神は私にタンクになれと言っている
いきなりですが、転生しました。
いや、私の場合は『前世の記憶を思い出した』と言うほうが正しいのかな。
少しばかりショックなことがあって、急に昔の記憶を思い出したのだ。
しかし本当にあったんだね、異世界。
所詮は創作物だと鼻で笑っていた過去の自分を殴ってやりたい。
こういうときは……土下座でもすればいいのだろうか?
じゃあ、さっそく服を脱いでっと――
「―…嬢。シェ―…―ルー嬢。シェルブール伯爵令嬢!」
「ハッ?!」
耳元で響く低い声に意識を引き戻される。
気がつくと、目の前には聖職者のような衣装を纏った壮年の男が立っていた。
「気を確かに。落ち着いて……落ち着いて服を戻しなさい」
「服?」
意味が分からず、自身の体へと視線を落とす。
視界に入るのは胸元まで露わになったマイボディ。
下着もおヘソも丸見えだ。
「…………」
すぐさま捲れた服を元に戻すが、時すでに遅し。
周辺にいる少年たちが全員、前かがみになって視線を逸らしていた。
あまりの恥ずかしさに思わず顔が熱くなる。
「コホン。意識も戻ったようなので儀式を再開する。改めてシェルブール嬢。其方が神より賜りし恩恵は【スケープゴート】である。私も初めて名を聞く恩恵だが……どうも魔術に関するものではなさそうだ。其方が魔術の才を得られなかったことを残念に思うが、気落ちするでないぞ」
聖職者らしき男が私の肩に手を置いて気遣うように言葉をかけてくれる――が、正直今はそれどころではない。
下着を見られて恥ずかしい?
魔術の才を得られなくて悲しい?
――違う。
本物の魔法が存在するという事実に、胸の鼓動が収まらないのだ。
口元を抑えて、今にも叫び出したい気持ちを抑えることで精一杯。
体はプルプルと歓喜に震えている。
そんな私の姿を見てなにを勘違いしたのか、周囲からは「かわいそう」やら「おいたわしや」やら「おっぱい」やら様々な声が聞こえてくる。
「シェルブール嬢……」
「し、失礼しました。技能神スクイルに心より感謝を」
「うむ、神はいつでも其方と共にある」
こうして無事? に儀式を終えた私は、こぼれそうになる笑い声を押し殺し、逃げるように教会を後にした。
「さて、リーチェはどんな恩恵を賜ったのかな?」
向かいの席に座るイケおじがこちらに話しかけてくる。
亜麻色の長髪を襟足で一つに纏めた、スラリと背の高いナイスミドル。
名をクルト・ルマリア・シェルブール。
シェルブール伯爵家の現当主であり、私のお父様だ。
教会の規則により保護者であるお父様は『神授の儀』に同伴できなかったので、結果が気になっているのだろう。
「司祭様が仰るには【スケープゴート】という恩恵だそうです。魔術とは関わりのない恩恵のようで、効果については言及されませんでした。……魔術の才を得られなかったのも全ては私の不徳の致すところ。シェルブールの家名に泥を塗ってしまい、申し訳ありません」
謝罪の言葉を一息に述べ、お父様に向けて頭を下げる。
この世界の貴族は魔術を行使できて一人前であり、魔術を使えない者は貴族として扱われない。
私ことリーチェ・ルマリア・シェルブールも、この数年は魔術の才を得るため必死に勉強へと打ち込んできた。
しかしその努力は実を結ばず、司祭様に恩恵を宣告された私は魔術の才を得られなかったことに絶望して儀式中に意識を失った。
そのおかげで前世の記憶が蘇ったわけだが……貴族としては死んだも同然だ。
「謝るには少し気が早いかな。まだ授かった恩恵を試してもいないじゃないか。それに、魔術が使えずともリーチェが私の可愛い娘であることに変わりはない。そうだろう? ヘリンズ」
「もちろんです父上。もしそのようなことを理由にリーチェを悪し様に言う不届き者がいれば、王族であろうと僕が懲らしめてみせましょう!」
お父様が笑うのに合わせて、その隣に座るヘリンズ兄様も笑ってみせた。
お兄様は華奢な体つきをした中性的な青年で、肩まで伸ばした亜麻色の髪を靡かせている。
その姿はまるで、男装をした麗人のようだ。
「ありがとうございます。お父様、お兄様。私はシェルブール家に生まれたことを誇りに思います。しかし、王族を相手にするのだけはどうかお止めください」
