師弟の会話
戴冠式後の身内だけのパーティーも終わり、師匠に着替えて訓練場へ来いと言われた。
嫌な予感しかしないけど、拒否もできない。まぁするつもりもないけど…。
脱いだドレスは、一応クリーンをかけてメイドさんへ渡しておいた。
懐かしい訓練場。ここで半年程か…師匠にボッコボコにされつつ鍛えられたんだっけ。
後半は私が力だけは加減する形にはなってたけど、それでも敵わない物は沢山あった。
技術、勘、経験、咄嗟の判断力。応用力。それら全てにおいて勝てる気はしなかった。
スキルのおかげで対等に渡りあえていたとはしても…。
卒業試験だって単なる力の差で勝てただけなのは私が一番理解してる。
当時も今もこれからも…私にとって師匠は師匠であり、何も変わらない。
師匠が教えてくれたあの言葉、あれが私の始まりである以上、私は師匠を越えることは出来ないのだから。
「きたか…」
「はい」
訓練場の真ん中で左右の腰に剣を差して立っている姿はあの頃と変わらず、懐かしくさえ感じる。
「手加減無しで行くからな。私に今のお前を魅せてくれ」
「わかりました」
愛用の一振りを抜いた師匠は、魔力を自身と剣に纏わせて、凄まじい速さで剣戟を繰り出す。
訓練開始直後の私は、とてもじゃないけど目で追えなくて、刃引きされた剣で何度も何度も叩きのめされた訳だけど…。
今なら見える!
私がストレージから出したのは聖剣。魔神を倒したその剣。
確か魔神の幹部クラスが持ってて、倒して手に入れたんだっけ?その辺は記憶が怪しいな…。
訓練で使ってた剣より遥かに魔力効率がいいから気をつけないと。
魔力を纏わせた聖剣はボゥっと光り、師匠の剣戟を受け止める。
ガギギッ!
相変わらず重たい師匠の剣は受け止めて尚そこから重さを増す。
「ほう…鈍ってはいないようだな? 魔法での守りに慣れすぎてるかと心配したぞ」
「一応、剣だけの戦いも最近しましたから」
会話しながらも師匠からの剣戟は止まる事はなく続く。
「なら、こっちはどうだ?」
剣を持っていない空いた片手で、至近距離から魔法を相手に直接叩き込む、師匠の鬼畜技。
何とか剣戟を止める事ができるようになった時の私は何度これにやられたか…。
「あれだけ食らってれば同じことができるようになりますよ!」
師匠が炎なら私は氷。それを直接師匠の魔法へぶつける。
相反する属性はぶつかった事で弾ける。
衝撃でお互い距離を取ることになったけど、師匠が止まるはずがない。
弾けた魔法の霧の中から当然追い打ちが来る。炎魔法の乱射…。
師匠は炎の魔法が一番得意なのは私と反対。
私が使えるようになる迄に一番時間がかかったのが炎だった。
今思うと師匠から、ありとあらゆる炎魔法をくらい過ぎて苦手意識があったのかもしれない。
師匠のせいじゃん…
私は飛んでくる無数の魔法を魔法防壁では無く、直接聖剣で斬り霧散させる。
師匠は魔法防壁は使わない。使えるけど使わない。
守りに入ることなんて無い人だから。
攻撃が最大の防御だ! を地で行くのが師匠。
なら私も使わないのが礼儀だろう。
これは不器用な師匠なりの”会話“だから。ちゃんと返事をしなくては失礼だ。
「いい判断だな」
魔法が途切れた直後、もう一振りの剣も抜き放ち、二刀流に構えを変え、斬り込んできた師匠は更に攻撃速度が増す。
私も魔剣を取り出して応じる。
「いいなぁ…。いいぞ。答えてくれ」
嬉しそうな師匠は舞うように二刀を振り回す。
私の二刀は師匠の剣とぶつかると火花を散らし、その度に師匠の嬉しそうな顔が火花に照らされる。
それを見て私も嬉しくなって、速度を増していく。
「いいなぁ! これはいい! きれいだなぁ?」
「はい!」
どれくらい斬り結んだか…百?二百?もっとかも。
「アスカ、あれを見せてくれ」
「またケガしますよ?」
「構わん…魅せて欲しいんだ。唯一私がダメージを受けたアレを!」
チラッと確認したら私の贈った指輪はつけてくれてる。
それなら…。
当時の私が全力で使った魔法剣。
それを再現する。あの時よりは多少の魔力を乗せて…。
氷を纏った聖剣は蒼白く輝き、氷の刃は聖剣の何倍ものサイズへ。
当時より更に大きくなった刃からでる冷気は周囲の空気が冷えるほど。
「いいぞ! それだ!」
それを振り抜くっ! 横薙に一閃…
炎を纏わせた師匠の二刀はそれを受け止める。 が、そのまま吹き飛び訓練場の壁へ激突。
当時、師匠はこれで訓練場の壁に刺さり、怪我をした。
治癒師の力も借りずに、3日もせず完全回復して復帰したのは師匠だからだろうな…。あの人の回復力おかしいんだって。
それで責任とれーだもんなぁ。 いや、待って…さっき師匠なんて言った?
