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ドレッドノート・カプリチオ ~勇者狂想曲~  作者: 振木岳人
「覚醒する仲間たち」編
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女神ブリタニアの目覚め


 フラッシュ・バンの威力が薄まりつつある山犬の群れ。

辺りに再び夜の静けさが漂い始め、落ち着きを取り戻すと、とある事に気付き、群れはざわめき出す。

「あっ!女がいない!」「人質が奪われた!!」

フェンスに縛られたこよみの姿が、忽然と消えていたのだ。


すると、時を同じくして、


ザッザッザッザッ!!


グランドの入り口に並んでいた謎の集団が、横一列になって足並みを揃え、一片の躊躇も無く、玲一の元へと歩み始める。


小気味の良い無数の足音に気付き、ふらふらの身体を捻りながら、自分の背後に向かって行進して来るその集団を見た玲一。

傷だらけで血が滴る口元に「にやり」と、微かに笑みを漏らす。


「……何か…そんな気がしたんだ…助けに…来てくれるって…」


玲一の元へ向かって来る集団の姿を見て、玲一は安心してしまったのか、

受け身すら取らずに、ぐちゃりと、顔面から地面に倒れ込んでしまう。

その光景を見て慌てたのか、


ザッザッ、ザザザザッ……!

玲一に向かって来ていた集団の足音が、余裕を持ったリズムから、駆け足のリズムへとシフトする。


玲一の元へと向かって来たのはもちろん、オカルト研究会のメンバー。

どこで情報を入手したのか、それぞれが連絡を取り合いつつ、この場に集結したのだ。


横に並んだ列の中央には、女王陛下からヴァンパイア・ハンターの名誉ある称号を受けたクラリッタ・ハーカーが。

そして、クラリッタを中心に、左右に別れる様に、オカルト研究会の部長、氷見ひまり。そして、副部長の丞定菊が付き添う。

更にその隣には、バスケットボールの様な小動物を抱えた、生き神の伸暁真琴。

そして貧乏神の設楽寺富美と、アフリカ系フランス人のロロット・サン・マリー・デュモンが揃っている。


皆が皆隠しもせずに、彼らの表情から溢れ出ているのは、たった今、盛大な音を立てて地面へと「墜ちた」玲一に対する心配。

そして、玲一と妹こよみの無事をひたすら祈る気持ち。

更に、玲一とこよみを非道い目に遭わせた妖魔、山犬に対する怒り。

今までに見た事の無い、静かで、それでいて触ると大火傷しそうな程の、苛烈な怒りの感情を滲み出していた。


頭を走るクラリッタ、青嵐学園の制服を着たまま、肩で風を切って歩く彼女は、誰はばかる事無く、涙を流していた。

悲しくて涙がこぼれたのではない、もちろん感動の涙でもない。憤怒の形相のまま、悔しくて泣いていたのだ。


 昨年、フィンランドの首都ヘルシンキ市街地で起きた、大規模な吸血鬼感染事件。


「ドラキュラ級ヴァンパイア一体と、ビクティム級ヴァンパイア四体が、数年前から市街地のアパートを隠れ家にして、食糧の調達を密かに行なっていた。

先月、フィンランド国家特別警察に発見されると、アパートに籠城して徹底抗戦の構えを見せ、吸血鬼因子の爆発的拡散を始めた」


周辺住民が次々と食屍鬼化し、軍が出動したその後も沈静化の目処が立たなかった事から、フィンランドとイギリス両政府を通じて、ハーカー家が吸血鬼掃討に乗り込んだ。

当時のユニットリーダーはクラリッタの父で、父の弟一家や、クラリッタの母ジェニファーや、英国白金十字団の古参メンバーなど、クラリッタを含めて、そうそうたるメンバーが、この作戦に参加していた。


