撃沈
彼らが言うにはこうだった。
あのナイスバディなお姉様方は始めこそ可愛がってくれていた。
しかし、次第に慣れてきた頃にあまり構ってもらえなくなった。
やりたかった事でもないのでカプレーゼはオーダーミスを何度かしてしまう。
その際にため息を吐かれることが多くなった。
ラペの方では運送屋に勤めていたが、これもまたアンティパスト島での魔王軍の労働のようで嫌気が差しつつあった。
なんなら仲間と駄弁ってできたアンティパスト島の方がよっぽど天国だ。
癒しだったお姉様方も素っ気なくなってきたし。
しかし、そんな中でも踏ん張ることができたのは、癒し系のお姉様で1人だけ優しく声をかけてくれる人がいたからだ。
「大丈夫?元気出してね!」
ラペもカプレーゼも2人ともその時ばかりは顔をゆるっゆるに崩れていた。
「あのお姉様、可愛いよな」
「うん、好き」
ラペが立ち上がって拳を天高く突き上げる。
「よっし!がんばろう!あのお姉様に振り向いてもらえるように!」
「おー!!」
カプレーゼも立ち上がって同じく拳を突き上げた。
それからしばらくは2人ともかなり頑張った。
あの可愛がってくれていたお姉様方はこちらを見向きもしないどころか、時々町中で彼氏とイチャイチャする姿も見た。
だが、もう興味はない。
「けっ」と吐き捨てて背を向けたりもした。
カプレーゼもラペもお互いのお世話になっている職場で今まで以上に働き、実力を身につけた。
その実力と努力は自信となり、2人の雰囲気は一気に逞しくなった。
自信をつけた2人は、満を持して癒しのお姉様に告白をしようと決心。
「いいか?俺とカプレーゼ、どっちが選ばれても恨みっこ無しだからな!」
「もちろん!」
そしてお姉様の前に行く。
「あ、あの!」
ラペが声をかけ、目を見合わせてから頷いた。
「好きです!僕と付き合ってください!!」と声を揃えて手を出し、頭を下げた。
2人とも目をつぶっていたので相手の反応は見えていない。
「あー、あのー・・・」
「僕たちのどっちを選んで頂いても大丈夫です!!」
「どっちが選ばれてもお祝いします!!」
突っ走る2人に戸惑っていると、別の方向から男性の声が聞こえた。
「お待たせ!何やってんの?」
顔を上げて見ると、筋肉質で背の高い男性がいた。
「あれ?ラペ?」
「せ、先輩!!」
男性はラペの職場の先輩だった。
運送で鍛えられた肉体美にしがみつく癒し系お姉様。
気まずそうに「紹介するね・・・」と言ってくる。
別にされなくたってわかる。
その後、「私の彼氏です」的な事を言われたがもちろんだいたいわかるので、ショックの方が大きすぎて耳に入らない。
さらには結婚前提とか何とか聞こえたような、それとも付き合いたてで今一番仲良しとかだったような、とにかく幻聴であれと願いたくなることを聞いた気がする。
最後に一言「ごめん!」とだけ可愛く言われたが、もう可愛いとは思わなかった。
2人の恋は見事に撃沈したのだった。
一方ファルシはというと、革加工屋の師匠の娘であるムスカリと恋人になっていたのだが、こちらもまた一波乱あったのであった。