第二話
1852年、春。
彼女は1人になった。愛していた家族を失った。 たった・・・たった半刻の出来事であった。
町に買い物に行っていた沙柚は全ての物を買い揃えると、少し団子屋に立ち寄る事にした。いつもの彼女なら絶対にありえない事だったが、その日はなぜかふと母の顔が頭に浮かんだのだ。毎日、一生懸命な母親が好きな団子でも買おうと思った彼女は列に並んだ。
今日は新作の団子が発売されたばかりらしくそれを求めにやってきた女子達で長蛇の列になっていた。
もしかしたら!その団子を買わなければ沙柚はもう帰らぬ人となっていたかもしれない。
その方が良かったかもしれない・・・1人になるよりは。
母が喜んでいる顔を想像しながら家に帰った彼女は驚愕した。そこにはもう、母は居なかった。あまりの事に、涙1滴すら出なかった。信じられなかった・・・いや、信じたくなかったのかもしれない。
役人が何か話しかけてきたが、何を言われたかは覚えていない。
ただ、彼女は見てしまった。今回の事件の野次馬の中に笑っている奴がいた・・・。悔しくて悔しくて仕方がなかった。
ギュッと喉元をつねると血が出たが、その痛みすら彼女は感じなかった。
***
それから十年。十九になった彼女はひたすらと強さを求め回っていた。それは幼い頃に誓った『大切な人を守る』ものではない。・・・ただ、この恨みをどうすればいいかわからなかっただけだ。自分の愛刀を、掴む。別に名刀というわけではない。ただ彼女にとっては特別だった。いつの間にか部屋の中は薄暗い程度になっていた。もともと少ない荷をまとめると彼女は立ち上がる。
幕末という激動の時代、そんな時代を彼女はどういきていくのか・・・。まだ誰も知らない。