蜂vs葵&ディンブラ
3人で外に出て、空き家が特に多い場所付近に密集してトラップを仕掛けた。
そして、蜂を大量に誘き寄せる。
ディンブラは離れた場所から空を観察していた。
「だいたいの巣の方向はわかった!おじさん、そっちの準備もお願いします!!」
「わかった!ここのは任せろ!!」
「おい、本当にこれで行けんのか?」
振り向くと、葵は防護服を着て現れていた。
以前、蜂の駆除のために誰かが買った物が置きっぱなしになっていたので、それを拝借。
「う、うん!大丈夫だよ!お、おじさん、これすごくいいやつだよね!」
「あ、あぁ、たぶん・・・」
「不安だなぁ!!」
2人とも確信がなかった。
ディンブラに至っては防護服自体初めて見るのだ。
致し方ない。
不安気な葵にディンブラが地図を見せる。
「今、蜂が来る方向と地図を見比べて、大体の位置を割り出したよ!アシナガバチは地上から1.5m以下の低い所に巣をよく作るんだ!だけどここには空き家が多い!きっと雨風を避けられる軒下と考えれば・・・」
ディンブラも防護服を着て移動をした。
「やっぱりあった!!」
ディンブラの予想通り、古い家の軒下に蜂の巣があった。
縦長のスズメバチの巣と違い、横に広がりを見せる蓮型のアシナガバチの巣。
一つの軒下に3つもできていた。
「3つもあったのか!!」
「1つの巣にだいたい50匹くらい生まれるからね。この繁殖の数を見ていたら複数個あるだろうとは思っていたけど、普通なら縄張りがあるからこんなに隣接することなんてないはずなんだ!きっと犠牲の魔女が餌を与えていたから一定供給が確保されて固まってでも共存できたのかもしれない!!これを見て!!」
足元を指すので見ると、蜂の死骸がいくつかあった。
「犠牲の魔女がいなくなって餌取りの問題がでてきたからお互いに縄張り争いが始まったのかもしれない。それに、スズメバチに比べて圧倒的に攻撃性の低いアシナガバチがここまで威嚇してくるっていうのは、動物性の肉食に傾いた食生活の影響も考えられる!!」
それから呟くように言う。
「こんな悪戯に蜂の生態を崩すなんて許せない・・・」
ディンブラは葵に向き直った。
「葵くん、この大役、大変だけどお願い!!」
「ああ、わかった!!」
葵が動き出そうとしたら、続々とアシナガバチの大軍が戻って来た。
「そろそろトラップの容量がオーバーし始めたんだ!!急ごう!!」
「おう!」
さらに蜂の巣に近づいて行く。
葵の手には大きな麻袋が持たされていた。
巣に近寄ると、蜂たちが危機を察知し、”ブンブン”や”カチッカチッ”といった威嚇音を発する。
「葵くん、行ける?」
「任せとけ!俺は体内に入れた妖精のお陰で回復が早いし、他より丈夫だ!!」
『毒耐性がどれだけあるかは知らないけど』
なんと試したことがなかった!!
思えば過去にペッパー砂漠にて葵はそうめんから毒針の攻撃を受けていた!
しかも瀕死になっていた!
さらに運び込まれた先で今では相棒となっているディンブラにコテンパンに精神攻撃をされていた!!
