幸福の王子の家
ディンブラは大使たちに嬉しそうにこれまでの旅路を話していた。
ただし、誰かにつけ狙われていることを隠して。
「大きな船で西の大陸に渡ってね、ウェストポートからメリリーシャまでの徒歩道があるんだけど、そこには宿場町が点在してるんだ!その一つ目の町に蜂が大量発生していたんだ!」
トラブル臭しかしないその内容に反して、目を輝かせていたのはディンブラだけだった。
「・・・そう。それは大変だったね、葵くん」
目が座ったリントンが労ってくれた。
「なんで葵くんだけなんだよ?僕だって一緒に旅をしてきたんだぞ!!」
「あのね、どうせ通らなくてもいい、または泊まる必要のない宿場町に蜂がたくさんいたからってわざと泊まったりしたんでしょう?」
見事にパトロックが言い当てたのに対し、ディンブラが口を尖らせて拗ねる。
そこをまたマタリに責められた。
「ほら、当たった!ディンブラがそんな場所放置して進めるわけないだろ?目に見えてんだよ!!この虫オタク!!」
「でも!蜂の巣退治したんだよ?町の人が困ってたから!!」
「そう言えば、その町にいた人がパーティと魔女が蜂の発生に絡んでるって言ってたな」
葵の言葉に大使たちがお互いを見合った。
「あー、あれだね、幸福の王子」
「ビックリしたよね。メンバーが1人増えたのかと思ったら、魔女だって言うんだもん!腰抜かしそうになったよ!」
「ま、すぐに住む家を見つけて出てってくれたからよかったですけどね」
マタリ、リントン、パトロックがうんざりしたように言った。
「家?この周辺なの?」
「スラム街とかなら空き家が多いけど、ただ住人だってそれなりにいるだろうし、互いに安全ではないな」
ディンブラと葵が聞くと、パトロックが答えた。
「いえ、もっと離れたところの、前にカラの魔女が住んでいた家と聞きました」
「へぇー」と2人して言っていると、ドアが勢いよく開いて複数人の足音が聞こえる。
「ただいま!」と先頭切って客間に入ったのはロマだった。
その後からパーティが続々と入って来る。
「あ!葵とディンブラ!!」
「本当だ!!」
「いつ来たの?」
「こんにちは!!」
ディンブラも葵も笑顔で迎える。
「みんな、またこっちに来たんだね!」
「そうだよ!」
「今、みんなで大使の手伝いしてるの!!」
シャロンとキャメリアが答える。
「チョコが今パパラッチに狙われててな。あとこの街付近で変な噂流されてるんだよ」
マタリが言うと、ディンブラが傾げた。
「変な噂?」
「あぁ、あすなろ荘襲撃事件以来、チョコがコロシアムから姿を消しただろ?それからの魔王軍崩壊だから、きっとあすなろ荘襲撃は魔王軍の仕業で、チョコが歴戦のパーティと共に魔王討伐に行ったって」
「でも最初は眉唾物って感じだったんだ!だけど、チョコがみんなと別れてここでお手伝いしながら一度コロシアムに出た時に、伝説でも持ってそうな意味深な武器を持っていとも簡単に優勝しちゃうもんだから真実味を帯びちゃってさ!」
「か、簡単なんかじゃないよ!!」とリントンにチョコが否定する。
「それ以来パパラッチに追われてるんですよね」
パトロックがチョコに言った時には口を尖らせて拗ねていた。
「一回ノーティーエッグズで見た目を入れ替えて僕の顔でコロシアムに出て、別人説を雑誌に流させたんだけど、クレームが来たみたいで雑誌社が自主回収と謝罪文を出してた」
つまらなさそうにロマも答える。
「世間って厳しいね。なかなか上手くいかないもんだね・・・」
ディンブラも苦笑いして慰めるように言ってあげる。
「チョコ、本当に気を付けろよ。魔王軍に保護してもらっていたとか、敵対していたとかの組織からさらわれかねないからな」
