第一話
「よし、無事に転移完了だ」
「霊児ー、ここってどこなの?」
無事に転移すると、そこは俺達が先ほどまで居た部屋とは一変して、どこか高貴なる輝きがある部屋の風景だった。
転移先に疑問を覚えたエルジェは辺りを見渡しながら俺に問いかけてくる。
「魔王キースの部屋だ」
「魔王キース? それって、今現在世界を侵略しようとしている魔王ですよね?」
「そっ。ちょっと、ここには用事があって一度立ち寄ったんだ。えーと、確か机の上に」
必要なものがあるので、立ち寄ってもらった。
その必要なものとは、机の上にある数冊の黒いノートだ。それを見つけた俺は一冊を手に取り、後はエルジェ達に渡す。
「なにこれ?」
「秘策」
「秘策?」
「クロ。それじゃあ、もう一度頼む。おそらくキースは王の間に居るだろうからな」
「了解」
ノートを抱え、俺達は移動する。
そこは、だだっ広い空間。奥に王座があり、そこからまっすぐ入り口まで真っ赤な絨毯が伸びている。周りの柱は太く、そう簡単には崩れそうにない。
そして、目当ての魔王だけど。
「ふはははははは!!! 世界征服も順調のようだな! まったく、他の魔王どもはやる気がなくてしょうがない。こんなにも楽しいことをやらないなんて、頭がおかしいにもほどがある!!!」
魔王キース・D・アスフォード
四大魔王の中でも、魔法に長けてる魔王で、唯一世界を征服しようと考え、実行している。漆黒の髪の毛で、前髪が若干赤く染まっているツートンカラー。
キリッとした釣り上がった目つきにめがねが良く似合うイケメンだ。
魔王であらんとするキースの格好は、漆黒の衣を纏い真っ赤なマントを羽織って、おまけに穴あけグローブを付けている。
これぞ、魔王! とキースは主著しているようだが、穴あけグローブはどうなんだ? と正直に思う。
さて、のん気に説明していないで、ちゃっちゃと用事を済ませてしまおう。
「だいたい、奴らも奴らだ。この前の我が城で開かれた魔王会談に誰も来ないとは…。魔王としての自覚がないのか? まったく……俺がせっかく美味な菓子と紅茶を用意して待っていたというのに。職務怠慢も甚だしい!!」
……そんな会議あったっけ? と思いつつ、俺は手を挙げながら近づいていく。
「よう。キース。元気そうだな」
「なに? 貴様は……ほう。貴様、ゼルファスの魔力を感じるが、何者だ? それに、この城へどうやって入ってきた? 城の兵士には許可なく入れるなと伝えておいたはずなのだが」
もう友達感覚で声をかける。少々、体が撥ねたキースだったが、すぐに冷静になり俺がゼルファスと融合していることに気づいたようだ。
さすがは、魔王だけのことはあるな。
「まあ、話せば長くなるけど、今はゼルファスと融合しているってところかな? それと、ここにはクロの空間転移でちょちょっとな」
「ぶい」
背中を押しクロをキースに見えるように前に出す。
クロは、やってやったぜと言いたそうにピースをした。そんなクロを見たキースは目を丸くする。
「これは驚いたな。まさかあのクローナがこっちの世界に戻っているうえに……見知らぬ奴らと一緒に行動しているとはな」
当然のようにキースもクロが対人恐怖症でこっちの世界にいなかったのは知っていた。
俺をクロを、そして後ろで何かごそごそとやっているエルジェにレリルを見てさらに驚きの声を漏らす。
「クロは成長したんだよ」
「成長、か。それはわかった。で? 貴様らは、我がキース城へ何をしに来たのだ? 俺は、今後の侵略作戦のため、策を講じるのに忙しいのだが?」
「まあまあ。お前にとっても嬉しいことだと思うぞ? キース」
「ほう。その用件とは?」
興味があるという顔で耳を傾ける。
さて、ちょっくらお話でも始めるとしますか。
「俺達は、お前と友達になりたくてきたんだ」
「……なんだと?」
「友達だよ? キース」
「二度も言わなくても聞き取れている。友達になりにきただと? それはなんの冗談だ?」
あまり反応はよくないか。しかし、ここまでは想定内だ。ここからが、本番。
「冗談なんかじゃない。マジだよ、マジ。俺達は、お前と友達になりにきたんだ。嘘偽りなし。それに、俺達は魔王っていう共通点のある同士でもあるだろ? 友達になってもおかしくはないと思うぜ? クロもそう思うだろ?」
「うん。友達が増えるのは嬉しい。キース、どう?」
昔から誰よりも友達が欲しかったクロ。対人恐怖症になってからは、余計に心の底から思うほどだった。なので、キースの気持ちは痛いほど理解できている。
「冗談ではない。確かに、俺達は魔王同士。四大魔王とまで言われる魔王の中の魔王。会談だって何度もやった。だが! 友達などとその気にはなれないな!!」
強情な奴だなぁ。さっきまで、菓子と紅茶を用意して~とか友達を招き入れる準備万端なことを言っていたくせに。
仕方ない。ここで秘密兵器を出すとしよう。
「本当に、その気にはなれないか?」
