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月桂樹の葉を編む  作者: 叶笑美
越境
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39/110

本当の葵

葵は相手を拘束した。

通り過ぎたと思わせて倉庫に侵入し、油断したところを捕まえた。

そして尋問したが、相手が抵抗しなさすぎる。

おかしく思った葵はマントのフードを脱がすと、ただの人形だった。

舌打ちをして捨てる。

倉庫を去って行った。


家族やディンブラの元へ帰ると、みんなが心配して近づいて来た。

「葵くん!!」

「あれ?ディンブラ、来てたのか・・・」

どこか気の抜けた様子で帰ってきた。

「相手は?」

「逃したよ。逃げるのが上手い相手だが、足音がどこか素人じみている。だから俺も追い詰めたことに油断してしまった。最後まで気を抜いちゃいけないな・・・。きしめんがいたら怒られるところだった・・・」

どこかボーっとした感じがあるのは、葵なりにスイッチを切り替えているのだろう。

そこへ王林が母を連れてやって来た。

「葵ちゃん!!大丈夫?怪我は無い?」

「いえ・・・大丈夫です!」

母との会話で一気にいつもの覇気を取り戻す。

血がにじみ出す腕を心配そうに見る。

「葵ちゃん、もうやめて!お願いだから母さんと帰りましょう!!」

「いえ、そんなわけには・・・」

断ると葵にしがみついて懇願こんがんしだした。

「もうこれ以上葵ちゃんが危ない目に遭ってほしくないの!!母さんが一緒に帰るから、ね?」

「でも・・・僕にはやることが・・・」

「もう嫌なの!!葵ちゃんがおかしくなっていくのなんて見てられない!!こんなの葵ちゃんじゃない!!いつもの優しい葵ちゃんに戻って・・・お願い」

泣き崩れる母を受け止め、言葉に詰まっていると、ディンブラが口を出した。

「葵くんのお母さん!」

その口調は存外強くて、みんなの注目を集めた。

「さっき、やるべきことをやったら元の葵くんに戻るのかって聞かれた時に、僕はわからないと答えましたよね?」

「え?・・・えぇ」

「僕がそう答えたのは、今の葵くんも十分本当の葵くん自身の姿だからです!付き合いは浅いからみなさんの思う葵くんがどういうものかはわかりませんが、ここまでに色々な姿を見て来ました!知ってましたか?本当は葵くんは虫にだって興味があるんですよ!!」

「え?」と驚いて見上げた。

「あ・・・はい・・・。ディンブラに虫の魅力について教えていただきました。色んな図鑑も見たし、その中にはグラデーションのように配置されたフンコロガシや、綺麗な柄の蝶や蛾など美しいものも、生態についての面白さも様々教えていただきました。その時に・・・自分が見ないようにしていたというか、知ろうとしなかったのだと気付かされました」

母は黙って葵を見つめていた。

「いつでも親や兄弟にとっては幼い頃の姿を思い浮かべるのかもしれないけれど、葵くんは魔王軍やここまでで様々な経験を積んでいる。当然、家族の知らない顔だってあります。そういうところを見てあげて・・・というか、知ろうとしてあげてくれませんか?」

ディンブラに言われて今まで成長した葵を見ようとしなかったことに気付かされる。

しかし、それでも葵の腕を強く握って抵抗する。

そこへ、やっと高嶺が出て来た。

「母さん、兄さん。俺はこのディンブラの言ってることが正しいと思うよ」

ディンブラを擁護したことに家族が驚く。

当の葵さえ、目を丸くしていた。

「俺はさっきの母さんを身をていして護ったり、脇差で飛んできた矢を叩き落としたり、かなり驚いたけど、ただこれがここまでで積み上げて来た魔王軍四天王としての葵なんだなって思った」

高嶺が葵と向き合う。

「何かやらないといけないんだろ?俺たちからすぐに離れたがるのは、嫌いとかじゃなくて巻き込みたくないだけなんだろ?俺は葵を信じる」

その後、一つ笑って見せる。

「幼い頃の手のかかるイメージはそのままだけどな」

「高嶺兄さん・・・」

葵は一つ深く息を吸ってから力強く答えた。

「はい。僕には使命があります。魔王軍だって裏切ったのは事実です。しかし、誰かに魔王軍の基地を爆破されました。そのせいで多くの仲間の命が無残にも散った。僕はその敵討ちをしなければいけない。それに、今のように何者かもわからないような連中にいくらでも狙われる身となりました。ここに後始末をつけなければ、家族を危険にさらすことになる」

母の肩を持って向き合う。

「母さん、僕が旅に出ること、許してください!そして、今の僕自身を認めてください!!」

少し表情を緩めて微笑みかける。

「まだ・・・幼い時の頼りない僕に見えるかもしれませんが、信じていただけませんか?」

母は涙を流して抱きしめた。

それに優しく抱き返して答える。

「私の知らない葵ちゃんがいるのね・・・。いえ、今まで押し付けていたのかもしれないわね・・・ごめんなさい・・・・」

抱きしめたまま、母に首を横に振って答えた。

「必ず、決着をつけますので」

葵は家族と別れた。

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