episode,Ⅱ:覚悟と根性
【登場人物】
*釘鎹聖綴(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。
*柊ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。
*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。
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「俺は柊ヴェルハルトだ。よろしくなカトちゃん!」
「うむ……して? そなた人ではないな? 一体何者ぞ」
カトーのこの一言に、ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブは嘆息を吐いた。
「その様に申すと言う事は、汝も我の情報を欠片も持たぬつまらぬ者か……」
「どういう意味だ?」
カトーは片眉を上げてナムウドッグに尋ねた。
「我はナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブなる名だ。これでも我を、汝は存ぜんな?」
「……うむ。知らぬ!」
刹那、黙考してからそうキッパリと告げた。
「我は自分探しの為にここへ来た。この少年は、我の理解者であり真の友だ」
「……どういう繋がりをしたら、こうした奇妙なコンビが組み合わさったのだ。見た所この少年はまだ童。そしてそなたは千や二千は生きておるまい?」
カトーは言いながらも、長い顎髭を擦る。
「ああ。正直、もう自分がどれだけの長い時を生きておるのかも、数えてはおらぬが短くはないのは確かだ。それまで我は己の存在理由等、元々興味はなかった。しかし、ちょっとした出来心で、"人間"として生を得て見たく思い人となり、人生を送りその時にこの少年と友になった。そして人の人生を終えてみて思い至ったのだ。我とは、何者ぞと」
「それで自分探しを、か。して、そなたはこの少年を生者にも関わらず、この様な世界に連れ回す理由は?」
「ヴェルは……この少年は、孤独だ。人になる前の我と同様にな。放ってはおけぬ。我の、今では何よりも大事な存在だ」
「それは、覚悟の上でか」
カトーのこの言葉に、咄嗟にヴェルハルトが割って入った。
「腹の底から覚悟の上だ! 現に、今しがた地獄に行って出て来たばかりだ‼」
これにカトーは仰天した。
「何と! あの異界を掻い潜って参ったとな⁉」
「おうよ‼」
「然様」
ヴェルハルトとナムウドッグは声を同時に言った。
「ふぅむむ……それは見事なまでの腹の座った童よ……! 良い友を得たな。ナムウドッグとやらよ」
「かけがえのない存在だ」
ナムウドッグは言うと、ヴェルハルトをまだ自分の腰の高さまでしかないヴェルハルトを、引き寄せて腰元に抱いた。
「ナムウ……」
咄嗟にヴェルハルトは、ナムウドッグを見上げ、見つめた。
「わしは感動した! その様な、種を越えた友情は簡単ではない事だ! 良かろう……さぁ行け! しなやかな藺草の茎でその童……ヴェルハルト少年の腰に巻き、その顔を洗って、一切の汚れを落としてやれ! 悪霧に曇った目で、天国の御使いの中の第一等の方の御前に出るわけにもゆくまい。この小島の回りのずっと低い辺りには、波打ち際の軟らかな泥土の中から藺草が何本も生えている。その他の草木は、葉が茂ったり硬くなったりするから、長持ちが出来ぬ、打たれても靡こうとしないからだ。藺草を結んだら、ここへまた戻るに及ばぬ。もう日が昇ってきた。山へ登る一番楽な坂道を照らしてくれるだろう」
煉獄の管理人カトーの助言通り、海岸へ向かった。
遠くから海の奏でる震音が聞こえてきた。
その音を頼りに、人気のない平地を通ってヴェルハルトはナムウドッグにぴったりと寄り添って進んだ。
そして海岸に着くとナムウドッグは、ヴェルハルトの顔に付いていた地獄の汚れを洗い落としてから、更に歩いて人気のない渚に到着した。
その辺りの海を航海した者で、生きて還れた試しはないという海だった。
そこの浜辺に群生していた、謙譲の象徴であるしなやかな藺草を抜いて、結ぶとヴェルハルトと自分の腰に巻いた。
そしていよいよ、煉獄登山の出発の準備が整った。
すると太陽の昇り始めた夜が明け始めた。
釘鎹聖綴の姿に変わったナムウドッグとヴェルハルトの義兄弟は、心では進もうとするが身体が動かない旅人の様に、煉獄の渚に立っていた。
すると朝霧の向こうで火星の様に赤く燃える光が、どんな空飛ぶ物にも及ばない動きで近付いて来た。
ヴェルハルトは聖綴にそれが何かを尋ねようとして、目を逸らしている間にその光は更に大きくなり、その光の両側には白い物が見えてきた。
そして次第に光の本体も識別も出来る様になった。
それは白い衣を纏った船頭だった。
船は、道具など一切使わず船頭の翼だけで、離れた岸の間を往来している。
白い衣を纏った船頭は、神の御使いの天使だった。
今後煉獄で出会うはこうした連中だと、聖綴はヴェルハルトの耳元で囁いた。
向こう岸から煉獄に運ばれて来た善霊の立場で、少しも水に呑まれずに素早く快走する軽やかな舟に乗り、天使が岸を目指して進んで来た。
天の船頭は艫に立っていたが、文字通り幸深い姿であった。
百余の魂がその中に座り"イスラエルの民がエジプトから脱出した時に"を歌い始めた。
その聖歌の百余人の荘厳な大合唱が終わった時、船頭天使は十字架を切って霊魂達を煉獄の岸へと送り出した。
全ての善霊達を下船させると、また天使は来た時と同じ航路を素早く戻って行った。
聖綴とヴェルハルト二人は、煉獄山の麓を目指して進んだ。
そして天に向かってどこまでも高く、海からそびえ立つ山を見上げた。
そうして聖綴とヴェルハルトは煉獄山の麓に辿り着いた。
その前方には絶壁がそびえ、岩は鋭く切り立って、聖綴達は煉獄前域から何とか上に登ろうとしたが、どこも断崖絶壁になっていた。
何とか登ろうと奮闘しても、全く登れない苛立ちとジレンマから聖綴は咄嗟的に、いっそう翼を出してヴェルハルトを抱えて飛び立とうかとも思いが過ぎったが、周囲には百余の霊魂達がいる。
よもや己が生者である事、そして翼を持つ者として、悟られるわけにはいかない気がして、グッとその感情を押しとどめた。
そして聖綴は、現世で人であった頃に学んだ覚悟と喝を入れる為に、「気合いだ」と十回唱えたかと思うと根性でボルダリングを開始した。
これにヴェルハルトは暫し呆然として、同じく真似ると共に登り始めた。
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