唯一私がダメージを受けたアレ?
マジか…。それは確かに少し責任を感じてしまうかも。
無敗の師匠に黒星を付けてしまった訳だし…。
「はぁ…アスカ、テメェ加減しやがったな?」
壁から這い出てきた師匠は、私の送った魔道具のお陰か無傷。よかった…。
「すみません。全力で魔力注いだらこんな事になりますので…」
真上に向けた聖剣に全力で魔力を流す。
氷の刃は見えない高さまで伸びる。刀身の身幅は数メートル…。これ振り回したら…。ね?
「…マジかよ…。確かにそれは私だけじゃ済まんな。正しい判断だ。こうして魅せてくれたし、それで良しとするか」
「ありがとうございます」
「強くなったな…」
「いえ…まだ師匠に敵わないことばかりですよ…」
「嫌味か?生意気になりやがって」
「違いますよ! 私にとって師匠は特別で…絶対に敵わない人なんです」
「そうか…」
「はいっ!」
それから師匠は私を連れていつもの場所へ。
魔剣士団の憩いの場。専用の食堂。
訓練後はいつもここだったなぁ。 ってことは…。
師匠、お気に入りの一番奥の角席へ。
大量のお酒を部下に持ってこさせると、これまたいつもの様に…。
いや、ここは私がやるべきだろうね。
「師匠、私が注ぎます」
「いいのか?前は嫌がってなかったか?」
「あの時は毎日でしたからね。さすがに嫌にもなりますよ」
師匠のコップへお酒を注ぐ。
一気に飲み干した師匠はツマミを食べながらおかわりの催促。
注ぎ足すと今度はゆっくりと…。
師匠なりのカッコいい飲み方らしいのだけど、今になっても全くわからん…。
しかもコレ、めっちゃアルコール低いからね。地球で言うなら、父さんの飲むビールより低い。
量を飲みたいからなのか、アルコールに弱いからなのか…。両方だろうなぁ。
それでも2、3杯も飲めば出来上がる。
そして大量に持ってこられた酒瓶は、また部下の人達が下げてくれる。
飲めないのに大量に用意させるのはいつもの事。
私もツマミだけは食べつつお茶を飲む。
「なぁ〜?あすかよぉ ヒッ わらしは…2年もまったんらぞー?」
「すみません…忘れられてても仕方ないくらいですよね…」
「あぁ?わらしがおまえをわすれ… ヒッ るわけないらろ!」
「出来の悪い弟子だからですか?心配でしたか?」
「そうらなぁ… 甘すぎるお前は心配らなぁ」
そう言って抱きついてくる師匠はあの頃と変わらない。
相変わらずの馬鹿力。これで何度締め落とされたか…。
「また、おまえはいなくなるろか?」
「そうですね…でもまた会いにきますから」
「れったいか? やくそくか?」
「はい。私も師匠に会いたいですから」
「にゃははーそうかぁ。あすかぁ…あすかぁ…」
「ちょ…師匠それは…ふにゃぁ!! 前と違うからそれはだめぇ!」
「ふにゅー…すぅ…むにゃ…」
「はぁ…はぁ…油断したっ。前と違うの忘れてたよ…」 (ママへいき?)
何とかね。ありがとうティー。 (んー?)
師匠と二人にしてくれて。 (えっ…あっーうん!)
歯切れ悪いね? (仕合いはみんなで見てたから…)
あぁ。それは知ってるよー。 (バレてた!)
それはね?みんな心配してくれたんでしょ? (うん…ママが真剣な顔して一人で出てったから)
師匠からの呼び出しだからね。 (仕合い後はみんな部屋へ戻ったよ)
うん。だからありがとう。 (のんびりできてる?)
まぁまぁかな?飲んで寝ちゃったし…。 (お酒弱い?)
それはもう。でも酔ってても不意打ちを許さない位には反応するよ。 (何したの?)
いや…あまりに酔って絡まれるから逃げようとしただけよ。 (逃走さえ許さないスタイル)
そうだね。そろそろ師匠を部屋へ送ってくるね。 (はーい!)
師匠を抱き上げて、城内の魔剣士団の宿舎、その団長室へ。
魔剣士団の人達から懐かしい光景だと言われてなんか恥ずかしい。
「そして相変わらずのグッチャグチャ…」
師匠の部屋を拡散タイプの魔力ドームで覆い、仕分けしつつ整頓し、クリーンもかける。
あの頃にもこれが出来てたら楽だったなぁ。
師匠をベッドへ寝かす。
「あすかぁ…」
「師匠、ゆっくり休んでください」
しがみつかれる手を今なら引きはがせるだけの力はある。
でも…なんとなくそれをしたくない気がして…。
師匠に抱き枕にされるがまま私も一緒に眠った。
久しぶりだしいいよね…。




