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【反・神説】背徳の獣  作者: 緋宮 咲梗
section,Ⅵ:エデンにて待ち構えりし天使軍編
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episode,Ⅱ:聖女の嗜み

【登場人物】

釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。


(ひいらぎ)ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。


*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。


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 彼女のこの発言に、思わずアッとした表情をする釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)

 自動車事故で両親と離別したのは生後十一か月頃だったが、朧気(おぼろげ)で漠然としていたものの確かにその顔を思い出す事が出来た。


「確かなのか? 聖綴」

 

 (ひいらぎ)ヴェルハルトが尋ねてきた。

 これに首肯すると聖綴は、ゆっくりと口を開く。


「うん……間違いない。確かに俺の母親だ」


「マジか」


 聖綴の発言に、ヴェルハルトは思わず口をあんぐりと開けた。


「あなたは柊ヴェルハルトですね? どんな形であれ、うちの息子の面倒を見てくれている事、心の底から感謝致します」


「あ……いえ」


 釘鎹愛海(くぎかすがいなるみ)の言葉に、ヴェルハルトはしどろもどろになる。

 基本、ヴェルハルトは聖綴に、悪さしか教えていない。

 喫煙、酒、喧嘩、スリ等々。


「構いませんよヴェルハルト。あなたが後ろめたさを感じる必要はありません。聖綴が懐いているのだし、あなたもまた、まだ子供なのですから」


 愛海は言うと、ヴェルハルトの頭を優しく撫でた。

 これに思わず、ヴェルハルトは一粒の涙を零した。


「でも俺は、側にいながら聖綴を、交通事故で死なせた」


 すると愛海は、ヴェルハルトの涙を指で拭う。


「いいえ。あなたは一切悪くありません。ヴェルハルト、あなたが責任を感じる必要はないのです」


「俺は聖綴と別れたくなくて、こんな所にまで付いて来た」


「その優しさが、聖綴をここまで連れて来れたのです。母として、心から感謝致します。生者として、とても真似出来る事ではありません」


「逆に俺の方が、ナムウ……いえ、聖綴から助けられてここまで来れたに過ぎません」


 そうしてヴェルハルトが俯くと、愛海はニッコリと微笑んだ。


「謙虚な事ですね。構いません。一緒に行きましょう。天国へ」


「──はいっ‼」


 愛海の誘いに、ヴェルハルトは嬉しそうに返事をした。

 これに聖綴も、嬉しそうに肩でヴェルハルトを小突いた。

 ヴェルハルトは聖綴の肩に手を回すと、はしゃぎながら大きく揺さぶった。

 二人楽しそうに、笑い声を上げながら。

 太陽の位置から、時は正午を過ぎていた。

 現世の人間では肉眼で太陽を見る事は不可能だが、エデンでは目の能力を超え、太陽を直視する事が出来た。

 しかし煉獄で全てを通過したとはいえ、まだ人性を持つヴェルハルトには、長く太陽を直視する事は出来なかった。

 しかし聖綴と愛海は違った。

 まさしく、聖人と人間の差は明確だった。

 ヴェルハルトは、聖綴と愛海に挟まれる形で、空へと飛揚(ひよう)した。

 だがヴェルハルトにはその実感がなく、天国に向かっている事に半信半疑だった。

 すると愛海が声をかけた。

 

「あなたはもう、地上にはいません。天国へ急行しているのですよ。その速さは、雷光でもあなたほど速く飛んではいません」

 

 この先、九つの天国を巡って、至高天で神の姿を見る事に想像も及ぶ事が出来ないまま、聖綴と一緒にヴェルハルトは飛び立ったのであった。

 そして瞬く間に、九つの天の内一番最初の第一天である、月へと到着した。

 ここ月天は、明るく、厚く、固く、磨かれた雲の様に見え、太陽の光を受け真珠の様に輝いていた。

 純白の真珠の様な、清らかでどこか儚い世界に感じられたのはおそらく、そこに住まう住人達による影響かも知れない。

 周囲を見渡す限り、そこにいる魂達は深い水の底にある顔や、白い額にかかった真珠の様に、薄っすらと透けて見える姿をしていた。

 地獄や煉獄の様に生々しい肉体感はなく、非常に繊細な存在感だった。

 この月天を支配しているのは、貞潔の女神ディアナだった。


「お母さん……ここはどんな人々が住んでいるの?」


 聖綴がそう愛海へと尋ねた。


「ここには、誓いを立てたけれど他人の強制的な邪魔等が入って、それを全う出来なかった者達ですよ」

 

 月天にいるのは、他人の強制によって誓いを破らざるを得なかった人々で、天国の中では神から最も遠い階層なのだが、見る限り彼等は満足していて、悲しんでいなかったのだ。

 これにヴェルハルトが近くにいた霊魂に尋ねた。


「なぁあんた。ここよりもっと高い場所に行きたくはねぇのか?」


 これにその霊魂がにこやかに答えた。


「私達の愛の力は、現状に満足する事を教え、それ以上のものを望まないのです」


 彼女達は神への愛が不完全だったわけではないが、外部の力に屈して誓いを破ってしまった為、天国の中では最も低い階層に配置されている。

 しかし彼女達は自分の置かれた場所に満足している。


「神の御心に従う事こそが、私達の平安であるのです」


 その悟りが、月天の静謐(せいひつ)な空気感を作っていたのだった。

 聖綴とヴェルハルトは月に足を踏み入れる際、彼等の体は水が光を通す様に、月の中へ吸い込まれていた。

 物質でありながら光を通す、月天が神秘的で半透明の世界だからだろう。

 月天の魂達は、上位の天にいる魂よりも神への愛が少し欠けている様に見做(みな)された。

 ここの住人であるピカルダ・ドナーティは述べる。


「神の御旨(みむね)こそが彼等の平安なのです」


 月が満ち欠けする様に、ここにいる魂達は地上で誓いを全う出来なかった不完全さを象徴していた。


「ねぇお母さん。お母さんは死んでこうして天国の住人になってから、その、俺の……聖綴の本当の正体に、気付いてる?」


 聖綴は言いにくそうに、愛海へと尋ねてみた。

 すると愛海はにこやかに微笑んでから、首肯した。

 

「ええ。存じていますよ。ナムウドッグ。しかし、それ以上でも以下をも他の事は一切、解かり得ません」


「正体が分かって、嫌じゃなかった?」


「どんな相手であれ、私が腹を痛めて産んだ事は事実。嫌どころか、ナムウドッグも含めて、私の大切な子供です」


 その言葉を聞いて、聖綴は母、愛海が何故天国の住人になれたのか、分かった気がした。



ここまで読んでくださったあなたは緋宮の大切な子供ですww

大変ありがとうございます‼

良ければ、「いいね!」もしくは「☆」をよろしくお願いします。

「いいね!」は読者様がどこまで読んだのかの目印にもなって励みになりますのでどうかよろしくです♪

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