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召喚被害者の日常は常識なんかじゃ語れない  作者: 狐のボタン
第八章

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竜魔王



ユウキSide




ティーの案内で歩きやすく整備された道を歩き、魔族領を進む。

魔法防壁を越えた途端、景色が一変した時は声も出なかった。国境の向こうからはどちらも同じ荒野にしか見えてなかったのに。

魔族領は緑溢れるきれいな場所だった。おそらく魔法防壁に領内が見えないよう何かしらの細工がしてあったんだろう。

まるでアルディエル母様が統治していた国のようにキレイで、あちこちにある畑では沢山の作物が実り、収穫され…果物のなる樹も並び、小さな子達までが楽しそうに収穫の手伝いをしてる。


「なによこれ…」

「信じられん…」

「ミナさん、シュージさん、どういう意味ですか?」

「あのね、私達が先代の魔王と戦った時からこちらの魔力濃度は高かったけど、土地は痩せてて畑も殆ど無くて…」

「ああ。どこまでも荒廃した大地が続いていた。しかも、定期的に調査に来ていた数ヶ月前までずっとそんな調子だった」

「アナタ!? いつ魔族領内へ忍び込んでいたの!」

「しまっ…!! はぁ…もう今更か。 ミナの父親に”異世界人の分際でエルフの集落に居たいのなら役に立て“と言われて動いていたんだ。ミナには何も話すなと厳命されていたしな…。集落を出た以上、もう従う必要もないだろうが…」

「…ごめんなさい」

「謝る必要はない。俺が自分で従うと決めた事だ。ミナと共にいたいからな」

「…もう」

いちゃいちゃするのやめてもらえないかな?状況わかってるのか、この二人。



はぁ…。 

姉ちゃん…。

数ヶ月で復興させたってのは本当だったんだな。しかも荒廃した土地をここまで…。

「ママは国を、そこに住む魔族を守ると誓ったから。その為にできることをしてたの。 噂に踊らされてた誰か達とは全然違うの」

痛いところをついてくる…。

反論も否定もできない。


「お姉ちゃん…」

「未亜のお姉ちゃんは凄いわね。さすがナツハの娘だわ」

「………」

こっちも相変わらずか…。両親と会話すらしないもんな未亜姉ちゃん。

それにしても…どうして未亜姉ちゃんの祖父母が調査をさせたんだ?

まさか捕まった国王と繋がってるとか…?


「ナツハとユウヤの娘かぁ。ねぇ未亜、どんな子なの?」

「………」

「なんで睨むのよ…」

この人、よく無神経に聞けるな…。

仮にも僕らは姉ちゃんを討った…。ティーもここにいるし必ず生きてると信じているけど、軽々しくその話題をふるか?

しかも、自身もあんな無礼な不意討ちをしておいて。相手が姉ちゃんじゃなかったらあの場で全滅しかねない行動だったのに。

魔王が姉ちゃんで、親友の娘だから問題にならないとでも思ってるのだろうか?



