8.脳筋
「何が起きたし」
何度目かの始まりの風景を眺めながら、私は呆然とそう呟く。
失敗原因は恐らくクリスタルが破壊されたこと……だけれど、誰に壊されたのかは分からない。
破壊される直前、ほんの一瞬だけ私に向けられた拳を視界に収めただけだ。
「どっから現れた? 直前まで居なかったよね?」
まさか空から? ……いや、砂埃一つも起こさずに着地する事なんて出来るかな? 拳だけで私の身長くらいあった巨体だよ?
となると、目にも留まらないめっちゃ猛スピードで接敵したか、光学迷彩的な能力がある可能性か。
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PN:HINAMI・L
性別:女性
種族:鬼人
職業:魔法使いLv.1(5/30)
筋力:194
耐久:122/122
知力:100
魔力:130/130
技量:114
敏捷:100
幸運:100
状態:通常
スキルスロット
◇格闘術Lv.4
◇怪力Lv.4
◇強撃Lv.7
◆魔力放出Lv.5
ユニークスキル
なし
称号
なし
運命
未定
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スキルレベルは今のところ順調に上がってるけど、このまま挑戦し続ければ勝てるかな?
強さを引き継いだまま最初から再チャレンジ出来るんだし、勝てるまで挑めばいずれクリアできるでしょ。
「って事でレッツラゴー!」
「ダメだ! 姿すら捉えられない!」
これで何度目の失敗だろうか? インベントリの中にある火炎放射器は……うわ、22体もある。
途中で何度か吸収したから、実際はそれ以上ループしてる事になるな。
「なんで見えない? 何が足りない?」
改めて自分のステータスを確認してみるけど……ううむ、知力? それとも敏捷? 動体視力は知力と敏捷のどちらに含まれるんだろうか。
どっちもあった方が良いんだろうな。両方とも初期値のままだけど。
「暫くレベルアップを目指すか」
それで新しいスキルを取得しよう。出来れば知力と敏捷が上がるやつ。
その為には魔力放出スキルを30まで上げないといけないけど、時間を掛ければ何とかなるだろう。
一回のループで火炎放射器と、黒岩の拠点の奴らと戦えるから……でもそれだけで足りるかな? こういうレベルって段々と上がりづらくなっていくもんじゃないの?
「……時間、測ってみるか」
「すぅー……」
巨大クリスタルのすぐ傍で、私は大きく息を吸って集中力を高めていた。
チュートリアルクエストの欄には、今自分が居る年代と時刻が表記されている。
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難易度:☆★★★★★★★★★
クエストNo.1
名称:村のクリスタルを守り切ろう
種別:チュートリアル
時刻:C.C4852/04/15/18:19
説明:アナタが訪れた村が機兵に狙われている。村のクリスタルが破壊されれば、そこに人類は住めなくなる。襲い掛かる機兵を撃退して村を守ろう。
報酬:100煌貨
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チュートリアルクエストの開始時刻は17時42分。そして今は18時19分。これが21分になる頃、アイツは現れる。
この正確な時刻を確かめる為にさらにループを強いられたけど、タイミングはバッチリ覚えた。
時間までに所在を把握している機兵を全て片付けて、ここに陣取る事が出来る様になるまで大分回数を重ねたけど。
あとちょっと村人達からの視線が痛い。
――18時20分
そろそろだ。アイツが来るのは21分丁度ではない。21分になる13秒前だ。
残念ながらクエスト画面には秒数までは表示されない。だからこれは全て体感で覚えなきゃいけなかった。
「5――、4――」
何度も繰り返して、今の私のスキルは全てレベル10を超えている。
でも、これだけでは足りない。それは分かっているけど、一発ぶちかましてやらないと気が済まない。
「3――、2――」
腰だめに拳を構え、魔力を集中させる。
「1――」
限界まで気合いと魔力を集中させた拳を、全力で前方に向けて振り抜く――
「――ッラァ!!」
まるで最高速度で走る新幹線を殴ったらこうなるんだろうな、という衝撃が右半身を突き抜ける。
手応えはあった。けどそれ以降の感覚がない。どうやら私の拳が触れると同時に肩まで一緒に抉り取られてしまった様だ。
【※※※※※※】
全く敵わなかった。けれど、今まで正体不明だった敵の姿を確認する事が出来た。
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脅威度:☆☆☆☆☆☆☆★★★
