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ドレッドノート・カプリチオ ~勇者狂想曲~  作者: 振木岳人
「覚醒する仲間たち」編
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神獣麒麟のまなざし




うり坊(仮)が「ぶももも!」と遠吠えした瞬間の事だった。

その叫びに呼応したかの様に、その場にいたオカルト研究会のメンバーや、玲一の身体から、キラキラと白銀の様な霧が湧き上がる。


「おおっ!この輝きは、神の祝福か?」


「…あったかい…元気出る…」


小さな小さなその動物の、祈りから発生した白銀の霧は、その場にいるオカルト研究会のメンバー達に勇気と予感を与えたのだ。

困難を乗り越える勇気を、立ちはだかる敵に立ち向かう勇気を、そして、自分の勝利を確信する実感を。


その勝利への予感は、貧乏神である、設楽寺富美が発生させた不運の気配を、オカルト研究会のメンバーにのみ、限定して打ち消す。

「山犬の群れには、これ以上無い不運の連続を。オカルト研究会メンバーには、勝利の予感を」と、向かい風と、追い風の状況を作り出したのだ。


「う、ううう…」


「玲一、玲一!大丈夫?」


「玲一さん、玲一さん!今救急車呼びましたから!」


気絶から、激痛で気を取り戻した玲一。

唸り声を上げる彼を、ロロットと設楽寺富美が気遣っていり。

そして、横たわる玲一の視界に、思い切り急接近で入って来た、謎のイノシシもどき。

すんすんと鼻を鳴らしながら、潤んだ瞳で、玲一を心配そうに見詰めている。

自分の近くに感じる、小さな獣の気配に、玲一は「ううん?」と唸ると、その後ろから見詰めていた真琴が、その動物についての秘密を明かした。


「その子は、麒麟(きりん)の子供なのだ♪」


「…麒麟…?」


「うむうむ、この子なのだ。毎日、玲一の家に、霊花・夢雫(ゆめしずく)を置いていたのは」


「…そうか、君か…君だったのか。…ありがとう」


「ぶも、ぶも」


ぴろぴろと、短い尻尾を盛んに振り、照れながら鼻を鳴らす、麒麟の子供。

しかし、玲一のダメージは予想以上に大きかったのか、麒麟の子供を見詰めながらも、再び目を閉じ、気を失ってしまった。



麒麟(きりん)

霊獣・神獣の一種で、四足歩行動物の、頂点に君臨する存在と言われている、森の住人。

ちなみに、四足歩行の頂点は麒麟であるが、鳥類の頂点は鳳凰であり、麒麟と鳳凰で対と成す、二大神獣と古くから呼ばれている。


外見は、鹿の様に短髪剛毛、成獣になると、顔は東洋の龍に似て、背中の毛は五色に輝くと言われており、

殺生=戦乱を嫌う、非常に穏やかな性格で、この麒麟が現れる事それこそが、【吉兆】。良い事が起こる前触れとされる。

また、仁の心を抱く王者がこの世に現れると、それに合わせて麒麟は姿を現し、常にその王者に付き従う様になる。

つまり、この麒麟は自らの主を選び、世に出て来た際、その能力の一つである吉兆…幸運を、主にもたらすのである。


その、麒麟の子供が玲一を慕って離れない。

つまりそれは、麒麟の子供が土岐玲一を「仁ある王」として認めた事となり、彼の側にいる事が、自分の生き方だと決めた事になる。

何故、何をきっかけに、麒麟の子供は玲一を選んだのか、その理由はまだ明かされない。

何故なら、「そう言えば君は!」と、過去の記憶を遡って、語るべき立場の玲一が、気絶していたからだ。


 ロロットと設楽寺富美が、真琴の説明に耳を傾けていると、状況は劇的に動いているのか、突如加納の叫び声が轟く。

それは危険を知らせる類いの叫び声では無く、真琴たちに吉報を知らせる叫び声だった。


「みんな、お待たせだ!こよみちゃんは無事保護した、傷一つ無い!」


どっちの方角から来たんだよと、ツッコミを入れたくなるほどに、ロロット達の背中に届いた声は、彼女たちを驚かせる。

加納は、単身山犬の群に突入した後、拘束されているこよみを回収すると、何と、山犬と遭遇しない様に、一旦緑の広場を出て、

全速力で周辺の道路を回り、真琴たちの背後にたどり着いたのだ。


そう。このオカルト研究会の強襲作戦の、影の主役は何と言っても加納。


姿を消し、気配を消し、玲一と山犬達の間に人知れず入り込み、

フラッシュ・バンを炸裂させ、その混乱に乗じて、囚われのこよみを救い出した。

女神ブリタニアとなったクラリッタや、魔剣士丞定菊ほどのインパクトは無いが、

【土岐玲一の妹を、傷一つつけずに救出する】と言う、最優先課題をクリアしたのが、戸隠流忍者師範代の加納なのである。


あまりの恐ろしさに、気を失ってはいるが、加納の言う通りこよみには、傷一つ付いていない。

加納はお姫様抱っこをしていたこよみを、玲一の隣にゆっくりと、丁重に横たえ、改めて玲一の無惨な顔を見た。


「良い男が台無しだな、土岐」


ゆっくりと立ち上がる加納。

その背中を見詰める真琴は、ショッキングな玲一の姿を見た加納から、間欠泉の様な勢いで、圧倒的な殺気が湧き上がった事に気付く。


加納の両手、握られた拳。

ブルブルと震えるその両手の拳に、これ以上無い程の力が籠もっているのか、手のひらに爪が食い込み、皮が破けて出血している。


「加納、気持ちは分かるが、殺しはダメなのだ。二度とこんな馬鹿な真似をしない様に、痛めつける程度にしとくのだ」


「もとより承知の上。…クラリッタ達に合流します」


そう言うや否や、加納は再び、つむじ風の様に、その場から姿を消した。



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