城までの道中は本当に平和で…。道沿いには定期的に魔道具が設置してあり、たぶん魔獣除けだと思う。

だから子供たちもあんな笑顔で過ごしてるんだな。

城下街の中もすごくキレイだった。確実に姉ちゃんが魔道具を配備したんだろうなってわかる。

僕らが喚ばれるような異世界では、こんなに活気があってキレイな場所はそう見ない。それこそアルディエル母様のところか、フィリアータの国々くらいだろう。



ただ、到着した城だけはとんでもない威圧感に包まれていた…。

門から城までは微動だにしない兵が完全武装で並び、少しでもおかしな動きをしたら殺される…そんな雰囲気。

僕なら勝てる相手だとは思うのだけど、とても手を出す気にはなれないくらいの威圧感。

もちろん戦うために来ている訳じゃないから、そんなつもりはないけど。

未亜姉ちゃんもその両親も震えてるくらいだから…。

…無理もないか。これだけのことを成し遂げた魔王を…姉ちゃんを僕は手にかけたんだから。


「ユウキ…?」

「大丈夫。スピネルは平気?」

「ん…。敵意はないから…」

…! 言われたら確かに。威圧感が凄くて勘違いしてたけど敵意は感じない。殺気とか、そういうのを…。

冷静にならないとな。こんな事にも気がつけないなんて。

この後どうなるかさえわからないのに…。判断力を鈍らせている場合じゃない。



先頭のティーが城の前に到着すると扉が開かれる。

「魔族領イノセントの魔王城へようこそ」

淡々とティーはそう言い、また僕らを案内する。


城の中も魔道具の明かりに照らされ、明るくキレイにされている。

唯一違和感があるのは、城内には兵士が一切いない事か。

客が来るならメイドとかの使用人は下がらせるのはわかるけど、兵くらいは置くのが普通だろう。

「城内は常に万全な監視体制がしかれてるの。不法侵入、窃盗…そういった不埒な事をしてもその場で取り押さえられるから。バカなこと考えないようにね」

僕の疑問に答えるように話してくれるティーはどこか得意げで。

確実に姉ちゃんだろうな、やったのは。多分城で働く人を守るため…。姉ちゃんならやる…。過剰に思えるくらいに。

そのくせいつも自分の事にだけは無頓着で無防備なんだよなぁ…。



しばらく歩いて到着したのはいかにもって感じの大きな扉。

「この先は謁見の間。言動に注意して。バカな事をしたら瞬きをするより早く死ぬよ?」

そう言うティーが見つめるのは未亜姉ちゃんの両親。

僕と未亜姉ちゃんに言ったわけじゃないのはわかる。

未亜姉ちゃんには悪いけど、僕もこの二人を信用してはいないから。




「ユウキ、がんばれ…」

「行ってくるよスピネル」

スピネルは巻き込めないからな。待っててくれた方がいい。


「魔王様ー到着しましたー」

ティーの声によって開かれた扉の先にはよーく見知った人が仁王立ちしていた…。真っ黒なドレスに、角と翼と尻尾を出した、ルナリアが。

「無実の魔王様に刃を向けた者がよくここへ顔を出せたわね?」

「リアちゃん…」

「未亜にはがっかりだわ! 当然ユウキにもね!」

「…ごめん…なさい…」

「私に謝罪なんていらないのよ!」

「もうよい。 今は”まだ“客人だぞ」

「わかったわ…」

ルナリアの背後から威圧感のある声が響く。よく知っている声が…。


「待たせるんじゃないわよ。早く魔王様の元へ進みなさい」

ルナリアはこういうの好きだからわかるけど…姉ちゃんまで…?


魔王座の前まで進み、高い位置にある大きな椅子に足を組んで座る人を見上げる。あちらは冷たい目でこちらを見下ろしてくるけど…。姉ちゃん…だよな?もう確信が持てない。


角があるのは前に見た時と同じだけど、以前は禍々しいという表現がピッタリの角だったのが、白銀に輝く神々しいと思えるようなきれいな角に変わってる。

でも何より違うのは、ルナリアのようなドラゴンハーフ姿になっている事。

腰辺りからは銀の翼が生え…大きな魔王座からはゆったりと垂れる尻尾。

漆黒のドレスが意味わからないくらい似合っていて…美しさが、全てが、恐ろしい…。

違う…。この人は僕の知ってる姉ちゃんじゃ…ない…。


「あの…アスカちゃんよね?ナツハとユウヤの娘の…。私はナツハの親友で、ミナって言うんだけど…」

「無礼者が! 竜魔王様の御前であるぞ! 跪け!!」

魔王の隣に立つ赤い髪の人の怒声が響き、全員がビクッとして慌てて跪いた。

この人、やりやがった…。ティーにも警告されたのに。


それにしても…りゅうまおう…?



「…何用だ?」

代表はミナさんがすると言っていたから任せてるけど大丈夫か?いきなりやらかしてくれたぞ?

「え、えーっと…ネ、ネヴァー王国、国王陛下から人族を代表して今回の侵略について謝罪の…」

「人族だけか…?」

「え…?」

「その謝罪は先の侵略戦争についてのものなのだろう?」

「ええ。 ですから人族を代表してネヴァー王国の国王陛下が…」

「確認だ、ロアール。エルフと人族とは一括なのか?」

「いえ。確かに共存はしておりますし、血の混ざったものも多くおりますが、厳密には別種族です。エルフの血の入ったものは皆エルフと呼ばれますね」

「そうだな。ではおかしいではないか」

「ええ。おかしいですね」

二人はなんの話をしてる…?


