10.チュートリアルクリア
――雑魚を狩る
――特訓をする
――游雲を殴る
――そして死ぬ
――雑魚を狩る
――特訓をする
――游雲を殴る
――そして死ぬ
――雑魚を狩る
――特訓をする
――游雲を殴る
――そして死ぬ
――雑魚を狩る
――特訓をする
――游雲を殴る
――そして死ぬ
――雑魚を狩る
――特訓をする
――游雲を殴る
――野郎を蹴る
――そして死ぬ
――雑魚を狩る
――特訓をする
――游雲を殴る蹴る
――頭突きを喰らわせる
――そして死ぬ
――雑魚を狩る
――特訓する
――游雲を殴る蹴る
――頭突きを喰らわせる
――そして死ぬ
何度も何度も挑んでは負けてを繰り返し、それでも諦めずに挑戦を続けた。
次第に一回のループで当てられる攻撃の数が増えていき、連続で何発ぶち込む事が出来るのか記録更新をモチベに挑み続けた。
毎回同じ動きをする訳じゃないので記録更新するのは難しいが、最初の一撃だけは全く一緒なので一発も当てられず終わる事はない。
私がクリスタルの前に陣取っていると、奴はクリスタルよりも私を優先して狙うからだ。
下手な魔法を覚えずに正解だった。疾走や跳躍が無ければ回避行動も出来ずに、ただ捻り潰されるだけで終わってただろう。
敏捷がまだ足りないのか、それとも知力も必要なのか、相変わらず相手の動きを見切る事は出来ないが、それでも勘で回避する事は出来た。
そして現在――私は血塗れになりながら自己ベストの一撃を繰り出した。
「――十発目ェ!!!!」
既にぐちゃぐちゃになった右腕で〝強撃〟を放ち、野郎の顎を殴り飛ばす。
叩き潰される前に、魔力放出と跳躍を発動して上空へと急加速する。
真下で空間が破裂したかと思うほどの衝撃波が発生し、一瞬で私の全身を通り抜けた。
「新記録の十一発目じゃワリャア!!!!」
インベントリから取り出した機兵を吸収して回復しつつ、魔力放出で空中での姿勢制御を行い、今まで達成できなかった新記録を樹立する回し蹴りを顔面に叩き込む。
「――〝強撃〟ッ!!」
【※※、※※※※】
全身が痛い。足がもげた。これだけして全然平気そうなのが腹立つ。てかなんて言ってるか相変わらず分かんないし。
ここまで連続で殴れる様になるまでリアル時間で二週間は掛かっている。もう五月だよ。ハルカとナナの二人からは同情されてんだ。
もう何百回ループしたか分からねぇよ。どんだけコイツに挑んだんだろうな私。
「なんでもない様な顔しやがって、余計に腹が立つ」
魔力放出を使い、敢えて落下速度を上げる事で反撃を躱す――予定だったのだが、想定していた反撃が一切来ない。
「……なんだ?」
地面に激突しながら何とか受け身を取り、インベントリから取り出した機兵で回復しながら敵へと視線を向ける。
【※※※※※】
動かない。何か喋っている。
【※※】
警戒は解かず、十二発目をぶち込むべく拳を握り締めた直後――奴が背を向け、その姿が消える。
「……あ?」
呆然とその場で固まっていると、視界にクエストクリアを知らせる画面が表示される。
どうやら見事に村の防衛に成功したらしい事が書かれているが、なんだか納得がいかない。
「見逃された? 情けを掛けられた?」
たった十一回ぶん殴っただけで消化不良も甚だしい。
いや、これまでのループでそれこそ何百回と殴って来たけど、もっともっと殴りたかった。記録をさらに更新したかった。
「いつか絶対に殺す」
こんな屈辱は滅多にない。絶対にお礼参りしなければ気が済まない。
「はぁ〜……」
苛立ちを感じながらその場に大の字に寝転がる。ちょっと脳みそが疲れた。
雛美:チュートリアルクリアしたよ
春夏:やっとか
奈々:おめでとう
雛美:個人的には消化不良だけどね
春夏:なにが?
雛美:倒せなかったから
春夏:いや無理だろ
奈々:レベル2で倒せる訳ないでしょ
春夏:てかどうやってクリアしたん?
雛美:必死に攻撃を躱しながら十一回ぶん殴った
春夏:やるじゃん
奈々:そんなこと出来るの?
雛美:もう一発ぐらい殴りたかった
雛美:二人は今どんな感じ?
春夏:それぞれ個人クエストを幾つかクリアしたところだな
奈々:そうね、そろそろ世界クエストに挑戦できそうってところよ
雛美:個人クエストをクリアして、塔を登って行かないといけないんだっけ
春夏:そんな感じ
奈々:私たちは今十階よ
雛美:十回クリアしないといけないの?
奈々:そういう訳ではないみたいよ
春夏:基準は不明だな
春夏:徘徊系を撃退したお前ならもう行けんじゃね?
