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36 姉妹婚

「これが私だよ、マリー。

 これからも一緒にいてくれる?」


 ヘルガは背中から漆黒の翼を広げ、宙に浮いて微笑んでいる。

 

 その姿を美しいと思ってしまうのは、オレがヘルガのサキュバスの能力で誘惑されてしまっているからではないと思う。


 尊敬するヘルガの変貌に驚いてはいるが、マリーは瞳を大きく開け、事実を受け止めようとしている。


「ヘルガ様。

その姿は……」


 ヘルガは、翼をはためかせ空中を移動し、マリーの側に来た。


「私ヘルガ・ロートは感情的になると魔族化するんだ。

 先祖帰りっていうらしいよ。

 サキュバスって言う魔族。

 淫魔のほうがわかりやすいかな」


 ヘルガは自分のことを飾らず伝える。

 マリーにわかってほしいから。


「……いつからですか」

「10歳のころから、かな」

「感情が動くと、魔族化してしまうんですか」

「そうだよ、だからずっとガマンして生きてきた。

 でもね、もうやめたんだ」


 ヘルガは、魔族になってしまう自分のすべてを見せた。

 マリー、お前はそれでも隣にいてくれるか?


「マリー、ギルドは魔族が街へ侵入してることを知ったらどうする?」


 オレはマリーに語りかける。


「それは……」


 マリーは、オレの質問に言いよどんだ。だって、魔族が街へ侵入しているなら討伐するしかないから。


「へルガが魔族だってことを知っているのは、まだ限られているけど、ミアの父親である領主が知った場合、ヘルガ討伐の命令が下る可能性がある。

 軍、あるいは冒険者ギルドへ」


 オレは、自然と奥歯を噛み締めていた。

 マリーもヘルガ討伐の可能性を否定できないのだろう。


「私にヘルガ様の討伐なんて出来るわけありません!」


 マリーは肩を震わせる。


「じゃあ、ヘルガ討伐の命が下った時に、冒険者ギルドを皆殺しにできるか」

「そ、それは……」


 マリーは下を向いた。

 

「そうだよな、出来ないよな」


 オレだってそう、一緒に戦ってきた仲間を皆殺しになんてできない。


「マリー」


 オレはマリーを見つめ話しかけた。


「ヘルガは、お前たちギルドのメンバーのことをみんないい奴らだって言ってた。

 だから、オレは冒険者ギルドに行ってみたかった」

「リク」

「すいません、いきなり戦いを挑んでしまって……」


 マリーはオレに平謝りした。


「だから、マリー。

 オレはお前に何があってもヘルガを裏切ってほしくない。

 何があってもヘルガはオレが守るつもりだけど、マリーに裏切られたらヘルガがかわいそうだから」

「リク様……本当にヘルガ様のことを愛していらっしゃるのですね」


 マリーは袖で涙をふいた。


「ずっと私がリクはいい人だって言ってるのに……やっと信じてくれたの?」


 ヘルガはなんだかとっても嬉しそうだ。


「マリー、ようやくリクを認めてくれたんだね、嬉しいよ」


 ヘルガは、マリーを抱きしめた。


「はい、ヘルガ様。

 リク様は、ヘルガ様にふさわしい素敵な旦那様です」


 マリーは頷いている。


「良かった、じゃあマリー。

 じゃあ、もう一度聞くよ。

 私と、リクの隣にずっと一緒にいてくれる?」

「はい!」


 マリーはニコニコした目でオレを見つめている。


「リク、マリーが認めてくれたよ。

 良かったね!」


 ヘルガがオレに飛びついてきたので、ぎゅっと抱きしめ返す。


「はい、次はマリーの番だよ」


 ヘルガがオレから距離を取るとマリーは頷いてオレに飛び込んできた。


 は?


 マリー・シュナイダー。銀髪長身。

 ヘルガに強いあこがれを持つ女の子。

 青い鎧がとても似合っている。

 ヘルガを一途に思う心のきれいな女の子だ。


 でもなんで、オレの腕に飛び込んできているの?

 反射的に抱き締めてしまったが。


「ヘルガ、なんでマリーはオレの腕の中にいるの?」


 ヘルガはニコニコしながら答えてくれた。


「え? だってリクはいい旦那様だもん」

 マリーにも姉妹婚してほしいよ」


 ヘルガはオレに抱きついてくるマリーを見ながらニコニコしている。


「あの、何?

 姉妹婚って……」


 オレはヘルガに尋ねる。


「リク、知らないの?

 奥さんから、その妹や妹分をヨメとして紹介される……

 奥様からの信頼と愛情がないとしてもらえないんだよ?」


 ヘルガはウキウキしている。

 うーん、姉妹婚かあ。

 50年前にそんな制度あったかなあ。

 

「でもヘルガがそこまでオレに勧めてくれるならマリーはいい女なんだろうな」


 ヘルガは満面の笑みを浮かべる。


「うん、いい子だよ。

 美人だし、スタイルもいいし……」

「そ、そんなに褒めないでください……」


 恥ずかしがってオレから離れ顔を真っ赤にしているマリー。


「マリー、一つだけいいかな」


 ヘルガがマリーに話しかけた。


「職場では、厳しい態度を取らなきゃいけない時もあるけど、同じリクの奥さんなんだから、友達になれないかな?」

「え、友達ですか?」


 マリーは言わずもがな、ヘルガも赤くなっている。


「嫌かな、私マリーと仲良くなりたいんだ」

「嫌なんてことは絶対ありません、な、仲良くします!」


 マリーの瞳はうるうるしっぱなし。

 ヘルガがマリーの手をとった。

 マリーはオレに抱き締められているときより顔が真っ赤だ。


「マリー、ねえ、名前で呼んで?」

「…ヘ、ヘルガ」


 噛み締めながら、その名を呼んでいる。


「そう、よくできました」

「ありがとうございます、ヘルガ様」

「こら」

「あ」

 

 二人は仲睦まじい。

 オレはちょっと妬けてしまうぞ。


「マリー。

 言うまでもないけど奥さんなんだから、私よりリクを優先するのよ。

 そうしないと怒るからね」

「は、はい」


 ヘルガはマリーに厳しく指示をした。


「おい、友達に指示するなよ」

「あ。

 それもそうだね」


 ヘルガが舌を出して笑った。


「いえ、先輩奥様の言うことは絶対です、リク様」


 マリーはヘルガの言うことを聞くのが楽しくて仕方ないみたいだ。

お読みいただきありがとうございます。

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