第5話 真己
「俺がこの面接で問うのはただ一つ。今のお前が居ることで世に何の利益をもたらすのか、俺が納得する理由で答えてみろ」
俺と全く同じ見た目をした理事長は、まるで俺の全てを見透かすような目で問い出した。
「……それは、」
「これから利益をもたらす? 話にならんな。俺がお前に聞いてるのは、今のお前が、世に、なんの利益をもたらすかだ。これからの事なんて聞いてない。お前の本心を口に出して答えろ」
(……は? なんでこの人、俺が言おうとしたことを言えたんだ? まさか、エスパー?)
「エスパーではない。俺は、己の価値を問われ、答えることができない今の無力なお前自身だ」
(……どういう事だ)
ふと、刹那先生と目が合った。
刹那先生は俺を見て、何故かニヤニヤしていた。
「全てには法と律がある。それらが存在する事によって『不安定な秩序』が成り立っているんだ。だが、今のお前には法も、律も無い。そんな『不安定な秩序』を壊しかねないお前を生かしておいて、宇宙にとってなんの得がある?」
(こいつ……意地が悪いな)
「今の俺が、宇宙に与える事が出来る得も、利益も無い。だから、これから……」
「それがお前の回答か。じゃあ今、ここで死ね」
いつから居たのか……。
理事長が俺の言葉を遮ったかと思えば、いつのまにか目の前に俺が立っていた。
『スッ(拳を突き出す音)』
「?」
『ドンッ』
「かはっ………」
『ドサッ』
(い……痛ぇ)
「お前を生かしておくと、それだけで『不安定な秩序』を脅かすんだ。そんなお前が生きていることで、得られる得も、利益も無いのなら、俺にお前を生かしておく義理も義務も無い」
(……殺気が……。こいつ……ガチで俺を殺す気なのか……。こんな……理不尽なことで。こんな……意味分かんねぇ事で)
『……』
俺がこの時、どういう目をしていたのかは分からない。ただただ必死な眼光を、理事長に放っていただけなのだから。
「少しはマシな目になったな」
理事長は、膝をついている俺の目線に合うように屈んだ。
「では、もう一度聞く。お前を生かしておく事で、宇宙には、なんの得がある?」
(一体、俺が何したっていうんだ。俺がお前らに与える得? そんなもん知らねぇよ。でも、こいつはそれを求めてる。だったら……)
「今の俺が、お前らに与えられる得なんて、あるわけ無いだろ」
(……だったら、本心で言ってやるよ)
「得なんて、積み重ねていくもんだ。利益なんて出せるやつが出すもんだ。でも、今の俺がお前らに与えられるもんなんてない」
理事長の瞼が少しだけ、ピクッとなった。
「今の俺にはなんも無いんだ。だから、お前らが俺に与えろ。そしたら俺が、お前らに徳を利益を積ませてやる。それが『俺の秩序』だ」
俺が言い切ると、時間が止まったかのように辺りがシーンとなった。
「フフッ……。あはははは……龍淵理事長。言われちゃったね」
急に刹那先生が高らかに声を上げて笑った。
「は?」
「……ほんっと、この生意気さ。まるで若い頃の私を見てるようじゃない」
目の前の理事長から、突然白い煙が溢れ出した。
『シューーーーーーーウ』
さっきまでは俺と同じ見た目だった理事長が、煙が消えると和服を着た女性に変わっていた。
「零。あなたの入れ知恵?」
「いんや? 私は何もしてないよ。まぁ、2人共本音で話せたから良いんじゃない?」
「本音……なら良いか。確かに去年は酷かったからね。本音なだけマシか」
「は? だから、どういう事だよ」
「じゃあ、私が説明するね。ここに居る理事長さんは、最初から或真くんを生かして合格させるつもりだったんだよ。ね〜龍淵ちゃん!」
「辞めろ」
「じゃ……じゃあ、なんで殴ったんだよ。なんで俺を殺そうとしたんだよ」
「そりゃあ、いくら最初から合格させるつもりでも、一応本心で話さないと駄目だからね。だから本音と建前を分けたんだよ」
「全く。なんで零が絡むと、こう……騒々しくなるんだか……」
「じゃあ、今の俺が宇宙に与える得も、利益も、最初から求めてなかったのか……」
「いんや……求めてたよ? 龍淵が言ったのは今の得。でも、或真くんが言った通り得は積んでいくもの、利益は出せるやつがだすものだからね」
「なら……なんで……」
「ただね、或真くんは零級と称される存在。宇宙に居るだけでも得になるんだよ。それだけ凄い存在なんだ! 零級ってのは。」
「私は反対だったけどね。でも、零の『お願い』は断れない。零級危険人物をこの世界に生かしておくのはあまりにも危険過ぎる。本来なら、殺すつもりだったんだが……」
「それを私が許さないのは龍淵も知ってるよね」
「あぁ……。嫌なほど知ってるよ」
「じゃ……じゃあ、俺は刹那先生に生かされたって事なのか?」
「そうだよ! 本来、或真くんは100%法師か、UMAか、誰かに殺される筈だったんだからね。ほんっと、感謝してよね〜」
『キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン』
「ほらっ、チャイムが鳴った。授業が始まるよ。じゃあ早速、1年生の仲間に会いに行こうか!」
刹那先生は俺の手を掴んで教室へと向かった……
「ほんっと。零は身勝手が過ぎるな。だが、この調子なら、例の件……。ネッシーとオゴポゴの領地争いの問題。任せて良いかもな」
理事長室に1人で呟く理事長を後にしながら。
(第5話:了)
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