最初は順調だった。

ハーカー家、いや、ハーカー一族は、その類い稀なチームワークで、みるみる内に、食屍鬼を駆逐。

残すはドラキュラ級ヴァンパイアの待つ、民間住宅のアパート一棟までに、惨禍の規模を縮小させるまでに至る。

だが、そこからこの作戦にケチが付いて、そのケチが、ハーカー一族に悲劇が訪れる発端となってしまう。


「ヴァンパイアにも人権を!ヴァンパイアにも市民権を!ヴァンパイアにも刑法を!」


こう騒いだ自称市民団体が、大量のマスコミを連れてアパートを囲み、人間の盾となって、吸血鬼掃討を邪魔したのだ。


マスコミを味方につけると、なかなか政府側も強行手段に訴えられない。方法を間違えれば今度は、政府が国民の敵としてミスリードされてしまうからだ。

結果として、アパートに突入しての吸血鬼掃討作戦は続行が決定されるが、その内容は劇的に変更された後に、ハーカー一族のチームに着手命令が下る。


デイライト・オペレーションは却下され、市民団体の数が少ない、深夜に突入。

マスコミの映像に残らない様に、壁や構造物の破壊を一切禁止し、対象吸血鬼のみを排除する……


ハーカー家が予定していた作戦は、太陽を味方にし、突入したブロックの壁を極力破壊し、太陽光を屋内に取り入れ、闇に巣食う者達の、一切の排除を目指していた。

それほどまでに、吸血鬼と言う存在は厄介で危険な存在であったのだが、現地政府が許可した内容は、単なる要人暗殺作戦にまで、ダウンサイジングされていたのだ。


政府側と交渉しても、内容の変更は頑として受け付けず、また、無為に時間を費やす事も出来ない中、ハーカー一族の長、クラリッタの父ヘンドリクスは作戦の決行を決意した。


悲しいかな、奮闘むなしく、一族は崩壊した。


父ヘンドリクスの弟、ジェラルド・ハーカーは、突入時に物陰から現れた食屍鬼の群れに襲われ死亡。彼も食屍鬼と化す。

ジェラルドの妻、メアリーアン・ハーカーは、突入がマスコミに気付かれ、建物に流入して来たマスコミを制止する際、背後から現れたビクティム級ヴァンパイアに咬まれて死亡。

ジェラルドとメアリーアンの子供、クラリッタの従兄弟にあたる、ジョンとピーターは、食屍鬼の群れに完全に囲まれ、意図したのか誤作動かは分からぬが、手榴弾が起爆して爆死。

英国白金十字団の古参メンバーたちも、結局一人として生還を果たした者はおらず、

心が萎えて、座り込んだヘンドリクスを母ジェニファーに任せたクラリッタが、単独でヴァンパイア掃討に成功した事で、作戦は終了した。


それからだ、クラリッタが思い詰めた様に、自分を追い込み始めたのは。


【自分がしっかりしていれば!自分がもっと強ければ!仲間に悲劇は訪れなかった!私も哀しむ必要は無かった!】


後悔から始まる、クラリッタのネガティヴな想いはやがて、長野の地に足を下ろし、土岐玲一に出会う事で、ポジティブな想いへと昇華したのだが、

今、目の前にその道筋を見せてくれた男が、言われなき理由で傷つき、倒れているのだ。

過去のフラッシュバックと、玲一を大切に想う気持ちが、彼女の涙腺を緩めて涙を垂らしたところで、誰が責めようか。


「私は!今は亡き一族の想いを、一身に背負っている!そして、妖魔に虐げられる人々の、希望でもある!名誉ある称号、ヴァンパイアハンターを受けた者は決して負けない!折れない!仲間を見捨てない!」


