていた紙を見て、一部の男子生徒は大歓声を上げた。


書かれていた『怪盗ピリコ』という文字。


それは巷では、話題沸騰中の名前だったりする。


可愛らしい声と共に現われ、風のように盗み、妖艶な笑みを残して消える怪盗。


体格から少女とされてはいるが正体を知る者はなく、また、声と笑みにやられる男が多く、密かにファンクラブがある程の人気がある、話題沸騰中の怪盗。


なぜそんなのがロンの竜玉を盗んだのか。



いや、それよりも――



「こここれはもしかしてピリコちゃんのキキキスマークなのか!?」



「な、何でお前ばっかり美少女に囲まれるんだよ!!」



「頼む平民様! 舐めさせて! 舐めさせでべごばあぇっ!!」



目を血走らせた男子生徒に一気に囲まれ埋まりそうになるロン。


助けを求めるようにシエルとエルラを見たが――



「当然の報いよ!」



「ロンが、悪い」



いいか悪いか、この事件で竜玉で何か言われる事は無くなった――









インクリス魔法学院から遠く離れた場所に、岩の連山を後ろに背負うように古城が建っていた。


そんな、人の寄りつかない辺境に建つ古城に、整備されていない道を通り幾つかの大型トラックが到着する。


荷台には布を被せられ中身が見えないが、一台の荷台からは大きな羽や尻尾が飛び出して、しかし血にまみれたそれは動く気配がない。


運転席から鎧姿の者が降りてきて、古城から出てきた白衣の者に書類を渡す。


それを古城の入口で見つめる、白衣姿の若い女性。


灰色の長髪を風が舞うままになびかせ、取り出したトランシーバーに話しかける。



「博士。学院に向かっていた飛竜の死体が到着しました。すぐさま取り付けていた映像記録機の解析を進めますか?」



一拍置いて、トランシーバーから幼い子供のような声が返ってきた。



「そうだね、試作品とはいえ通常の飛竜の五倍は強いはずの、僕の『作品』を壊したんだ。その原因はすぐに見つけたいな」



聞いて、女性は薄く笑う。



「分かりました。全てはあなたの、狂気のままに――」



すぐに女性は、周りに指示を飛ばし始めた――――




~シエルの使い魔・天蓋峠の化け物退治に続く~




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