「ああ、そうだ。友達など俺には要らぬ存在! さあ、用件は済んだか? ならば、早々に立ち去るがいい!!」
ドドン! と効果音が出るほどに言い切ってみせたキース。そんなキースに俺は、あるノートを突きつけた。
すると、それを見た瞬間、キースの表情は一気に歪んでしまう。
「き、貴様! そのノートをどこから……!」
「転移した先が、丁度お前の部屋だったんでな。失礼ながらちょっと拝借してきた。無用心に机の上に並べられていたからな。ほれ、俺の仲間達も興味津々だぞ?」
と、後ろでさっきから何冊もあるノートの表紙を興味津々に眺めているエルジェとレリルを指差す。
「すごい数だよね、このノート。何が書かれているんだろう?」
「魔導書と書かれていますが……どういうことでしょうか? 魔法を覚えるための本なんですかね?」
「ちょっと中身を見てみようよ!」
さすがエルジェ。遠慮などない見事な判断だ。
「だ、だめですよ! 他人のものを勝手に見たら!」
レリルは興味があるものの、良心がそれを許さないため、他人の本を見ようとするエルジェを止めている。
「えー、でもさ~。もう他人のものを勝手に部屋から持ってきているわけだし。見ても同じじゃないの?」
「そ、それは……確かに、そうですけど」
「じゃあ、見るってことで!」
そう言って、一冊目を開こうとするエルジェだが、キースがここ一番の必死な声を張り上げる。
「やめるんだ! それを開くんじゃない!!」
「え? どうして?」
その声と表情から、かなり焦っているとすぐ理解できる。自分では冷静になっていると思っているだろうが、俺達には焦っているようにしか見えない。
キースはすぐに、ズレ落ちた眼鏡をくいっと上げ直してからこほんと咳払い。
そして、ノートを開こうとしているエルジェにこう告げた。
「それは呪いの魔導書だ。そいつは悪魔でも耐えることのできない暗黒の力が宿っている。そいつを開けば忽ち貴様は、死に至るほどの呪いをその身に受けるだろう。俺は、そうならないよう親切心で止めてやったのだ。さあ、わかったならそのノートをこちらに」
と手を伸ばすが。
「なになに? 友達の作り方第一章? 友達を作るにはどうすればいいのか。わからない。友達を作るには」
「おい! 人の話を聞いていたのか!? 貴様!?」
キースの忠告を無視して、エルジェは普通にノートを開き読み始めていた。
「え? 聞いてたよ? でも、私天使だし。そいういう呪い系統は効かないんだよ。神様の祝福みたいなもので。だからほら? なんともないでしょ?」
ほら? となんともないことを訴える姿と説明にキースは、ぐうの音もでない様子。確かに、イメージとしてはそういう能力があってもおかしくはない。改めてエルジェのことを【ステータス眼】で確認したところ、そういうスキルを発見した。【聖天の加護】というもので、呪い系の術を全てを無効化するものらしい。
どうしようもない奴だが、天使は天使ということだろう。
「隠す必要はないだろ? キース。いや、もうあんなものは要らないというのが正しいか?」
「なんだと?」
「あんなもので、どうやって友達を作ればいいか。どうやって友達と接すればいいか。なんて妄想の世界に入ることなんてマネはもうしなくていいんだ。俺達が、友達になってやるからな」
「ふ、ふざけるな! 俺は、魔王だ! 魔王に友などという弱者の真似事など……!」
どこまでも魔王らしく居ようとキースは、俺の誘いを否定する。
「私も魔王だけど、友達は居るよ?」
「俺は、貴様とは違う!」
強情だなぁ。誰よりも友達を欲しがっている奴が何を言うのか。ゼルファスの記憶通りなら、キースは昔から孤高なる魔王に憧れていた。
それゆえに、誰とも仲良くせずに友達を作らず、魔王としての勉学と特訓に日々励んでいた。
生まれ持っての才能もさることながら、日々の特訓などで今では立派な魔王。他の三人とは違って、魔王らしく世界を侵略しようとダンジョンを出現させたり、部下などに村や町などを襲わせたり。
だが、そんな中でキースは友達が欲しい欲求が溜まっていき、このようなノートを書くことになってしまった。
部下などには尊敬され、頼りにされている。
でも、それは友達ではなく”部下”だ。
平和を求めていたゼルファスは、そんなキースと友達になりたいと思い魔王会談などを定期的に開くことにした。
会談と言っても、ただ他愛のない世間話を菓子を食べ、紅茶を飲みながらやっているだけ。
前魔王であるグリドやクロ、ゼルファス、そしてもう一人の魔王ルヴィアは強情で、本当は寂しがり屋なキースを気遣っていたのだ。
「キース。素直になるんだ。お前は、誰よりも友達を作りたかったんだろ?」
「ち、違う! 俺は、孤高なる魔王なのだ! 友など……友など!!」
何度も何度も否定するが、最初のキースと違って声が震えている。いや、おそらく魂も震えているはずだ。よし、このまま押し切る!