「気をつけます・・・」
葵に注意されて落ち込んで答えた。
「ところで、さっき聞いたんだが、アスタたちがメリリーシャまでの宿場町に大量発生した蜂に関与してるって?」
「そうそう、魔女が絡んでて一緒に旅立って行ったって宿場町の方からも聞いたよ?」
葵とディンブラに言われてアスタ、キャメリア、シャロンの3人が気まずそうにする。
「大使たちからも聞いたが、カラの魔女の家にいるんだってな」
「そ、そう!・・・でもさ、蜂は幸福の王子がお願いしてどっか行ったはずだろ?」
「そうよ!幸福の王子が出発前にお願いしてくれてたもの!!」
「だから大丈夫なはずだよ!!」
3人の力のこもった言い訳に葵とディンブラが呆れながら言う。
「全っ然!退去してなかったぞ!!」
「僕と葵くんで退治したんだよ!ほとんど葵くんがやったけどね」
「えー!!」と口を揃えて言う3人。
「じゃあ幸福の王子って本当に言葉で言っただけで、蜂と会話なんてできないんだ・・・」
「冷静に考えたら、当然よね・・・」
「なーんだ!生物とお話しできるなんて、ちょっといいなーって思ってたのに!」
そんな3人に葵がため息を吐いた。
「とにかく、3人があの宿場町を出禁になりかけていたけど、葵くんの活躍で許してもらったから、お礼言って!」
「ありがとうございました」と3人が真顔で棒読みだったが、葵は疲れもあり、それ以上は何も言わなかった。
「今、その元カラの魔女の家は幸福の王子っていう魔女が住んでるんだよね?近隣の人への被害とかって大丈夫なの?」
ディンブラの質問にパトロックが答える。
「とりあえずは聞かないから大丈夫だと思います」
「それならいいけど・・・」
「行きにくい場所なのか?」
葵も気になったのか聞いてみた。
「めちゃくちゃ行きにくいわけじゃないけど、街からちょっと離れているのと、周辺に何も無いから誰も通る用事もないと思う」
アスタの言葉に葵もディンブラも納得した様子だった。
「・・・あ、今度連れて行こうか?」
「いや、いいよ。遠いんだろ?別にその魔女と面識ないし、いい」
アスタの申し出に葵が即答した。
「じゃあ連れて来ようか?」
「何でだよ!?別に会いたいなんて一言も言ってないだろ!?」
「いや・・・だって、なんか直接謝って欲しいのかなって思って・・・」
「いらん気遣いすんな!!いい!お前たちの謝罪だけで満足だから、余計なことするな!!」
アスタは頬を膨らませて「ブー!」と口を鳴らしていた。
葵とディンブラが大使館でゆっくりしている頃、メリリーシャ郊外の中でも遠い位置にある丘では、1人の青年がリュックを背負って徒歩で来ていた。
丘の上には一軒の小さな家が建っている。
白塗りの壁に、木のドアと赤い屋根の家。
そう、ここはかつてカラの魔女、チキン・リトルが住んでいた家だった。
空には雨雲が広がっている。
重く厚い雲は辺りを暗くし、湿り気を空気に与える。
その時、一粒の雨が落ちて来た。
掌を体の前で空に向け、雨粒を拾うかのように出し、天を仰いだ。
次第に大粒の雨が続々と降り注ぎ、青年は慌てて家の中に入った。
まるでここが少し前まで空き家だと知っていたかのように。
入ると荷物を下ろし、リュックから出したタオルで頭や服を拭く。
「くっそー!降られたなぁ・・・」
うっとうしそうに体を拭いていた青年は、メリリーシャで個人経営のレストランを営むビストートだった。
「おや?どちら様かな?」
出迎えたのは最近この家に住み始めた犠牲の魔女、幸福の王子。
誰かいたのが余程驚いたのか、ビストートが言葉を失って幸福の王子を見ていた。




