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私にとって、腕を組んで歩く男女はラブラブ恋人同士の象徴だ。
遥か昔、私がまだキャッキャウフフしていた時代も体を密着させてラブラブやっていた……ような気もしないでもないような、やっぱりしてないような……?
とにかく、異性と腕を組んで歩くのは恋人や夫婦がする行動に私の中では分類されるのだ。
「さすがに緊張しすぎではないか?」
ハリストール殿下が、ちょっと呆れた顔でフェルーク様の隣でガッチガチに固まって歩く私にそう言った。
私の緊張の理由を正しく理解しているであろうメルリーサ様は困った様な心配したような顔だし、フェルーク様も少し眉を下げている。ちなみにロダンは通常営業だ。
準備が終わり、休憩がてらメルリーサ様と時間までお部屋で過ごしていると、ハリストール殿下とフェルーク様が迎えに来た。
パートナーだからと、お二人は会場までエスコートしてくれるらしい。というか、そういうマナーらしい。へぇー。
と、言うことで、メルリーサ様はハリストール殿下の腕に自然とその白魚のような手を絡め寄り添い、並び立った。出発準備OKという具合に。
そして当然、私もフェルーク様にエスコートされるのだが、フェルーク様がエスコートのために差し出した手に触れ、その手から腕に私の手を移動してエスコートの定位置についた瞬間、私はガッチガチに固まってしまった。
いや、だって、腕に触ってるからさ、意外に逞しいんだな、とか異性を感じてキュンが来てしまって、しかも思ったより相手との距離が近いもんだから、色気がチラつくんですよ。ちょっと横見たらすぐにご尊顔が!
あーーーーーーー!前以外見れない!
「夜会は初めてじゃないだろ?」
「そ、そうなんですが。」
ハリストール殿下は夜会に参加するので緊張していると思っているのか。
確かに、夜会に参加するのは初めてじゃない。
それに、フェルーク様にエスコートされるのも初めてじゃない。
でも、あの時と今では、状況が変わった。主に私の。
だって、あの時は今ほど意識してなかったんだもん。むしろ意識しないように努めてたと言いますか。
しかも、今は告白しようとかしている身の上で、恋する乙女キュンキュンモード全開状態なんですよ!?さすがに花も恥じらう!
そのうえ、そのうえ!フェルーク様、正装で王子様度アップで恋する乙女フィルター通しちゃったから控えめに言って素敵すぎてキラキラと色気が尋常じゃないんです!つまり、意識しまくってるんです!ああ、私、
「私、可笑しいのかもしれません。」
「何だ。じゃあいつも通りだから問題ないな。」
落ち武者ヘアーに毟んぞ。
ハリストール殿下は何かを感じたのか、素早く頭を急に押さえてキョロキョロしだした。
「……何をなさっているのですか?」
メルリーサ様が生暖かい笑顔でハリストール殿下を見上げた。
「あ、いや。何か、ちょっとヒュッとこの辺が。」
そう言ってハリストール殿下は自分の額から頭頂部までも何度も撫でつけた。
殿下は少し震えているようにもい見えるが、メルリーサ様はそれを静かに微笑んで見守るだけにしたようだった。
「兄上、時間が過ぎてしまいますよ。」
見かねた様にフェルーク様がハリストール殿下に声をかけると、殿下もハッとしたように姿勢を正し、咳ばらいを一つした。
「ごほん。では、参ろうか。」
そうして、私達はメルリーサ様の部屋を後にした。
馬鹿なやり取りをしたおかげで、私の緊張も少し和らぎ、普通に歩きだすことができた。
「ねえ、ニーナ。」
会場へ向かい廊下を暫く歩いた頃、フェルーク様が耳打ちするように少し私に体を寄せた。
「な、なんですか。」
急な接近、マジ止めてください。
和らいだ緊張は少しなんで。私は転ばないように、必死に前だけ(主にハリストール殿下の頭)を見て足を動かした。
「もしかして何だけど、僕のこと、すごく意識してくれてる?」
耳元で囁かれたその言葉に、私の肩が跳ねた。
その反応に、彼が笑みを深めたことが空気で伝わってきた。
「ふふっ。それに、そのドレス。着てくれたってことは、僕、期待しちゃうよ?」
もう、そのドレスの意味は、分かってるよね?
そしてフェルーク様は、彼の腕に添えた私の手に己の手を包むように重ねた。
こ、これ以上の接地面の増加はご遠慮願います。切に。