「キース。友達が居れば、今よりもずっと楽しいよ? 私も、今がすっごく楽しいから」
「お、俺だって楽しいさ! 世界が少しずつ俺のものになっていくのがな!! ふははは……アーハッハッハッ!!!」
ついには、狂ったかのように高笑いをする。しかし、それでも俺達はキースを誘うのを止めない。
「本当に、それは”楽しい”って言えるのか?」
「な、なんだと?」
俺は静かに語っていく。その楽しさが本当にキースが求めていた楽しさなのかを。
「お前が求めている楽しさっていうのは、もっと違うものなんじゃないのか? 確かに、魔王としてはそれで楽しいだろうさ。だけど、キース自身はどうなんだ? 一人の男キース=D=アスフォードとしての楽しさはなんだ?」
「俺、としての楽しさ?」
折れじと説得を続けたところ、ようやくキースの勢いが削がれていく。
「そうだ。お前はもっと別の楽しさを必要としているんじゃないのか? そう。例えば、友達と一緒に遊ぶ、とかな」
「友と共に……」
俺は、沈黙するキースへとゆっくり近づいていくと、クロもそれに続く。
目の前に立った俺は右手を差し伸べた。
「手を握るんだ。そして、名前を呼んでくれ。そうしたら、今日から俺達は”友達”だ!」
「友……こんな俺と本当に友になってくれるいうのか? お前達は?」
「もち」
クロも、その小さな手をキースへと差し伸べた。
「私も! 私も!」
「私もです」
「お前達……!」
今までノートを読んでいたエルジェとレリルもまぶしいばかりの笑顔で、手を差し伸べる。
「さあ、キース」
「キース」
「キース!」
「キースさん」
戦う必要なんてないんだ。こうやって手を差し伸べ、絆を繋げれば相手が魔王だろうと。
「ぐっ……! お、俺は……俺はぁ!!」
今まで強がっていた分、大粒の涙を流し、キースは俺の手を掴む。
そこへ、クロにエルジェ、レリルが重ねるように手を包み込んだ。
「寂しかった……! ずっと、ずっと友を……! 一緒に笑って居られる友が欲しかったんだ!!」
今までの寂しい日々が全て涙と口から零れていく。そこに居るのは、魔王なんかじゃない。ただ友達が欲しかった一人の男だ。
「おう。今日からは俺達が友達だ。キース」
「これで涙を拭いて、キース」
「よーしよし! 泣かないで~、キース」
「このノート。勝手に持って来てしまってすみません。キースさん」
よかったな。美少女三人に慰められているなんてそうはないぞ、イケメンくん。
「ま、魔王様!! いったいどうなされたのですか!?」
「貴様ら! 魔王様に何をしているか!!」
これにて一件落着! とは行かず、やはりキースの部下達が俺達の進入したことに気づいてやってきたようだ。明らかに、敵意むき出しで武器を構えるが。
「控えろ! 貴様ら! この者達は俺の友だ!!」
と、先ほどまで泣いていたキースが部下達に叫ぶ。その姿は、まさに魔王という風格がある。マントを翻し、手を前に出して静止させるような格好をしている。
「ご、ご友人ですか?」
「ですが、明らかに天使という天敵が」
キースの言葉は信じたい。しかし、明らかに天使という天敵が居ることに部下達はつい疑ってしまっている。
自分を見ていることに気づいたエルジェは私? と自分に指差す。
が、キースは揺るがない。
「くどい! この者達は、俺の友としてこの城に招いたのだ。これから遊ぶためにな!!」
更に衝撃の言葉を聞き、もう部下達は叫ばずには居られなかった。
「あ、遊ぶですと!? 魔王様! いけません! これから、大事な会談が」
「そんなもの後回しだ!!」
「ええええ!?」
「魔王様! 何をおっしゃられているのですか!?」
もう、部下は呆気に取られるばかりだ。キースは、友達ができたことでテンションが上がりに上がっているらしい。うんうん、何かが吹っ切れた感じでいいことだ。
