表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星祈りの少女は、傷ついた世界を旅する  作者: 天野みんと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/59

第一章 癒しの少女と黒狼の剣士

空気感など気に入っていただけましたら嬉しいです!

 この世界には、魔気が満ちている。

 草木が芽吹くのも、火が燃えるのも、人が魔法を使えるのも、すべて魔気の循環によるものだ。

 けれど魔気は、ときに淀む。

 深い森の底。

 戦場の跡。

 悲しみが積もった土地。

 そこに生まれる濁りを、人々は“魔障”と呼んだ。

 魔障は、悪ではない。

 本来は世界の一部。

 自然に生まれ、自然に巡り、やがて薄れていくもの。

 けれど人は、それを恐れた。

 病を生み、土地を枯らし、獣を魔獣へ変えるそれを。

 だから人々は祈った。

 ――どうか、この穢れを消してください。

 そしてその祈りに応え続けた一族がいた。

 星祈り。

 魔障をその身に引き受け、世界を浄化する者たち。

 かつて彼らは、聖者と呼ばれた。

 けれど今、その名を知る者はほとんどいない。

 救い続けた者たちが、最後にどうなったのかを。

 人々は、忘れてしまったから。

 ◇

 王都アストレアの朝は、白銀の鐘の音で始まる。

 街外れの小さな治療院で、セリアは薬草を束ねていた。

 淡い灰桜色の髪。

 朝露のように静かな瞳。

 白と淡青のローブ。

 彼女は王都でも珍しい、光属性の治癒師だった。

「セリアさん! 北門で冒険者が負傷を!」

 扉が勢いよく開く。

 セリアは束ねていた薬草を置き、すぐに杖を手に取った。

「分かった。すぐ行くね」

 北門には、血の匂いと焦りが満ちていた。

 魔獣に襲われた若い冒険者たちが、地面に横たわっている。

「毒が回ってる……回復薬が効かない!」

 セリアは膝をつき、負傷者の手を取った。

「大丈夫。まだ助かるよ」

 手のひらに、淡い光が灯る。

「――《ヒールシャワー》」

 温かな光が降り注いだ。

 傷が塞がり、毒に紫色へ変わっていた肌が元の色を取り戻していく。

「すごい……」

「さすがセリアさんだ……」

 誰かが呟く。

 けれどセリアは、誇るような顔をしなかった。

「無理しないで。今日はちゃんと休んでね」

 ただ、そう微笑むだけだった。

 その時。

「相変わらずだな」

 低い声がした。

 振り返ると、黒髪の青年が立っていた。

 鋭い金色の瞳。

 使い込まれた剣。

 黒い外套。

 王都でも名の知れたS級冒険者。

 “黒狼”のレオン。

「助けられるなら全部助ける。そういう顔してる」

「……だめかな」

「だめとは言ってない」

 レオンはセリアの手元を見る。

 彼女の指先が、わずかに震えていた。

「でも、お前は自分の限界を見ない」

 セリアは言葉に詰まる。

 図星だった。

「……大丈夫だよ」

「そういう奴が一番危ない」

 レオンはため息をつき、セリアの薬箱を持ち上げた。

「運ぶ。ふらついてるだろ」

「えっ、でも」

「却下」

 ぶっきらぼうに言って、彼は歩き出す。

 その歩幅は、セリアに合わせて少しだけ遅かった。

 ◇

 その背中を見ながら、セリアは思う。

 怖そうな人。

 でも、不思議と怖くない。

 レオンは振り返らない。

 ただ小さく、誰にも聞こえない声で呟いた。

「……似なくていいんだよ」

 その言葉の意味を、セリアはまだ知らない。

 レオンが、かつて自分の兄と旅をしていたことも。

 兄が命を懸けて守ろうとした秘密が、自分の中に眠っていることも。

 そして。

 この出会いが、傷ついた世界を巡る長い旅の始まりになることも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