面倒なことになるので。
「もちろん手加減はするさ」
微笑を浮かべながら掌に出した炎を握りつぶす兄。
その姿を見るとなんだか心が痛くなってくる。
「旦那様。あと五分ほどでお城に到着いたします」
「分かった。そのまま奥まで進んでくれ」
「かしこまりました」
お兄様の痛々しい挙動に心を痛めていると運転席から声がかかった。
どうやら我が家が近づいてきたらしい。
魔導車のガラス越しに外を覗く。
統一感のある建物、等間隔で並んだ街灯、視界を彩る並木道。
整然とした美しい街並みが音もなく流れていく。
途中、子供たちがこちらに向けて手を振っているのが見えたので、笑顔で手を振り返す。
貴族令嬢たるもの愛想は大切だ。
それにしても――
(この世界、思ったより発展してるなぁ)
遠ざかっていく彼らを見ながら「前世の知識を活かして無双するのは難しそうね」と、小さな声で呟いた。
「覚悟はよろしいですか?」
「ん、いつでも」
シェルブールの領都に悠然とそびえ立つルマリア城。
その一角で二人の女性が魔導銃を握りながら相対している。
片や、銀色の髪を顎のラインで切り揃えた女騎士
片や、栗色の髪を左右で分けておさげにしたメイド。
この世界は銃と魔法の世界なので、騎士と言えば銃を使う銃騎士のことを指す。
メイドが銃を持っているのは……嗜みかな。
お互いにしばらく睨みあった後、騎士の魔導銃から放たれた鋭い一撃がメイドの右肩に直撃する。
「うぐっ!」
その瞬間、呻き声を上げたのはメイド――ではなく私だった。
「お嬢さま!」
駆け寄ってくる二人に対し、そのままでいいと手で制する。
「大丈夫だよ。そっちは?」
「んっ、問題なし」
どうやら私のスキルは無事に発動したようだ。
訓練用の魔導弾が当たったメイドはケロッとしている。
「検証は成功。授かったスキルの効果は『他人の受けた被害を代わりに受ける』で決まりだね。ふふっ、神は私に『タンクになれ』と仰っている」
お望みならドレスアーマーとか喜んで着ますよ、私。
なので回復方法を下さい、死んでしまいます。
「すきる? たんく? それってお嬢さまが痛い思いをするってこと?」
「まぁ、そういうことになるのかな? あっ、騎士さんもお付き合いありがとうございました。戻って大丈夫ですよ」
「はっ! 失礼します!」
首を傾げるメイドをスルーして、女騎士を元の業務へと戻らせる。
「お嬢さま。恩恵の効果よく分かったね?」
「偶々だよ。と言いたいところなんだけど――名前がね」
「?」
名前が『スケープゴート』だし、身代わりスキルだろうなという安直な考えだったのだが、これは言葉の意味を知らないと理解できない。
説明はできても、そこら辺を突かれたくないので黙っておく。
「これで魔術を使えないことが確定したし、冒険者か探索者にでもなろうかな」
「ファナも一緒に行く」
「う~ん、考えておくよ」
メイドのファナこと私の専属侍女であるファルミナ・リリアム・ロスナート男爵令嬢。
幼馴染である彼女と一緒なら、つらい旅でも楽しいものになるだろう。
問題は彼女が才能ある水魔術使いだということ。
魔術も使えない落ちこぼれに同行させるなんて、お父様が許してもロスナート男爵は良い顔をしない。
だから安易には頷けないのだ。
ただ、そうなるとファナがブチ切れるのが目に――
「見つけたぁ!!」
「っ!?」
突然聞こえた大声に体がビクッと跳ねる。
振り向くと、そこにいたのは亜麻色の髪をポニーテールにした小柄な女の子。
妹のリニアだ。
「お姉様~~! お~か~え~り~~!!」
「お、お待ちください! お嬢様! お嬢様~!」
妹付きの侍女が呼びかけるのも虚しく、リニアがこちらへ突っ込んでくる。
我が家の淑女は今日も元気一杯である。
妹の教育方針については後ほどお父様と話すとして……このままでは危険が危ないので、信頼する我が侍女に助けて貰おう。
「助けて?」
「無理」
もはやこれまで。
腹を括った私は大地を踏みしめて両手を広げると、衝撃に備えて腰を落とす。
弾丸のように飛んできた妹を受け止めた、次の瞬間――
「ごふっ?!」
ファナが吹き飛んだ。
※初回につき三話連続投稿です。




