第23話 楽しい学園生活 5
「ふへぇ~ぃ。疲れたぁ~」
ボクはグッタリしながら鍛錬場の入り口をくぐった。
鍛錬場の入り口に設置されている魔法道具は便利だ。
汚れた服や体を綺麗にしてくれるし、解かれた守護の魔法も自動的にもとへと戻してくれる。
疲れ果てた頭で何かを考える必要がない。
そこへマドックス先生の指示が飛ぶ。
「あー、そうそう。食堂へ鍛錬服のまま行くのは禁止だぞぉ~。きちんと制服に着替えてからいきなさい」
わぁ~、大変だ―。
また面倒な着替えをしなきゃいけない。
ただでさえ疲れ果てているボクたちは、さらにへこたれた。
腹ペコなうえ、苦手な着替えをしなきゃいけないといわれて、マキシムはあからさまに不機嫌だ。
「お腹すいているし、綺麗にしてもらったから、このままでいいのに」
喉の奥でギュルギュル唸り声をあげている。
見た目は子どもで可愛いけど、綺麗な青い瞳がギラッと光ったのをボクは見逃さなかった。
腹をすかせた動物が野生に帰ると危ないんだからね。
ボクはなだめるようにマキシムの白い髪を撫でた。
着替えも手伝ってあげよう。
セインとカーティスもマキシムの頭を撫でている。
この2人は撫でたいからボクに便乗して撫でてるだけだ。
ダメダメな王子さまとお付きの人だと思うのだが、周りから見たらボクたち四人は仲良し四人組なんだよ。
おかしいねぇ~。
ボクたちはワイワイ言いながら、疲れた体に鞭打って着替えを終えて、食堂へと向かった。
学園の建物はやたらと広い。
歩いているだけで体力づくりができそうだ。
更衣室から食堂まで階段がないのは救いだけど、それだけ広いってことだよ。
少しは縦に積むことも考えたらよかったのに。
マキシムが鼻をうごめかせて、うっとりとつぶやく。
「あーいい匂い」
確かに食堂の近くに来ると、美味しそうな匂いが漂ってくる。
獣人のマキシムは鼻がいいからたまらないだろうな。
「早く行こう」
「あ、ダメだよマキシム。走ったら」
走り出しそうなマキシムを抑えるようにボクは彼と手をつないだ。
先生方はお行儀にうるさいからね。
バタバタと走って食堂に滑り込んだら、お預けをされかねない。
「そうだぞ、マキシム。こういう時こそ余裕をもって高貴に……」
セインが胸を張って偉そうに言っている。
「そうです。それでこそ王子!」
カーティスが小さく手を叩きながらセインを称えている。
そういうことをするからセインがいい気になって威張りんぼになっちゃうんだから。
ボクはちょっとだけ2人を睨んだ。
でもお腹がすいているから相手にしないで、とっとと食堂へ入る。
王立学園の食堂はビュッフェ形式だ。
とても広い食堂はすべての生徒が座っても余裕がありそうだけど、上級生から入場する決まりになっている。
だからボクたち初等科の二年生が食べるのは、ちょっと遅い時間だ。
料理も上級生から取っていくことになるから、メニューも違ったりする。
でも初等科の一年生と高等科の三年生では好みも、必要な栄養も違うからね。
今のところ不満はない。
量はたっぷり用意してくれてあるしね。
それに入場が早い上級生たちは授業の時間も違う。
早くから始まって、終わるのも遅い。
だから高等科になると通学の時間を惜しんで、寮に入る生徒が増えるんだ。
そうなるとご飯も三食、食堂で摂ることになる。
ボクは屋敷で朝食と夕食は好きなものが食べられるのだし、ちょっとは優遇してあげないと可哀そうだよね。
まだお喋りしながら食堂にいる上級生たちを、ボクは横目でチロッと見ながら思った。
さっそくお皿を持って料理を盛り始めたマキシムが、ニコニコしながら言う。
「今日の料理も美味しそうだね」
「うん。でもマキシムは寮生活だから、食堂での食事は飽きちゃったんじゃない?」
「そうでもないよ。獣人族の食事と違って、人間族の食事は色々と種類があるし」
ならいいけど。
「週末は家へ遊びに来てよ。せっかく人間族の国へ来たんだから、いろいろと案内するよ」
「ありがとう、アイリス」
マキシムがニコッと笑うと頭を撫でてあげたくなるなぁ。
今は食器を両手で持っているから無理だけど。
マキシムとボク、セインとカーティスは長いテーブルをはさんで向かい合わせに座り、わいわい話しながら昼食を食べた。
こうして楽しく過ごしていると思う。
卒業して、オズワルドと結婚して、同じ職場で働くことができたら。
朝ご飯も、お昼ご飯も、夕ご飯も、一緒に食べられるよね?
それって、とてもいいよね。楽しみー。
「あー……アイリス? 我のプリンも食べるか?」
「え? いらないよ?」
セインが複雑な表情を浮かべてボクを見ている。
なんだろう?
ボクはそこまで食いしん坊じゃないし、ビュッフェ形式だから足りなければ取りに行くよ。
カーティスがボクの口元を指さすして言う。
「でもヨダレが……」
「ふぇ?」
ちがーう。
これはそういう意味じゃない。
……あ、でもコレは他人に言えない恥ずかしいヤツだ。
ボクは慌てて口元を拭った。