名称:游雲
種別:儀仗兵
説明:自我を獲得した機人の初期傑作の一機。母胎の支配下から脱した自滅者。長い年月によってその身は錆び、欠け、崩れている。正しき歴史のためその身が完全に朽ちるまで神の尖兵を狩り続ける。
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「お前、そのツラ覚えたかんな」
ひび割れた兎のような頭、錆びた外装に非対称な三本の腕。そんな上半身を支えるのは、馬の様な八本脚の下半身。
まるで巨大なケンタウロスの様な、赤錆に塗れた巨躯を睨み付けて私は再度ループした。
「なにあれ」
自室のベッドの上で思わずといった様子で呟く。
ヘッドセットを外してぼんやりと天井を見詰めながら、どうしたもんかと頭を悩ませる。
一応迎撃っぽい事は出来たけど、全然通用してなかったな。真正面から打ち合ったらダメだわあれ。
んであれ、直前まで視認できなかったの単純に相手のスピードが速すぎたからで確定でしょ。馬の下半身を持ってたし。
「なにあれ」
もう一度言う。なんだあれはと。
「チュートリアルに出て来て良い敵じゃないでしょ」
ステータスの脅威度とやらも星一つから一気に七つに増えてたし、あれどうすれば良いんだ。
――ピコンっ
「んぉ? ……ハルカ達からか」
スマホに手に取り、グループチャットを開く。
春香:チュートリアル終わったー! 二人はどう?
77:私も終わった。意外と楽しかった
「うわっ、二人はもうクリアしてんだ」
凄いな、アレを倒したのか。
雛美:二人は凄いなー、私なんてまだクリア出来てないよー
春香:ヒナミはまだかー
奈々:手こずる要素あったかしら?
雛美:游雲って奴が強くてさー
春香:なにそれ?
奈々:そんなの居た?
「あり?」
二人はあれに出会ってないの? 念の為最後に確認できたステータス情報でも送ってみよう。
雛美:こういう奴なんだけど……
春香:なにこれ
奈々:全然知らないわね
雛美:あれー?
奈々:これって徘徊系ってやつじゃない?
雛美:徘徊系?
奈々:そう、徘徊系
春香:なにそれ?
徘徊系、徘徊系……どっかで見たような……あっ、掲示板か!
雛美:そういえば公式掲示板で話されてたような?
奈々:寄りにもよってチュートリアルで発生したのね、運の無い子
春香:なー、徘徊系ってなんだよー
奈々:https://*********
奈々:ここに詳しく乗ってるから
春香:せんきゅ
「ふむふむ」
長い年月ずっと世界中を徘徊してはクリスタルを破壊して回ってる奴なのか。
古い時代になるほど劣化や損傷が無くなって強くなり、脅威度の星の数も増えるんだ。
「え? じゃあ、私が出会ったのはめっちゃ弱体化した姿なの?」
そもそも遭遇する事が稀で、コイツを倒したプライヤーは未だに居ない……へぇ、レアなボス? なんだ。
奈々:雛美が遭遇したのは現代に近い年代の奴ね、脅威度も星七つまで減ってるし
雛美:脅威度ってよく分かんなーい
奈々:脅威度の星の数=プレイヤーレベルらしいわよ
雛美:つまり?
奈々:互角に戦いたいなら戦士レベル7とかまで育てないと
雛美:ほえ〜
春香:乗り気じゃなかった割には詳しいな?
雛美:それ思った
奈々:別に……予習と復習を大事にしてるだけよ
春香:ほーん
つまりあれか、私は魔法使いレベルを7まで育てないといけないのか。適正スキルが一つしか無いから厳しいな。
奈々:まぁ、徘徊系は必ずしも倒す必要はないみたいだけれどね
春香:まとめ見る限りなんか相手に認められれば見逃して貰えるっぽいよなー
雛美:ムカついたから出来ればぶん殴りたいんだけどなー、私今適正スキル一つしか無いからなー
奈々:ひとつ?
春香:なんで?
雛美:ダイスの結果でござる
とりあえず今の私のステータスを送っておこう。
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PN:HINAMI・L
性別:女性
種族:鬼人
職業:魔法使いLv.1(15/30)
筋力:331
耐久:152/152
知力:100
魔力:190/190
技量:141
敏捷:100
幸運:100
状態:通常
スキルスロット
◇格闘術Lv.11
◇怪力Lv.12
◇強撃Lv.15
◆魔力放出Lv.15
ユニークスキル
なし
称号
なし
運命
未定
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奈々:なによこれ
春香:お前すげぇな
奈々:筋力に偏り過ぎでしょ、どうなってるの
春香:スキルレベルの上がりはウチよりも早いけど、これチュートリアルだけでレベル上げるのキツくね?
