言葉の力
戴冠式の暫く後、メイドさんが控室へ呼びに来てくれて、知らない人のいない、私達だけ参加のパーティーをメリアさんが開いてくれた。
「アスカ様…また助けていただきありがとうございます」
「ご無事で何よりです、陛下」
「今まで通り呼んでくださらなきゃ嫌です! なんだか距離を感じてしまいます…」
「わかりました、メリアさん」
「はい!」
正式に戴冠式の終わった皇帝陛下にいいのかなって…不安になるけど。
なんにせよ、儀式も無事に終われて良かった。
一応確認だけはしておきたいから聞いておかないと…
「捕まえた人に間違いはありませんでしたか?」
「ええ、暗部やアリッサ達の今までの調べとも合致しましたし、討ち漏らしもありませんでした」
「それはよかったです」
「でも…潜んでいた者まですべて間違いなく見つけられたのですね。アリッサも驚いてましたよ」
「私だけじゃなく召喚獣のキャンディのおかげなんです」
「今はいらっしゃらないのですか?」
「あの子、食事はしませんし、こういう場は苦手で…。すみません」
パーティーって聞いた途端自分で還っちゃったからね。
「そうですか…。一言お礼を申し上げたかったのですが」
「伝えておきます」
「ええ…お願いします」
メリアさんはユウキにも挨拶してくると言ってモリモリ食べてるユウキのところへ向かった。
うちの子達はティアねえ様が見てくれてて、食事を楽しんでるから大丈夫そうね…。 (ティーも見てるの!)
ありがとうティー。
今回、色々と恐怖体験?のあったシエルも今はレウィと一緒にいて元気にしてる。
あ…噂をすれば! 逆に脅かしてみようか。 (仕返し!)
うん。やられっぱなしなのもね。
「シャーラ、どうかした?」
振り返って、声をかける。
「うわっ…えっ…嘘でしょ。なんで…」
「”視えて”るからね。私も昔のままじゃないから」 (ママの勝ちぃ!)
「でもこの前は…」
「単に探索を切ってただけ。私は一般人だし」
「…一般人が暗殺者集団を一網打尽にする訳が無いでしょう!」
「そう言われても…。陛下の安全が最優先だからね。 もしかして潜んでた中にシャーラの仲間もいた?」
「うん。私の部下。 でも暗殺者を全部は見つけられてなくて、私も見のがしてた…ありがとう陛下を守ってくれて」
「いいよ。私もたくさんお世話になった人だもの」
キャンディはしっかりと敵だけを判別してくれたんだ。流石だよ…。 (なかなかやるの!)
うん。最近は前より素直になってくれた気がするしね。 (ママのハグ効果はつよい…)
シャーラはまた姿を消すとユウキの背後へ回った。そういう事するから怖がられるって学習してほしいな。
師匠は……いないか。 多分忙しいよね…。
「アスカ様、お疲れ様ですわ」
「聖女様も儀式の進行お疲れ様でした」
「むー」
「イアリスさん…ごめんなさい。つい…」
「ついってなんですか! 3年も寝食を共にしたと言うのに…」
「それでも、立派な肩書を持った方ですから。 陛下…メリアさんにも先程叱られたんですけどね」
「私は私です。肩書などは後からついたものですのに…」
「そうですね。イアリスさんはあの頃と変わらない、優しいままです」
「ええ。ふふふふ…そうですとも。それにしても見事な手際でしたね…惚れ惚れしました。私の前に出て、庇って下さった時はもう…ふふふふふふ」 (ひぃ……)
はっ、シエルは…!? (離れてるから大丈夫!!)
よかった…。
あら、メリアさんも戻ってきたね。聖女様に挨拶かな?
「聖女様、此度は儀式を執り行って頂きありがとうございました」
「いえ…皇帝陛下。私の務めですのでお気になさる必要はありませんわ」
「そうですね…ふふっ」
「ええ…そうですとも。ふふふふふ」
な、何だろう、この見えない火花が散ってる感じは… (バッチバチ!)
「陛下にしては珍しく、シンプルで素敵なネックレスですわね?」
「ええ…大切な方から贈られた、私の宝物ですから」
「そ、そう。良かったですわね」
あぁ。私の贈ったネックレス、あのまま着けてくれてたんだ。 (戴冠式でもつけてたの)
身を守れるからその方がいいけどね。ましてや戴冠式を囮にした訳だし。
万が一もあったから先に渡せたのは良かったのかもしれない。
「………」
「………」
それはいいのだけど…。会話は無いのに、なにか言い合いをしてる様な凄い圧がお二人から…。
なんか怖い…。誰か助けてほしい。
「遅れてすまないな!」
「師匠!」
良かった…。来てくれた。
「アスカ、本当に助かったぞ。これで国内のゴミ掃除もほぼ終了だ」
「師匠のお役に立てましたか?」
「ああ! 当然だろう。 それはいいんだが…なぁ?あれはなんだ?」
「わかりません…お二人とも笑顔の筈なのに怖いんです…」
「お前、何かしたんだろ?」
「ええっ! お話をしていただけですが…」
他には何もしてないよね?
師匠は陛下に報告があるからそのついでに止めてくれるらしい。
私は少し離れて成り行きを見守る。メイドさんが渡してくれた飲み物を飲みながら…。
あ、これ美味しい! (どれー?)
メイドさんが配ってるよー。 (ママ、それお酒じゃない?)