雛美:まぁ、とりあえず一回合流しようよ
春夏:いいぜ
奈々:わかったわ
そういう訳で待ち合わせ場所のクリスタルタワー前の広場に到着した。
少し視線を流せば、二人はすぐに見付かった。
色白の肌に長い黒髪をそのまま流しているのがナナで、小麦色に焼けた肌に癖のある金髪を後ろで結んでいるのがハルカだ。ハルカは熊の耳と尻尾がある。
「お待たせ」
「お務めご苦労さまです」
「うるさい」
「馬鹿やってないで少し移動するわよ」
まるで私が服役していたみたいな弄り方をするハルカからぷいっと顔を背け、ナナの誘導に従って足を動かす。
「でもリアルで二週間だろ? 学校でもずっとブツブツ攻略法について呟いてたしよ」
「あれ? 口に出てた?」
「ちょっとな」
「気味悪かったわ」
「そん時に教えてよー!」
二人からの指摘に頭を抱える。ヤバいじゃん、めっちゃ物騒な事を呟いてたかも……元ヤンって事は高校では隠してるのにバレたらどうしよう。
いやでも、うん、まだ大丈夫な筈だ。何か言われたら……いや、言われる前にゲームの話だって弁明しよう。今度学校に行ったらそうしよう。
「それで何処に向かってるんだ?」
「プレイヤー同士の話し合いに使われる場所が幾つかあるのよ」
ナナが空中で何かを操作する仕草をした直後、目の前に位置情報が追加されたマップが現れる。
どうやら目的地を共有してくれた様だ。なんだろう、ナナが既にゲームシステムを使いこなしてる。
「そんなに遠くないっていうか、もう着くわよ」
「へぇ、ここが……あんまり見た目じゃ分かんないね」
「この街の建物全部クリスタルで出来てるからな」
看板をよく観察しないと、どれがなんの建物なのかさっぱりだぜ。
観光する分には綺麗で幻想的で良い街だけど、実際に住むってなったら不便そうだな。
そんな事を考えながら、ナナに続いて『喫茶クラリス』の看板が下がった建物に入っていく。
「三人よ、空いているかしら? それと三人分のコーヒーをお願いするわ」
「あちらのお部屋へどうぞ」
壁の一部にクリスタルが剥き出しになっているけど、天井や床はちゃんと木が貼ってあるな。
流石に全方位クリスタルだとチカチカして落ち着かないか。
案内された個室に入り、促されるまま席に着く。
「出来るだけ個室を選ばないと盗み聞きされる事があるみたいだから、二人も今後気を付けなさい」
「へぇー」
「変な奴も居るなぁ」
わざわざ見知らぬ他人の会話を盗み聞きしようとする人が居るなんて驚きだなぁ。
「一人一杯は頼まないと利用できないけれどね。……それで本題に入るけれど、雛美は10階に登れたの?」
「合流する直前に確認して来たけど、普通に行けたっぽい」
「やるなぁ」
私はまだチュートリアルしかクリアしてないんだけど、なんか普通に行けちゃったんだよね。
徘徊系とやらを撃退したのが良かったのかは全く分からないけれど。
「じゃあ、三人で世界クエストに挑戦できるって訳ね」
「でも誰もクリアしてねぇんだろ?」
「そうね、初心者三人が加わったところで何も変わりはしないわ」
「逆に自由に動けるって訳だ」
「雛美の言う通りよ。誰も私たちを戦力として見ないから」
「なるほど、じゃあいいか」
必ずしも貢献しなきゃいけないっ訳でもないんだし、気楽に楽しもうぜって事だね。
「ただ注意すべき事が幾つかあるわ――その一つがPKギルド【True・historia】の存在よ」
「PKってなんだ?」
「Player killの略称。要は他者に危害を加える人達の事ね。彼らは『プレイヤーの介入が無い状態こそが真の歴史』と主張し、他者の追憶を邪魔するらしいわ」
「えぇ、なんだそれ……」
「傍迷惑な」
このゲームって過去に戻って救えなかったものを救うぜ! ってゲームじゃないの? 根本から否定してて良いの?
「最初に勧誘されるらしいけれど、断ったら襲われるらしいわ」
「他のプレイヤーから報復されたりしないの?」
「何度か大規模な討伐作戦が実行されたらしいけれど、トッププレイヤーが多い上に幹部以上の結束が固くてすぐに復活するそうよ」
「面倒な連中だな」
「何をモチベにしてるんだろう」
私はムカつく野郎をぶん殴りたかったっていう理由で二週間も消費しちゃったから人の事はあんまり言えないけど。
「だからPKギルドの連中に関わらないこと、他のプレイヤーにPKギルドの人間と勘違いされる様な言動はしないこと、これらを気を付けなさい」
「「わかった」」
まぁ、普通に遊んでれば早々絡む事もないでしょう。
「後は……そうね、雛美の事かしらね」
「うち?」
「そうよ、貴方のふざけたステータスについてよ」
「あー」
「魔法使いなのに脳筋だもんな」
これはまぁ、仕方ないよねーって……だって殴りたかったんだもん。
「あなた今スキルレベル幾つよ? 適正スキル一つしか無いんでしょう?」
「えっーとね……」
ナナに言われて、そういえば暫く確認してなかったなとステータス画面を開く。
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