1.真冬の記憶 前編
お読みいただきありがとうございます。
アリステル番外編です。全20話予定。
こちらが終わり次第、天地狂乱事件の天威師視点を投稿開始します(神様に嫌われた神官〜の方で、第10章として聖威師視点を投稿します)。
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その日は歪な形のぼたん雪が降りしきる、厳冬の最中だった。寒空の下、裸足で白雪を踏み付けながら歩けば肌が青くなり、吐き出す息は霞のごとき湯気を上げたかと思えば瞬く間に凍り付く。肺腑の奥まで貫かれるような冷気の感覚と、呼吸するごとに漂う霞のような水蒸気が、自分の身が体温を持って生きていることを証明していた。
「わあ、何て素敵なんだろう。豪華だねぇ」
「ザッカース王国のモーリス王子が王族に復帰する儀式だからなぁ」
「連日この儀式のことがニュースになってるよな。あと、新しい聖威師が2人ほど生まれたとか、皇国で三千年ぶりに日神の女性天威師が現れたとかも流れてるか」
街中の広場に置かれた大型の報道霊具が輝き、全国各地から入るニュースを虚空に投影している。雪の重みで潰れてしまいそうな霊具は、年季が入った旧式の物だ。こんな辺鄙な村では予算も少なく、新しい物に替えることもできない。
それでも、オンボロ霊具はまだまだ現役で動いており、周囲には何名かの者が集まっていた。何しろこの片田舎では、家に小型の報道霊具を置いていない者も多い。皆、防寒霊具を身に付け、分厚いコートや手袋、マフラーを装備して映像を食い入るように見ている。
(何が映ってるんだろう)
薄手のボロ布一枚で広場の前を通りかかったアリステルは、彼らの隙間から映像を垣間見た。そこに映っていたのは、天上の世界と見紛うような景色だった。
豪奢な広間に煌めくシャンデリア。大小様々な宝石が連なった装飾品を幾重にも身に纏い、最高級のシルクで織り上げられた衣を着込んだ少年が、緊張した面持ちで前を向いている。
「モーリス王子が5歳の頃に乗った船が難破して、行方不明になってたらしい。海に宿る霊威が渦巻く場所での事故だったから、霊具での追跡や探査も阻害されたんだ。これはもう死んじまったと思われてたけど、実は生きてたんだってよ。5年越しの発見だ」
「運良く船の瓦礫にしがみついて岸に辿り着いたけど、悪い奴らに拾われちまって奴隷扱いでこき使われてたんだろ。ソイツらが街で暴力沙汰を起こして捕縛されたから、家に捜査の手が入って王子が発見された。聞けばこの家の子じゃねえって言うから、じゃあ誰だってコトで、調査隊が霊具で調べて素性が分かったんだよな」
「へー、やけに詳しいじゃないかアンタら」
「当たり前だろ。何度もこの映像が大映しされて、その度にお可哀想なモーリス王子様の解説が入るんだからよ」
「そうなのかい。アタシはあんまり報道霊具を見ないから知らなかったよ。ま、無事に帰れてめでたしめでたしじゃないか。ご覧よ、王子の右腕に光ってるでっかいブレスレット。透き通っててキレイだねぇ。アタシたちには想像も付かない品なんだろう」
「報道の説明によれば、高純度の結晶花を加工して作られた物だとさ」
「結晶花! そりゃアレだろう、花びらが結晶でできてて、透明なほど価値が高いとかいう……。良い物は豪邸が建てられるくらいの高値が付くんじゃなかったかい? それを惜しげもなく使うなんてすごいねぇ」
「ザッカースの王子に受け継がれる物なんだと。王子が付けてるブローチも短剣も、全部そうらしい。さすがミレニアム帝国の属国の中でも指折りの大国だ。あの透明度と大きさだったら、豪邸どころか小さな城くらい作れるんじゃないか。王子の部屋には結晶花でできた調度が何個も置いてあるってよ」
「はぁ〜」
遠慮なく会話する皆の前では相変わらず、自分と同い年くらいの王子が映っている。柔らかな金髪に、宝石がはまり込んだかのような緑眼。その後ろには、付き人たちがズラリと控えていた。おそらく侍従とかいうやつだろう。
(きっと本物の宝石だ……)
侍従たちのタイピンに光っているのは、粉雪の粒ほどの大きさしかない極小の宝石。王子に復帰した少年が付けている結晶花の宝飾品とは比べるべくもない。だが、それ一つあれば、自分と弟は何年生活していけるだろうか。
ありがとうございました。
序盤で村人が話している、「新しい聖威師が2人ほど生まれた」はフルードと当真のこと、皇国三千年ぶりの日神の女性天威師は日香のことです。