それでも怯まず、気丈にも玲一!玲一!と叫ぶクラリッタの身体に、やがて変化が訪れる。

一族の想いと、人々の願いと、自らを痛めつけるのでは無く、高めようとする想いが、そして大切に思う仲間への想いが、愛する人への強い想いが……

まるで砂金の様な輝きとなって、クラリッタの周囲に霧状の様にびっしりと発生し、そしてそのまま、彼女を包んだのだ。


そして、その霧が晴れた後、クラリッタの姿は変わっていた。青嵐学園の制服を着ていた女子高生が、瞬時に、西洋鎧をまとった気品漂う戦士に、変貌を遂げたのである。


その鎧は珍しく、一切の装飾品も模様も、刻印すら彫られておらず、非常に質素で芸術性の欠片も無い鎧。

だがその鎧は、鈍く白く輝き、破魔の銀製品……、まるで神々の祝福を、その鎧が全て集約させたかの様な、威風堂々たる存在感を醸し出している。

そして、腰にはブロード・ソード(幅広の剣)を下げ、左手には英国旗をモチーフとする、ユニオンフラッグが大きく描かれた楯を掲げている。


スラリと、腰の剣を抜いたクラリッタが、誰に聞かせる訳でも無く、自分に言い聞かせる様に声を張る。


「悠久の時の中で、一族の声が背中を押す!人類に仇なす妖魔を討てと、人々の声が背中を押す!

全世界において、妖魔討伐の尖兵たるは、女王陛下守りしユナイテッド・キングダム!そして、女王陛下よりヴァンパイアハンターの称号賜りし、我である!

ゴッド・セイブ・ザ・クイーン!ゴッド・セイブ・ザ・クイーン!!

たかが野犬ごときが、よくも我が愛する友人達を蹂躙したな。それに相応しい対価の罰、覚悟しろよ!

貴様らの血肉を、最後の一片まで粉砕し尽くし、我が栄光の礎となれ!」


 まるでクラリッタが、神々の列に加わるかの様な、神々しい輝きを放ち、玲一の元へと進んで行く。

その後ろ姿を見守る真琴が、今にも泣き出しそうに顔をクシャクシャにさせながら、歓喜に打ち震えた。

真琴が感極まって「女神ブリタニア!」と叫んだのを、隣にいたロロットは、聞き逃さなかった。


「真琴さん、何ですか。何の事ですか?その、女神ブリタニアって」


一人で立っていられないのか、近寄るロロットの腕にしがみつく真琴。そして彼女は、

隠し切れない喜びを身体中で表現しながら、その場にいたロロットと設楽寺富美に説明する。


 ……人類で二人目なのだ。人間でありながら、神に肩を並べたのは、宮代優作に続いて、クラリッタが二人目なのだ……


 女神ブリタニアとは、神話に登場する神では無く、まさしく、ユナイテッド・キングダム・オブ・グレートブリテン・アンド・ノーザンアイランド……つまり、近代イギリスを、擬人化、神格化した「象徴」である。

イギリス愛国歌、ルール・ブリタニアの一節にも登場する、「これこそ証、国の証だと、守護天使達が讃え合った」と言う詩が表す様に、イギリス国民の想いが象徴となり、神となり、守護天使達さえも祝福する存在が、女神ブリタニアなのだ。


真琴は言う。クラリッタは、大英帝国を擬人化した女神【ブリタニア】になったのだと。

それはつまり、自分の想いと、人々の想い、そして彼女の愛国心と、仲間を想う愛情が見事に結実し、

クラリッタ・ハーカー自らが、九十九神(つくもがみ)に生まれ変わったのである事を、意味していた。

つまり、人の進化の道筋を、彼女は指し示し、体現したのだ。


人の進化と言えば、自らに超能力を備わせて、この街を護る男がいる。「勇者」宮代優作その人ではあるが、真琴が知る中では、進化したのは世界中で宮代たった一人。

だから今までは、人類の次の進化は、超能力を発現する事だけが、示された道筋であった。

だが、クラリッタ・ハーカーは超能力ではなく、様々な想いをその身に集約し、九十九神へと昇華した。新しい人類への道筋を、進化の道筋を示したのだ。


だから真琴は言う、人間の進化は未知数だと。

だから真琴は歓喜する、人間はだから面白いのだと。

だから真琴は涙を流す、人間は大好きだ、私も生まれて来て良かったと。




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