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月桂樹の葉を編む  作者: 叶笑美
群像劇
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奇祭なのか?

予約していた便を逃した葵の兄弟たち。

しかし、柊の親戚が船を経営していて口利きができるとのこと。

突然の意外な救世主に、わらにもすがる気持ちで掴みたのではあるが、しかし格好的にどう見ても貧民の柊に望みは薄い。

表層的に笑顔を取りつくろい、社交辞令としてお願いしたところ、交換条件を突き出された。

高嶺が聞き返したところ、少し面倒臭い内容だった。

いや、明らかに面倒臭い内容だ。

「私は今・・・ちょっと狙われておりまして、港までその人たちにバレずに行かなければいけないのです!なので、どうか変装などで私を隠して連れてっていただけませんでしょうか?」

それを聞き、3人は一旦真顔になって沈黙した。

『狙われてるって何?この貧民くん狙うって、借金取りか?』

『そりゃこのクルーズ船に予約席で悠々と乗れたら時間的にも他にも色々ラッキーだけどさ、あんま期待薄いのに交換条件の内容が釣り合ってないな・・・』

『頭悪いのかな?ちゃんと義務教育受けたのかよ?この案件ちょっとめんどうくさいな・・・』

それから、3人は大きく鼻から息を吸い、少し溜めて、また鼻から息を大きく吐いた。

溜めたのは、口から出そうか迷ったけど、目の前の可哀想な貧民青年のために鼻で容赦したのだ。

4人はしばらく無言で見つめ合っていたが、沈黙を破ったのは意外にも外からのノック音だった。

3度鳴らされたあと、紅玉が「はい!」と返事すると3人の母であるフジの声がした。

「紅玉ちゃん!ここにみんないるの?船の時間に間に合う?」

「そうだ!とにかく港に行かないと!!」

紅玉がかして兄弟を促す。

「わかった、とりあえず君をなんとかしよう!」

王林が頷きながら許諾きょだくした。

「幸い、俺たちには葵っていう弟もいるから、葵みたいにして自分たちの弟ないし、専属モデルのように扱えばいいんじゃないか?さっきとはガラリと雰囲気も変えてさ!」

高嶺の提案に手を突き出して待ったをかける。

「いえ!もっとわからないようにお願いします!!顔も隠し・・・匂いも消したいです!!」

その条件に衝撃を受ける。

『まじでこいつ何やったんだよ?』

『顔どころか、匂いまで?密売人の防犯犬対策かよ?』

『葵の友人だろ?たぶん魔王軍の生き残りで、アングラな案件に手を出さなきゃ生き残れないんだ!兄さん・・・こいつを説得して出頭させよう!!』

なんてみんなで思っていたが、時間がなく一握の望みにすら賭けたい思いもあり、また一斉に大きく鼻呼吸をしてから王林が承諾しょうだくした。

「わかった!ただし、どんな格好でも文句言うなよ?」

念押しされ、柊は頷いた。


「ご利用、ありがとうございました!!」

先程紅玉がチップを握らせたスタッフたちに見送られてみんなでホテルを出た。

その後、ホテル内ではスタッフ同士でイラつきを隠せない様子で話す。

「ドレスコードって言ったのに!あれかよ?奇抜すぎるだろ!!ランウェイか!!」

「仕方ない。有名デザイナー様のデザインにはTPOなるものは皆無なんだよ」

1人がため息をついた。

「これだからクリエイターという人種は・・・」

不満を漏らしていると、1人がスタッフ用の要人リストの本を開いた。

いくつかページをめくると、柊の写真があった。

「あれ?これ・・・」

「何かあったのか?」と横からのぞく。

「さっきの変な格好してた貧民、この人に似てないか?たしか、名前も同じ柊って・・・」

しばらくの間考えていたが、肩をすくめて見せた。

「まさか!他人の空似、または柊と名乗っただけだろうよ。だいたい、なんでこんな国賓級VIPがあんな浮浪者の格好して1人でいたんだよ?」

「それもそうか」

スタッフは本を閉じて各自仕事に戻った。


「さ、急ごう!!」

王林の掛け声で全員が早足でイーストポートに向かった。

柊はと言うと、コレクションに出品する用の衣装を着ていた。

ワインレッドの生地にネイビーの太い線と、それに沿って芥子からし色の細い線がギザギザと肩から股関節あたりにあるすそにまで伸びた柄のジャケットの下には、黒いサテンの生地でできたワンピースがすねまで伸びており、ひざ辺りで大きく広がりバルーンスカートのような形をしている。

ワンピースからは同じサテン生地のひらひらとした細長い布がいくつも付けられていて、動くたびに広がりと動きを見せる。

足元は光を受けるたびに反射するサテンの黒に合わせて、ブラックパールをあしらった栗皮色の革靴。

そして、頭にはふちから赤いスパンコールの列を吊るしたかさを被り、顔は白い布の真ん中に大きく黒い円を描いたものを額に巻いた鉢巻はちまきに縫い付けて顔の前に垂らした。

この布付き鉢巻は顔を隠したいという柊の要望を聞いて臨時でつけた。

こんな奇抜な格好がランウェイではなく、町中に出没したのなら、見る人から見れば”どこぞの神事(奇祭)の演者”とでも受け取れよう。

町の住人だけでなく、柊を追いかけてきた女性陣たちさえも立ち止まって呆然ぼうぜんと奇抜な柊を見る。

その近くに突発的に嗅覚の優れた女将さんが現れた。

近くを通った時に匂いを嗅ぐ。

柊に束の間の緊張が走る。

しかし、女将さんは首を傾げて背を向け、他所へと行った。

女将さんの嗅覚から免れた理由として、お風呂で入念に洗った以外にも、そもそも服が葵の兄弟が持参していたものだったので、服自体の匂いも違っていて、さらに香水も借りて自身に振りまくってかなり香水臭くなっていたのが功を奏した。

葵の兄弟の協力もあり、無事に柊はイーストポートのターミナルに到着することができたのだった。

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