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ドレッドノート・カプリチオ ~勇者狂想曲~  作者: 振木岳人
「覚醒する仲間たち」編
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終結 ~悪意の視線~




オカルト研究会の部長、氷見ひまりが、妖魔・山犬の首領である三代目仁左右衛門を、

豪快なプロレス技で撃沈する数分前の事。

大乱戦も落ち着いて来た中で、クラリッタも菊も、加納も、次の自分の獲物を探していた時の事。


「見たか!ユニオンジャック・シールド・チャージの威力!さあ、次は誰だ、かかって来い!」


「…クラリッタ、ネーミングセンスが…残念…」


威勢の良い、クラリッタと菊の声が轟く中、黙々と山犬を排除していた加納が、ふと、違和感を覚える。

【誰かに見られている】そんな悪寒を背中に覚えたのだ。


もちろん、オカルト研究会と対峙する、山犬のものでは無い。肉食特有の、獲物を狩る様な、非常に好戦的で、害意がみなぎった視線では無いからだ。

つまり、加納の覚える違和感混じりの視線は、山犬のものでは無いと判断出来る。

ならば、誰が、どこから?それも、山犬を凌ぐほどの好戦的な意志を秘めながらも、山犬よりも、もっと深く…悪意の底から湧き出す様なドス黒い視線を、投げかけているのか?

加納は、今目の前にいる妖魔の群れよりも、隠れてこの場を見ている者の方が、より根が深く、深刻な問題を抱えているのではと考え始めている。それほどに、降りかかる視線は、寒々しく、痛々しく、そして毒々しかったのだ。


意を決した加納は、その場を離れ、急ぎ真琴の元へ。

どこからともなく、ひまりの声で「バーニング・ハンマーあああっ!!」と、決め技の雄叫びが聞こえる中、たどり着いた加納は、真琴の耳元でこう囁く。


「誰かに見られています。この騒動を仕掛けた張本人かも」


黒幕の存在は、真琴も薄々気付いていたのか、真琴は既に答えを持っていたかの様に、即答で加納に依頼を出した。


「多分そいつが、山犬どもに入れ知恵した奴なのだ。また、面倒なお願いを頼みたいのだ」


「黒幕の正体をあばいて、粉砕しますか?」


「いや、どうせしらを切って認めないのだ。誰だか分かればそれで良い、今後の対策も立てられるのだ」


「ですね、了解です」


その返事をその場に残し、加納の身体本体は、いずこかの彼方へと消えてしまった。


残された真琴、目の前に横たわる玲一や、介抱するロロット達から視線を外し、雲一つ無い夜空を見上げ、ポツリと一言漏らす。


「これは、長い闘いになるかな?」


山犬との闘いはたった今、終わろうとしているのに、長い闘いとは、何を意味して真琴は言っているのか?