大丈夫だよ。飲む前に確認した。 (ならいいのー)
「陛下、すまないが報告だ。先程待機していた部下が関係屋敷へ一斉摘発に入った。これで一網打尽だ。暗部も動いてるから逃げられる事もない」
「ありがとうございます、アリッサ。ようやくこれで落ち着いて国の立て直しに入れますね」
「ああ。アスカ達には本当に感謝だな?」
「それはもう…私がすべてを捧げて御礼をする所存です」
「あぁ?まだ言ってるのか…。 ちっ、流石に序列では勝てんか…」
「なら引きますか?」
「有り得んな」
「なら、我慢してください」
「わかっている! しかしな?」
「はい? はっ…えっ、それ…まさか!!」
「いやー。一番最初に貰ったのは私だった様だなぁ?」
「なんですか?陛下…アリッサ様はなにを?」
「イアリス、アリッサをよーく見てみなさい。あのこれみよがしに見せてる左手を…」
「はい? っ! まさかっ!」
「ええ…。あの勝ち誇った顔、間違いなさそうです…」
「そんな…」
師匠、報告に時間かかってるなぁ…。事が事だから無理もないか。
シャーラの部下の隠密部隊?いや、暗部だっけ…も動いてたみたいだし。国内の大掃除もこれでおしまいかな。
「勇者殿、少しいいか?」
「はい?」
先代様…。
「此度は我が国と民、そして我が娘を守ってくれた事、心からお礼申し上げる」
「いえ…最初、勇者になったのは成り行きだったんですけどね。それでも…守れた物があったのなら良かったです」
「あぁ…勿論だ。 それと一つ確認したいのだがいいか?」
「はい。答えられる事でしたら」
「治療をしてもらった時にオレの鑑定をしたというのは間違いないか?」
「はい。すみません…詳細がわからないと的確な治癒ができませんから…」
「では気がついているな?」
「…? ステータスの低下ですか?」
「いや、称号だ」
皇帝のか!! (これマズイ?)
かも…。知ったからには生かしておけない…とかないよね? (さすがにそれは…)
「我が国では鑑定の扱える者はいなくてな…だからこそあの宝具がある訳なのだが…」
あの石版の魔道具ね…。 (ママがぶっ壊したポンコツ!)
直したから!!
「この事を知る者は代々皇帝のみだ。称号の存在は知っていても、受け継がれていくものだと知るものはいない」
「………」
「他言無用で頼む…」
えっ…。それだけ? (無茶なこと言うかと…)
「勿論です。私も何か確信があったわけでもありませんし…」
「そうか…。アレはな…本来、戴冠式の時に受け継がれる物なのだ。しかし…今回は知らぬ間になくなっていた。おそらく既に娘が持っているのだろう?」
「……」
「まぁいい。あの称号には力がある。 そうだな…勇者殿が持つと言う”勇者“という称号に近いかもしれん」
「成長速度が早くなったりしたような?」
「そうだ。 言葉に力が宿る。命令として発した言葉にな」
何それ怖い。言霊? (跪け! みたいな?)
その程度ならいいけど…。
「勇者殿は、娘の言葉に気をつけたほうがいいかもしれんな?まぁ、アイツもバカではない。称号が自ら選んだ程だ。乱用などせんだろう…」
メリアさんって優しいから大丈夫よね? (ママ逃げて! 超逃げて!)
えっ…なんで!?
「良い事をお聞きしましたわ父上… なぜもっと早く教えて下さらなかったのですか!」
「はっ、しまっ…。 いや…何れは話す事か。 だが乱用するなよ?信用を失うぞ!」
「しませんわ、そんな事! 私が願うのは一つだけ…」 (ママ逃げてー!)
どういう事? というか何処へ? (ここではない何処か!)
そんな曖昧な…。
「この国の復興、そして発展と、この先永久に続く平和を…」 (あれ!?)
「おぉ…さすが我が娘。よく言った!」
「その為にはアスカ様の御力が必要です!」 (油断させてきたぁーー!)
「おい、まさかっメリア?」
「アスカ様、命令です…私と結婚してください」
「え?それは無理ですけど…」 (あれっ?)
「えっ…あら?」
「メリア、お前…皇帝に就いて真っ先にする命令がそれか!?しかも効いていないだと?」
何?どういう事? (命令でママを手に入れようとしたけど、ママには効かなかったの)
そこまでしてまだ勇者が必要なの!? (そっち!?)
「あの、メリアさん。私はまだ結婚できる年齢ではないですし、そもそも結婚する気はありません」
「いえ、こちらでの成人は15なので大丈夫です。…ってその気がない!?」
「はい。これからも勇者の力が必要と言う事でしたら、ご協力は惜しみませんから…陛下もご自分を大切にしてください。国の為にと御自身を犠牲にする様な事をしたらダメです!」
「しかも諭されたっ!!」
「そんな事なされずとも、私は何かあれば力になりますから」
お世話になったもの。 (ママはママだった)
「そうか…帝国民ではないから、効果がないのか!」
「そんなぁ…。ではアスカ様、まず我が国への多大なる貢献の御礼として帝国民としてお迎えいたします!」
「なんの騒ぎだ? あぁ? アスカもユウキも、勇者となった時に帝国民として、登録されているだろう」
「アリッサ、それは本当ですか?」
「当然だろう。他国へも跨いでの遠征をするのに身分証も必要だからな」
「そんな! ならばどうして私の命令が効かないのですか!」
「あぁん?命令…? どういう事だ…メリア、お前まさか皇帝権限で無理矢理手に入れようとしたのか!」
言葉の力としては知られてなくても権限って認識で理解はされてるのか…。 (なんでママに効かないの?)
言葉の力? (そう…)
そんなの理由は一つしかないじゃない。 (……! あぁ!)
でしょ? (確かに効かない!)
効いたらそれこそ世話ないよ…。




