朝帰り
ん…あれ…なんか懐かしい天井だ…。 ここどこだっけ。 (師匠の部屋ー!)
そうだった。久しぶりだし、何となく一緒に居たくて…師匠に抱き枕にされるがまま寝たんだ。
「ア、アスカ…おはよう」
「師匠、おはようございます」
なんか師匠の様子が?
ベッドの上に正座して固まってる?しかも真っ赤な顔して…。こんな師匠、見た事ないのだけど。
「師匠どうかしました?」
「ん?いや…すまん…記憶がな? は、初めての夜なのにすまん!」
土下座のように頭を下げる師匠は一体何の話をしてるんだろう。こんな事、日常茶飯事だったじゃない。
酔ってた時の記憶がないのも毎度だし。
いつもなら、私が起きるなり訓練場へ引きずって行ってたけど。
起きるまで待ってくれてたのだけは優しさなんだろうな。
「こんな事、いつもだったじゃないですか」
「いや…ん? いつもこんな事してたか?」
「…酷いです師匠。忘れたんですか…?」
「いや…さすがに一線は越えてなかったはずだが…」
ん?どういう事だ…。 (ママ、格好…)
え?
見下ろすと…あられもない自分の姿…
「いやぁぁぁぁぁぁ!!」
「待て待て! 叫ぶやつがあるか! こんな事がメリアにバレたら洒落にならん!」
師匠に口を塞がれる。
「むーー! んーーー!」
「落ち着け、頼むから…な?」
頷くしかない私。
「いいか?手を離すから叫ぶなよ?」
頷く。
「はぁ…はぁ…。師匠! 何したんですか!!」
「いや…すまん…記憶がな?責任は取る…」
取り敢えず現状の確認。
師匠と一晩を明かした。これは毎度のこと。
前と違うのは私の性別と、今の格好…。なんで私半裸なの?
上半身の服がはだけてる…というかもう脱げてる。 (酔って寝てた師匠が甘えてスリスリして、ママを脱がせた…師匠も起きるまでは裸だったの)
はい? いや…甘えてくるのは毎度の事。起きるのは必ず師匠が先だったからそっちは知らないけど。
それだけ? (毎度なの…?それ以上は何もなかったのー!)
なんだ…それなら普段通りじゃない。脱がされたのは初めてだけど。 (…どんな日常)
酔った師匠ってやたら甘えたがって、スリついてくるんだよ。 (男の子の時のママはよく耐えたの)
え?それって師匠にそういう気を起こさなかったからってこと? (そう)
師匠にそんな事できる訳が無いでしょう! お世話になってるし、何より怖い…。 (ぶふっ)
そこ、笑うな。 (だって…男の子ママがヘタレだった!)
ヘタレとかゆーな。それに…そういうことは本当に好きな人と、でしょ?酔ってて甘えてくるだけの師匠にそんな事できないよ。 (真面目かー)
つまんなさそうに言わないで。
それに…普段はスキもなく、傍若無人な師匠が私にだけ無防備な姿を見せてくれてるのに、その信頼を裏切るような事、出来ないよ…。 (ママは優しい…)
「なぁ? アスカ、怒ってるか?」
「いえ、さすがにびっくりしましたが…いつも通りじゃないですか」
「怒ってないならいいんだ」
横目でチラチラと私を見てる師匠から何となく身体を隠す。
「師匠、それとってもらえます?」
正座してる師匠の側に私の服とかが散らばってる。
「あ、あぁ…ってこれ、おまっ!」
広げないで!
ひったくって取り返す。
「師匠、あっち向いててください!」
「すまん…」
酔ってたくせに器用に脱がしたものだよ…。私もよく起きなかったな。 (安心して寝てたみたいだから)
そっか…。
師匠から取り返した下着をつけて、シエル作の上着をしっかりと着る。
「もういいですよ師匠」
「そうか…」
師匠が未だ挙動不審なんだけど大丈夫かな。 (大丈夫じゃないのはママのこれから…)
え? (未亜、リア、ティアが朝帰りのママを鬼の形相で待ち構えてるの)
……ティーが説明をしてくれてたりは…? (したけど、ママから直接聞かなきゃ納得しないって)
部屋に戻りたくねぇ…。 (口調!)
ごめん。 というか、みんなは何処へ泊まったの? (皇帝陛下が用意してくれた豪華なお部屋ー!)
そっか…自分の事ばかりでみんなの事考えてなかったよ…ごめんね。 (たまにはママも羽を伸ばすといいの!)