「クローナ。そういうわけだ。さっそくだが、お前が移住している世界へと連れて行ってくれ。そこの娯楽で思いっきり遊ぶぞ!!」
驚く部下達を背に、バサッとマントを翻すキースは、もうわくわくが止まらない様子。
「だそうだぞ。行くか? クロ」
「もち」
「よーし! じゃあ、さっそく帰ろう!!」
「お邪魔しました」
やることはやったと、クロの周りに集まる。そして、今のに空間転移をしようとしたとことで、ハッと我に帰った部下達は、慌てて止めようと駆け寄ってくるも。
「今日は戻らぬ! 俺が帰還するまで勝手な行動はするなと他の部下達にも伝えておけ!!!」
「ま、魔王様ー!!!」
「お、お待ちをぉ!?」
「ふはははははっ!!! 俺は友の家に遊びに行く!! 土産を買ってきてやるから楽しみしているがいい!! さらばだぁ!!!」
《魔王様ーー!?》
こうして、ラスボスであろう魔王キースと俺達は友達になった。
帰って早々キースは翻訳魔法により地球の文字を理解し、エルジェ達と楽しくゲームをしたり、漫画を読んだり、ご飯を食べたりと、孤高なる魔王とは思えない笑顔を見せた。
そんで、一週間が経とうとしていたある日の昼時。
俺は、リーさんが昼飯を作ってくれたので、二階で遊んでいるゲーマー達をクロと一緒に呼びに来ていたのだが。
「わー! わー!! か、回復薬がなくなっちゃった!?」
「待っていろ! 我が友エルジェよ! 受け取るがいい。俺の回復薬を!」
「あ、ありがとう! キース! 助かったよ~」
「ふっ。気にすることはない。俺とお前は友ではないか?」
「キースさん! 尻尾を切るチャンスです!」
「任せろ! レリルよ! 行くぞ!! 我が懇親の一撃を、食らうがいい!!」
「おお!! 切れたー!!」
「ふはははは!! 絶好調である!!」
「……もうすっかりと馴染んでいるな。キースの奴」
「だね。あれから、毎日来てるからね」
エルジェ、レリル、キースの三人は狩りゲーで協力プレイをし、大盛り上がり。あれから、キースはクロの空間魔法を応用した【転移札】というのを作り上げたのだ。
魔法を込められ札に、クロの転移魔法を込める。
一度きりの使い捨てだが、これでいつでもこっちに来れるようになったキースは毎日のように地球に遊びに来ている。
毎回のように札に魔法を込めるクロは疲れるが、友達だからということで仕方なくやっている。
「あの調子で、世界征服は大丈夫なのか?」
「それなんだけど、世界征服はやっていないようだよ?」
「マジか。まあ、そうなっているなら作戦成功と言ったところなんだけど」
今回の作戦は、キースと友達になることと、それにより世界征服を止めることだったから、成功といえば成功だ。
ただ問題があるようで。
「でも、そんな魔王に愛想を尽かした部下達が自分達で世界征服をしているみたい。それでも、仕えている部下のほうが多いらしいけど」
「だろうなぁ。これで世界が平和になれば苦労はしないってことか。まあ、ラスボスを仲間に引き入れられたから何とかなるだろう」
「うん」
さて、いつまでもゲームをしていたら昼食が冷めてしまう。
「おーい! お前達ー! 昼飯だぞー! ゲームをやめて一階に来い!!」
「はーい!」
「わかりました!」
「承知した。我が親友霊児よ」
なんで、俺だけ親友なんだよといつも思うのだが、ゼルファス自身であるなら一番古い付き合いということで間違ってはいないのだろうが。
にしても。
(結局、冒頭とあまり変わっていないような……)
とはいえ、ラスボスはもういないから、今後は激しい戦闘はないだろうという安心感は得た。今後は、いつでもゆるりとした冒険ができるだろう……たぶん。
一話目からまさかの超展開!
次回は、ちょっと落ち着きます。たぶん。




