9 ペンダント
食事が終わり、ミューが話しかけてきた。
「リリーちゃん、きょうもあそべる?」
「はい。いつ遊びますか?」
「おひるねのあとがいいな」
「はい。大丈夫だと思います」
「やくそくだよー」
「はい、約束します」
午前中はご用があるのかしら?
お昼寝の後とは15時頃かしら?
そうだ、と私は大事な事を思い出した。
「ルーさん!」
「なんで ルーさん?昨日はルーって呼んでいたのに」
「昨日は自分の方が遥か年上だと思っていましたが、今はどうも年下のようなので」
「リリーはおもしろいね。ルーさんよりルーが良いけどリリーに任せるよ」
「では、ルーさんで。それでですね、昨日は色々いっぱいいっぱいで、ろくにお礼もせず大変失礼いたしました。本当にありがとうございます」
「どうやら落ち着いたみたいだね」
「夢?の中で家族と話しました」
「それは良かった」
私はニコッとして元気をアピールしておいた。
「リリー様、この後お部屋へ伺っても宜しいですか?」
「はい。お願いします」
ハヤトが早速相談にのってくれるようだ。
一足先にマーサと共に部屋へ戻った。
「お茶の好みかご希望はございますか?」
「あまり苦くない自然な香りの物が好きです」
「では昨日と似た系統のお茶をご用意します」
「はい。お願いします」
マーサがお茶を用意し終わった頃ハヤトが訪ねてきた。
コンコンと、ノックの音がする。
「入ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
マーサがドアを開けに行った。
「失礼します」
ハヤトが手におやつを持って現れた。
ニコッと笑う。
「どうぞお掛けください」
「お招きありがとうございます。ほんの手土産です」
少しオチャメに笑い、マーサにおやつを渡した。
マーサはおやつを皿に取り分けてくれた。
美味しそうなクッキーだった。
「まずは、聞きたいことなどございますか?」
「何を聞けば良いのかがわかりません」
残念ながら、疑問を感じるほどの経験がまだ無い。
「生活に足りないものは何かありますか?」
「あ、それなら、日用品的な・・・」
「日用品は私が後で伺いましょう」
言葉に詰まった私にマーサが助け船を出してくれた。
「足りないとかではないのですが、ちょっとした疑問があるのですが、良いですか?」
「はい。答えられることならなんでも」
「ハヤトさんに最初にお会いしたとき言葉が通じたのはもしかして、私と同じペンダントをお持ちなのではないでしょうか?」
「ほとんど正解です。ただし、私のはペンダントではなく、このカフスボタンです」
「素敵なデザインですね」
おしゃれで実用品とは恐れ入る。
「もしかして、二人で手放すと誰も言葉が通じなくなるのでしょうか?」
「それは試してみないとなんとも言えませんが、・・・試してみます?」
「はい。良いですか?」
「ではちょっと失礼してカフスを外します」
カフスボタンを外し、手に持ったものをテーブルに置いた。
私もペンダントを外す。
適当に自己紹介をしてみた。
二人ともキョトンとしていた。
次にハヤトさんが話す。
ごく稀に聞き取れる単語があるような気がするが、取り合えず日本語ではなかった。
マーサが一生懸命何か言っている。
マーサの言葉はまったく聞き取れない。
ペンダントをかけ直し聞いてみる。
「そんな面白そうなこと私も」
ハッと私の方を見て胸元のペンダントを確認し、しまった!という顔をした。
結構オチャメだったのね。
そういえば、そんな感じはしていたか。
ハヤト曰く、私の言葉は単語すら聞き取れないそうで、静かな波の音を聞いているように聞こえていたらしい。
マーサ曰く、私の言葉は木の葉のすれるさらさらという音のように聞こえ、ハヤトの言葉は砂利道を踏みしめるようなジャリジャリと聞こえるらしい。
「この 翻訳機に名前はありますか?」
「なんとかの石って呼ばれていますが、なんという名前だったか・・・」
「使っているのが私だけでしたのでそのまま 石と呼んでいました。」
うーん。ルーに聞いた方が早そうだ。
「おそらく、沢山有るのだと思います。私が最初に貸していただいたのは指輪タイプでした」
「あ、仕事の邪魔になったのですね?」
「いえ、それまで指輪をつけたことがなくて、指にはめるという発想がなく、握ったままボケッとしていたら、嫌ではめないのだと思われたようで、タイピンタイプに交換されました。結局タイピンタイプは事故で壊してしまったので今のカフスをいただきました」
「なんと!そんな歴史が!」
ハヤトさんはだいぶ苦労したのかな。
私はきっと見た目年齢的にペンダントだったのね。
もう少しお年頃に見えていたら、ブローチとか指輪が出てきたのかしら。
「またいつでもお声がけください」
そう言ってハヤトは退室した。




