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月桂樹の葉を編む  作者: 叶笑美
群像劇
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57/110

みんなの王子様

アラビアータに1泊した柊は早朝に出発をしようと考えていた。

何故なら、普通に出て行こうとすればまた女性に囲まれて、さらにその恋人なり旦那なりに怒られ今度こそボコボコにされるかもしれない。

柊も御曹司とは言え、腕の立つ剣豪。

全員まとめて叩っ斬ることはできるのだが、そんな刃傷にんじょう沙汰は望んではいない。

なので人目につく前にとっとと去ろうという魂胆だ。

太陽はまだ上がっておらず、空が白んできた頃、ひいらぎは外へ出ようとドアノブを回した。

しかし、ロックがかかっている。

「あれ?」

内側の施錠は解除済みだ。

おかしい。

まるで外から新たに施錠されたかのようだ・・・。

外鍵そとかぎされてる!?」

”施錠されてるみたい”ではなく”外からガッツリ施錠”されていた。

「え!?なんで!?昨日は外鍵なんて無かったのに!?」

何度もガチャガチャとノブを回す。

柊は完全に軟禁状態になっていた。

「誰か!誰かいませんか!?」

焦りからドアを叩いて大きな声を出す。

すると、欠伸あくびをしながら誰かが部屋に近づいて来た。

「ふわぁ〜ぁ・・・何ぃ?どしたの〜?」

「ここが開かないんです!外鍵がついていて!!」

女性の声で、ふわふわと夢見心地な半分寝ぼけたような声で話している。

「あははは!どしたの、その声?めっちゃ低いじゃん!なんか男の人みたい!」

そしてまた欠伸する。

「ついさっきまでみんないたんだよね。今からあたしもここで寝させてもらうの〜!」

「お願いします!開けてください!!」

「ん〜、ちょっと待ってね」と言って鍵をいじる音が聞こえる。

「あっれ〜?こんなの付いてたっけ〜?」などと言いながら開けてくれた。

「ありがとうございます!助かりました!!」

すると、外にいたのは柊が入店時に一目惚れを決め込んだお姉さん。

しばらくぼーっと突っ立って見ていたが、その内悲鳴を上げた。

「きゃーーーー!!!昨日の王子様!!」

まあ、おおむね合ってる。

王家では無いが。

その悲鳴にありとあらゆる場所から女性たちがドアを開ける音がする。

そしてこの店に駆け寄ってくる大量の足音が聞こえる。

何より、軟禁した張本人の女将さんは階段を駆け上がってくる。

その勇ましい様たるや獲物を狩ろうとする女豹めひょう、いや闘牛である。

「まずい!!」

柊は窓から飛び出し、屋根へとよじ登った。

その後をすぐに女将さんが勢いよく窓から飛び出し上半身が外へと突き出しながらも、柊を捕まえようと手を伸ばしていた。

「ひぃぃ!!」

怯えながらも女性たちが続々と集まる。

建物の下、四方八方は全て囲まれた。

「さぁ、逃げられないわよ〜!おいで、私の僕ちゃ〜ん!!」

急に作品のカテゴリーがサスペンスホラーまたはゾンビパニックと化した。

下からもうめき声のように「おいで〜、おいで〜」と聞こえる。

これはもうゾンビに囲まれた主人公だ。

「わ、私は行かなければならないのです!どうか、ここを通してください!!」

続々とブーイングが飛び交う。

中でも噛みつかれる勢いで吠えたのは女将さん。

「させないわよ!!あなたは一生ここにいるの。ここで全てのお世話をしてあげるわよ〜!もちろん、下の世話もね!!」

「えぇ〜・・・」と困っていると、女たちが怒り始める。

「女将さんだけずるい!みんなの王子様よ!!」

「そうよ!みんなのものよ!!」

女将さんにブーイングが飛び火した。

「じゃあこうしましょう!この王子様の子をみんなで産むのよ!!」

「賛成〜!!」

恐ろしい展開になってきた。

自分はただ婚約者を探しに出ただけだというのに・・・。

なんだこの絶対に踏み入れてはいけない町は?

時間が経つにつれ、どんどん老いも若きも女が増えてくる。

こちらを見上げて群がる様についあの名台詞を口に出す。

「はは・・・ぜ、絶景かな・・・絶景かな・・・」

ここは南禅寺の山門ではない。

石川五右衛門もとい、柊の目には涙が浮かんでいた。

そんなことをしていると、背後から”ガシャン”と音が聞こえた。

振り向くと、梯子はしごをかけられている。

さらに”ガシャン、ガシャン”と続く。

その下から続々と女性たちが登って来ていた。

「みんな!捕まえるのよ!!絶対に逃しちゃダメよ!!」

「王子様〜」「わたしたちの王子様〜」とうめき声のように言いながらむらがって登る様は芥川龍之介の蜘蛛の糸の如し!!

「わ、私は犍陀多かんだたではありません!」

勢いよく走って隣の屋根へ、隣の屋根へと移って行く。

「逃げたわ!!追えーーー!!!」

女将さんの声に女共が一斉に柊に向かう。

「ひぃぃぃ!!」

悲鳴を漏らしながら逃げ走っていると、柊の目の前に町の男たちが仁王立ちで横一列に並び、こちらを睨んでいた。

「よぉ、まだいたのか?」

「今から出ようとしておりました!お願いします!!ここを通してください!!」

すると、1人が半身を引いてあごを奥へと動かして先に進むように促した。

「行きな!・・・わかってるよ。女たちに追われてんだろ?」

「本当はしゃくだがな、ここの子孫が全員あんたの子どもになるくらいなら、俺たちはいくらでもここの女と戦ってやる!」

「み、みなさん・・・」

柊が感動していると、大量の足音が聞こえて来た。

「さ、行け!!」

「ここは任せろ!!」

町の筋骨隆々な勇ましい男たちは前屈みになって両手を構え、まるでラグビーなどのタックルの姿勢を取った。

「・・・恩に着ます!!」

柊は振り向かずにひたすら走った。

その背中では身を呈して自分を逃してくれた男たちが気合いを込めた雄叫びが聞こえてくる。

「ぅおおおおおおおおおおお!!!」

その勇姿を思い描きながら、柊は涙を飲んだ。

次の瞬間、また別種の声が聞こえる。

「ぎゃぁぁぁぁあああああ!!!」

「え?ウソ、負けた?」

思わず立ち止まって振り返った。

その奥からは変わらず、大量の足音と、うめき声に似た「王子様〜」という言葉が聞こえて来たのだった。

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