何を根拠に、何をもってそう言うのか?今はまだ、真琴にしか理解出来ない話ではあった。

そして、それが起因しているのか真琴は振り向き、暗闇が広がるグランドの片隅に向かい、大きな声で呼び掛ける。


「オーディン、話があるから、こっちへ来るのだ!」


街灯の届かない、グランドの角っこ、外縁とグランドを遮る様な、ポプラ並木の一本から、人影がゆっくりと現れる。

見れば、青嵐学園の制服を着た、男子学生だ。


「応神天皇、いや、誉田別尊ほむたわけのみことよ。私には人としての名前がある。そう呼ばれるのは、あまり愉快ではないな」


「ふふふっ、それは悪かったのだ、クラウス・エーレン。見てみるのだ、あの子たちを。すごいだろ?みんな、みんな私の子供たち。この街が護る、私の子供たちなのだ!」


気分が高揚しているのか、ご機嫌な真琴は、まるで子供の様にはしゃぎながら、クラウスに自慢し、そしてそんな自分自身に気付いて赤面。

バツが悪そうにぽりぽりと頭をかき、自分の脱線を詫びながら、影で様子をうかがっていただけのクラウスを、呼びつけた理由を話し出した。


「あの眼…、心当たりはあるか?」


真琴がクラウスに問うたのは、加納が報告して来た例の、「悪意ある視線」について。

真琴自身も、それを特定するにはまだ情報が不足しているのか、真琴と肩を並べるであろう人物に、それを糺そうとしていたのだ。


「まだ私も確証は持てないが、西洋神でも、和の神でもない事は解る。もっとこう……」


「もっと……?」


「もっと根が深そうな理由を抱いた、それが行動原理になっている神ではないか。そんな気がする」


「気が合うのだ、私もそう思うのだ。因みに、ケツァルクアトルでは無い事は確かなのだ」


「そうだな、最近やって来た中米アメリカの古代神ではない」


「……西風しゅり……」


「ああ、彼女の身体を乗っ取って、この街にやって来たと見るべきだろう。カティアに調べさせよう」


二人の会話の中で、意外な人物の名前が出て来た。その名前は【西風しゅり】。

春先に、しらかば通りで起きた乱闘事件の後、青嵐学園の学生食堂において、土岐玲一に粗挽き牛のこだわりコロッケを差し入れした、真琴と同じ2年A組に在籍する女性だ。

だが、ほとんど学校に出て来ない「ひきこもり」状態の彼女は、真琴とも面識がほとんど無く、謎の人物のままであった。

クラウスと真琴が、その西風しゅりの名前を出して、共通の見解を確認した以上、その人物が悪意の視線の人物であるのは、間違いないのであろうが、

西風しゅり、彼女もまた、アストラルパワー溢れる長野に惹かれやって来た、神であるのか……。


 緑の広場外縁に、強烈なサイレンを鳴らしながら、救急車が到着した。

ロロットは慌てて救急車に走り寄り、ストレッチャーを担いだ救急隊員を、グランドに横たわる玲一にいざなっている。

クラリッタも、菊も、変化へんげを解き、蒼ざめた顔で、玲一の元へと駆け付ける。


 オーディン、北欧神話における絶対神の名で呼ばれる事を嫌い、現世の名前「クラウス・エーレン」で呼ばれる彼は、

土岐玲一に宿る「神殺し」の力に気づいている。気づいているどころか、それがある事を前提として、彼を観察している様に、影からいつも見詰めていた。

人類の進化の一つを、神々に提示した超能力者で、ドレッド・ノーツのリーダーである、勇者・宮代勇作との衝突の中でもクラウスは、八百万組合とは一線を引いて、独自に活動している事をうかがわせたが、

ここに来て、この土地を護る鎮守、伸暁真琴は何かのビジョンを見たのか、クラウスに対して手を差し伸べる。彼に対して共闘を申し出たのである。


「クラウス、八百万組合の部会に顔を出すのだ」


「……いや、やめておこう。まず、君達と我々では、行動理念が違い過ぎる。恨まれるだけで、時間の無駄だ」


そう言って、北欧神話の頂点に君臨する彼は、自身のプライドとは別の理由で、この真琴の言葉をやんわりと断ってしまった。


「そこまで頑なにならなくても良いのだ。それで【巨人】は、来るのか?」


「ああ、必ず来る。ヘイムダルは必ずこの街で、忌むべきギャランホルンを吹くだろう。ラグナロックだけは、何としても避けねばならん」


「だがな、私の子供たちを、エインヘリアルには行かせないのだ。このまま街と足並みを揃えないなら、……お主を恨むのだ」


 ストレッチャーに乗せられ、救急車へと運び込まれる玲一。

その後を追う様に、妹のこよみや、クラリッタたちが同乗させろと騒いでいる中、

オカルト研究会部長の氷見ひまりが、「山犬側にも、死者・重傷者はありません」と、報告にやって来る。


 こよみ誘拐事件は終わった

後は、「悪意の視線」を放って来ていた、首謀者らしき人物を特定するだけ。

加納は今も、隠密能力のその全てを駆使し、視線の持ち主の追跡を行っているであろう。彼ならば、見事にその任務を果たすはず。

ただ、グランドの中央で、クラウスと肩を並べ、オカルト研究会のメンバーたちを見守る真琴の表情は、別の理由を持って悲しげに見え、

そして、何かしら自分に見えてしまった未来のビジョンを、「自分の子供たち」に打ち消して欲しいと懇願する様な、潤んだ瞳を向けていた。


 ……そう、しらかば通り大乱闘事件の、あの時の様に。悲劇の未来を簡単にブチ壊してしまう、彼らの底力に……




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