ありがとうね。そう言ってもらえると嬉しいよ。
「アスカ、大丈夫か? その…何処か…痛かったりとか…」
「いえ?慣れてますし…」
「…はぁ!? お前まさかそんな爛れたセイカツしてるのか!!」
「なんの話ですか! 師匠に寝技キメられたり、抱き枕にされるのなんていつもの事だったでしょう!」
「あぁ、そういう事か、焦ったぞバカ弟子め」
悪いの私!?
うちの子達に早めに説明しないとなぁ…
「すみません、師匠。私そろそろ家族のところへ戻らないと…」
「あぁ、そうだな… うん。行ってやれ」
「はい。 師匠もあちこち乱れてますからちゃんとしてくださいね?」
「っ! わかっている!」
髪もボサボサだし、服もしわくちゃだからね…。団長としての威厳に関わる。 (こうして誤解は膨らんでいくのだー)
何がよ…。 (べっつにぃー)
それよりも…私はこれからどうなるのだろう。 (鬼退治!)
いや退治したらダメでしょう…。 (オトモの犬ならいる!)
あの子フェンリルな? (もうどっちでもいいの。骨ガムを常にマジックバッグに入れて持ち歩いてるし)
また買い足さなきゃかな…。
そのうちペット同伴可能なペットショップへ一緒に行くかなぁ。
そんな事を考えながら師匠の部屋を出て廊下を歩いてたら、メリアさんと遭遇。 (…!!)
「アスカ様、こんな朝早くから…どちらへ?」
「いえ、部屋へ戻ろうかと…」
「戻る…?」
あっ…しまった、借りた部屋ってどこ? いつも話をしたりしてたのはただの客間で、宿泊設備は無いよね…。
「すみません、メリアさん。うちの家族達がお借りしてる部屋ってどちらですか?」
「それなら、私も丁度そちらへ向かうところだったのでご案内します」
「ありがとうございます」
「いえ。 ん…? …ちょっと待ってください、アスカ様…」
「はい?」
「どうしてアスカ様は宿泊している部屋をご存知ないのですか?」
「それは、私は昨日師匠と…」
ってこれ言わない方がいいかな? (手遅れー)
えっ…。
「アリッサ……。すみませんアスカ様、私は少し用事ができましたのでこれで失礼致しますね」
「いや待って…メリアさん!」
「待てません!」
あぁ…行っちゃった。ごめんなさい師匠。私が迂闊だったせいで…。
まぁでもこれが毎度の事だったのはメリアさんも知ってるはずだし。大丈夫よね。 (……)
結局部屋がわからない…。 (任せてー。ティーが案内する! 鬼の巣へ…)
お願いするよ。響きがとっても不穏だけど…。
ティーに案内してもらった客間へ入るなり、三人の鬼…いや、未亜達にめちゃくちゃ怒られて、何度も何度も同じ説明をさせられる事になった。
「本当に何もなかったの?お姉ちゃん!」
「何度も言うけど、酔った師匠に抱き枕にされてただけだから! みんなも私の事、抱き枕にするよね?」
「そうだけど…黙って朝帰りなんて二度と許さないわよ!」
「本当だよー心配したんだから。まぁアスカに限ってそんな事にはならないよねー」
「お姉様は大人になったのかと思ったの…」
「主様は大人の風格!」
大人ってなんだ…。 (難しい問題なの)
「だからティーが言ったのにー。ママは久しぶりに師匠とのんびりしてるだけって」
「はぁ…。起きてお姉ちゃんがいなかった時はびっくりしたよ…夜も待ってたのに中々帰ってこないし。待ちくたびれていつの間にか寝ちゃってた…」
「それはごめんね、何も言っていかなかった私のせいだから」
「全くよ! でも言ったからって朝帰りはもうダメよ! いい?」
「…わかったから」
「まぁまぁ…何もなかったならいいじゃない。リアもこういう事はおおめに見るくらいの余裕が必要だよ?これからのことを考えたら。ね?」
「ねえ様…。 はぁ〜そうね…まだ納得はいかないけど。 どうしたって独り占めは無理そうだし」
「「それは許さないから!!」」
「わかってるわよ…」
そろそろ私は正座から開放してほしいなぁ…。
「………!!!」
「…………!!!」
「なんか騒がしくないかしら?」
「うん…皇帝陛下の声?」
「後はママの師匠ー!」
「アリッサ! 待ちなさい!」
「待つか!! 不可抗力とはいえ、やってしまった事は取り消せないんだ!!」
「序列を無視して! 許されると思ってるのですか!!」
「だから不可抗力だと言ってるだろう!」
これって話しちゃった私のせい? (2割くらい?)
後の8割は? (お酒に弱くて記憶飛ばした師匠?)
それなら仕方ないかな?
これに懲りてお酒を控えてくれたりは…しないだろうなぁ。