「愚かなお前達にも分かるように一つ一つ説明してやろう。 先ず一つ、些細なことではある…が、我が侵略者であるお前達に猶予を与えるための通告をしていた最中、無礼にも不意打ちを仕掛けたお前。 お前はなんだ? 人か?それとも最低限の礼儀すら知らぬ獣か?」

「……っ! そんな言い方!」

姉ちゃん、未亜姉ちゃんの母親に言い過ぎ。でも言われても仕方がないよなぁアレは。


「竜魔王様、今ここで無礼討ちに致しますか?その後、国境に晒しても足りぬかと…。一族まとめて…」

「落ち着けロアール。今はまだ一応客人だ、控えろ」

「はっ…。 貴様、竜魔王様の御質問にお答えしろ!」

「……私はハーフエルフなのでエルフです…」

「二つ。魔法を使えるのはエルフのみ。侵略するために集められた兵の中にエルフも当然いただろう? それに我が止めた先の戦闘の最中にもそちらの軍から魔法は放たれていた?違うか?」

「え、ええ…」

「三つ。この侵略戦争を裏で糸を引いていた者がいるな?」

「それはセンティアの国王と貴族ですから人族が!」

「…それは表の話だ。 その手紙、開けて読んでみるといい。お前たちの知らぬ答えが書かれている筈だ」

どういう事だ?


渡すべき相手に見てみろと言われたら見るしかない。

ミナさんが手紙を開いて読みながら真っ青になりカタカタと震えだした。

「見せてください!」

震えてるミナさんは渡してくれないから奪い取って読む。


「ユウキくん?」

「未亜姉ちゃんも一緒に」

二人で内容を読んでいったら、魔王の言っている意味がよくわかった。

そして色々と辻褄が合ったのも事実。



「わかったか? さてどうするか。人族はセンティアを明け渡すそうだ。だが、既にその土地を混乱に乗じて乗っ取った者がいる。 それは誰か……。この侵略戦争すべての元凶、エルフ共だ!!」

部屋がビリビリと声だけで揺れる…。これが竜魔王…。

かつて戦った魔王でもここまでの相手がいただろうか…?いや、いない。もしいたのなら僕は生きていない…。



「人族は己らの不始末をこちらへ押し付けるそうだ。 国一つ落とすなど一刻もあれば済む。が…侵略者共の掌で踊らされるのは気に食わん。 おかしいだろう? こちらは被害者だ。何故我らがお前達の後始末をせねばならん? 仮にその始末をしたとして、姑息なお前達がこちらを侵略者だとの烙印を押さぬと言い切れるか?」

言い切れないな。この手紙さえ無かったことにすればそれで終わる。

そして魔族と魔王を悪に仕立て上げることも容易い…。


「人族とエルフ、どちらもが真実を明るみにし、共に謝罪するというのならまだ話はわかる。こちらも歩み寄る用意はあった。だがどうだ? その手紙を読んでお前達はどう思う?」

「申し訳…ありません。先の戦場での無礼な振る舞いも、両親の企みも…」

「お前一人の謝罪になんの意味がある? お前はエルフの代表か?それなりの権限を持っているのか?」

「ありません…」

「じゃあどうする? 我らに己らの不始末を押し付けるのか?」

「いいえ! 時間をください! 必ず、元凶をここへ連行してきます」

「出来るのか? 先にも言ったように我らが手を貸せばどのような言いがかりをつけられるかもわからんからな。手は貸せんぞ」

「わかっています! 身内の不始末の責任は私が取ります! 私の処分はその後にお願いします…」

「殺すなよ?必ず生け捕りにしてこい。理由は言わずともわかるな?」

「はい…」

やっとミナさんも立場を弁えたらしい。これこそ姉ちゃんの温情な気もするけどね。

あの人はやっぱり姉ちゃんだ…。大丈夫。姿以外は何も変わってない。多分…。



「お前とお前は下がれ。 ロアール。例のものを渡してから帰らせろ」

「はっ!」

竜魔王はミナさんとシュージさんだけを下がらせた。


え…。なんで僕と未亜姉ちゃんは残されたの!?










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