奈々:スキルレベルは数字が増えるほど上がりづらくなるし、チュートリアルクエストは敵の数も少ないからサンドバッグになる相手も居ないし……そもそもなんで魔法使いが魔法を覚えてないのよ
雛美:なんでだろ? 私にも分かんない!
奈々:はぁ……
春香:徘徊系が出なくても攻略手こずっただろこれ
めっちゃ突っ込まれてしまったわ。
雛美:参考までに二人のステータスを見せてよ
奈々:構わないわよ
春香:いいぜ
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PN:77
性別:女性
種族:人間
職業:呪術師Lv.1(13/30)
筋力:110
耐久:118/118
知力:138
魔力:168/168
技量:146
敏捷:100
幸運:100
状態:通常
スキルスロット
◆呪術Lv.8
◆杖術Lv.5
◇癒術Lv.4
◇水魔術Lv.7
ユニークスキル
なし
称号
なし
運命
◇レマ村防衛
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【人間】
種族効果 :デバフ攻撃に微補正
【呪術師】
職業効果 :デバフ攻撃に微補正
【呪術】
会得条件 :なし
レベルアップ時:魔力+4 知力+2 技量+2
解説 :呪術を扱える様になる レベルに応じて呪い技術にプラス微補正
【杖術】
会得条件 :なし
レベルアップ時:筋力+4 耐久+2 技量+2
解説 :レベルに応じて杖を用いた動作にプラス微補正
【癒術】
会得条件 :なし
レベルアップ時:魔力+2 耐久+2 知力+2 技量+2
解説 :癒術を扱える様になる レベルに応じて医療行為にプラス微補正
【水魔術】
会得条件 :なし
レベルアップ時:魔力+4 知力+2 技量+2
解説 :水魔術を扱える様になる レベルに応じて水属性にプラス微補正
【レマ村防衛】
運命効果 :回復効率に微補正
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PN:ハルカ
性別:女性
種族:獣人(熊)
職業:戦士Lv.1(24/30)
筋力:196
耐久:196/196
知力:100
魔力:100/100
技量:100
敏捷:140
幸運:100
状態:通常
カルマ:《中立》
スキルスロット
◆大剣術Lv.7
◆防御Lv.8
◆強撃Lv.9
◇疾走Lv.5
ユニークスキル
なし
称号
なし
運命
◇ノーム村防衛
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【獣人(熊)】
種族効果 :物理攻撃に微補正
【戦士】
職業効果 :耐久に微補正
【大剣術】
会得条件 :なし
レベルアップ時:筋力+6 耐久+2
解説 :レベルに応じて大剣を用いた動作にプラス微補正
【防御】
会得条件 :なし
レベルアップ時:耐久+8
解説 :レベルに応じて防御行動と物理防御にプラス微補正
【強撃】
会得条件 :なし
レベルアップ時:筋力+6 耐久+2
解説 :レベルに応じて物理攻撃にプラス微補正 スキルとして使用すると通常攻撃×スキルレベルの1.1倍のダメージを相手に与える
【疾走】
会得条件 :なし
レベルアップ時:敏捷+8
解説 :レベルに応じて動作速度と逃走にプラス微補正 スキルとして使用すると一定方向に瞬間的に移動する事が出来る
【ノーム村防衛】
運命効果 :回復効率に微補正
「ほうほう」
二人のステータスはこんな感じなんだね。
雛美:なるほどなー
奈々:戦士より筋力が高い魔法使いってどうなってんのよ
春香:ナナは呪術師ってのにしたんだな
雛美:疾走いいなー、レベルアップしたらそれ覚えようかなー
奈々:アンタはまず魔法を覚えなさいよ、種族特性も死んでんじゃないの
雛美:種族特性?
奈々:アンタの鬼人は属性攻撃が得意な種族でしょうが!
雛美:そういえばそうだったかも?
春香:熊耳が可愛いから選んだだけで、種族特性とか見てなかったわ
奈々:あぁ、そう……頭が痛いわ……
これっきりナナはグループチャットに浮上しなくなった。疲れさせてしまったらしい。
「とりあえず職業レベルが上がるまで頑張るか」
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