だが、葵は自身の脳内からそんな事実は振り払う。
『大丈夫!瀕死になっただけで生きてるし!ディンブラは今は相棒だし・・・』
邪念がちょっと増えた。
だが、かぶりを振ってすぐに追い払う。
「俺は!やれる!!」
「葵!がんばれー!!」
ディンブラも相棒を必死に応援した。
ガンガンこちらに向かって飛んできては、お尻にある針をぶつけてくる。
蜂も巣や女王蜂を守るために必死である。
「負けるかぁぁぁあああ!!!」
葵は構わず突き進み、麻袋を広げて巣を丸ごと包み込んだらナタで軒との接着部分を切り落とした。
華麗なナタの一撃にディンブラも思わず拍手をする。
すぐに隣の2つの巣も切り落として袋の中に入れた。
巣の重みで袋が沈んだところを、素早く紐を引っ張り、口を閉じる。
「葵くん!こっち!!」
蜂の巣が入った麻袋の口にテープで蓋をして担いだ。
容赦無く暴れる蜂を背に、もうもうと立ち上る煙の方へと向かった。
「ディンブラ!これやばい!!破られそう!!先に行く!!」
「あ!うん!!」
さすがスピード特化の隠密部隊隊長。
普段平和の類義語のような花園で虫と戯れている男とは違い、重い蜂の巣を抱えながらも悠々と抜かした。
その俊足であっという間に煙の立つ場所へと来た。
「ここだ!!」
大きな木の足元にあるドラム缶に開けた穴から袋の紐を通す。
それを木の太い枝に頑丈にくくりつけた。
「よし、できた!魔王軍で散々やったロープの技術が活きるもんだな・・・」
葵は素早く木から降りると、その下に設置された縦長の窯に近くで炊いていた木を大きなスコップで運び込み、袋を燻す。
そこへディンブラもやっと追いついて来た。
「葵くん!手伝うよ!!」
「頼む!!」
ディンブラが1往復する間に葵は3往復する。
ここでも手際の良さに差が出る。
「葵くんすごいな・・・」
感心する間にも葵は運び込んでいた。
おじさんが予め炊いていた木を全て運び込み、しばらくドラム缶で蜂の巣を燻していた。
ある時、急に紐が切れて大きな音と共にドラム缶ごと下の窯に落ちた。
”ガシャン”
「うわぁ!!」
「紐が熱で切れたか!!」
あとは直接炎で焼かれていったが、もうほとんど弱っていたのか、蜂は出て来なかった。
残りの蜂たちも最初に作った誘引材でトラップに引っかけて捕まえ駆除していく。
時間はかかったものの、この村に蜂の脅威は無くなった。
「ありがとう!本当に、ありがとう!!」
「いえいえ!僕よりも彼の方ですよ!」
握手して感謝されるディンブラは葵を見た。
「イッテ!!」
防護服の下はかなり刺されたようで、手も腫れていた。
刺された場所に薬を塗っていたが、かなり痛そうだ。
「まあ、そうだけど・・・あれじゃあ握手はできんだろう」
「まあ、そうですね・・・」
ディンブラも苦笑いして見ていた。
「ここの村の英雄だよ、君たちは!」
「そんな、大したことじゃありませんよ!」
手を左右に振って謙遜するディンブラに、食い下がる。
「いいや!英雄だよ!しかもこの道全体のな!!そうだ!ワシが伝えて行こう!!君たちの武勇伝を!!」
「遠慮する!そんなことしないでくれ!」
強めに言う葵に続けてディンブラも付け加えた。
「そうですね。内密にしていただければありがたいです。僕たち、あまり目立つのが好きでは無くて・・・」
「そうか・・・でも、どうしてこの村を助けてくれたんだい?君たちは車なんだからそのまま行ってしまってもよかったというのに・・・」
その質問には自信満々にディンブラが答えた。
「僕たちの前にきた子たちは友達なんです!友達の後始末をしただけですよ!」
「ま、それを知ったのは、ただの成り行きなんだがな」
葵は自分の手に包帯を巻いていた。
「え!?そうなのかい!?あの魔女と関わりまくっている子たちの知り合いなのかい!!」
「まぁ・・・そうですね。僕たちもどうしてあんなにも魔女と関わっているのかわかりませんが・・・。あ、お礼と言っちゃなんですが、あの子たちを許してあげてもらえませんか?またここに来た際には良くしてあげてほしいのです」
「お、おぉ・・・まあ、君らの頼みならな、受け入れざるを得ないかな!」
「ありがとうございます!」
ディンブラは笑顔で返した。
こうして、村、もっというとウェストポートからメリリーシャに繋がる徒歩道の平和とパーティの名誉を守った葵とディンブラであった。
そしてこれは訓練を受け、特殊な体を持つ葵だからこそできた無茶であって、決して真似はしないで下さい。
蜂の巣を見つけたら専門家を頼りましょう。
これはディンブラとのお約束です。




